見出し画像

思いやり緩衝帯

第3回 国吉藝文祭  @いすみ古材研究所

 6月25日(土)、国吉藝文祭がいよいよ再開します。少し長くなりますが、今回の出展者のひとつをご紹介します。

【VISION GLASS(ビジョングラス)/國府田商店@東京】

1)「VISION GLASS」と「NO PROBLEM」

 VISION GLASS(ビジョングラス)は、インドの理化学用ガラスメーカーBOROSIL(ボロシル)社の製造するシンプルな耐熱グラスである。凛としたデザインで過度な主張をせず、熱にも強いので、普段使いにちょうどよい。PRはいすみ古材研究所と同じく板垣潮美さん。また、目盛り付きの実験器具は、ガラスとインクの収縮率に差があるのだけれど、その許容範囲が日本とインドでは異なるそうだ。そのため、BOROSIL社の実験用グラスが日本の研究現場では使えないことを逆手にとり、目盛りをつける前の状態で仕入れたものを日用品として販売もしている。

 商品販売と併行して、「NO PROBLEM」という活動も行なっている。日本とインドでは検品の合否ラインにも著しい差があり、仕入れた商品の多くが日本ではB品となってしまっていたそうだ。現地の工場にそのことを説明しても、口癖のように「No Problem! 全然使えるよ、そんなこと気にすることないよ!」と笑顔の返答。確かにその多くは、見た目に少し違いがあるだけで使用上は”問題ない”。小さな気泡が入っていたり、微かな擦り傷があったりする程度だ。しかし、日本ではそれらをB品にするのが当たり前になっている。この違いは何だろうか?それをこれまで通り続けてもよいものだろうか?との疑問から活動をスタート。そして、「NP(NO PROBLEM )品」と銘打ち、A品と区別しながらも、実験的にA品と同価格で販売している。これは、日本とインドでの、ものづくりの精度や民族的な気質の違いの話ではない。日本のものづくりの現場でも検品問題は深刻である。


2)思いやり緩衝帯

 「NO PROBLEM」は、モノやサービスの送り手と受け手、それぞれの許容ラインの問題である。その引き方は、思いやりと私益、どちらを重んじるかで様子が変わってくる。思いやりを重んじれば、送り手(贈り手、つくり手、売り手)は受け手に気持ち良く受け取ってもらうため、できる限りモノやサービスの品質の向上に努める。日本人特有の、この弛まぬ努力は、”MADE IN JAPAN”や”おもてなし”として世界的信頼を得ている。一方、受け手も送り手を思いやれば、謙遜して余りにもの品質は求めず、贈り物に対して一旦は断りを申し入れる作法も残る。

 つまり、相手を思いやれば、送り手は、送るモノやサービスの許容ラインを高く高くと設定し、受け手は、受けとるラインを低く低くと設定することになる。そこに生まれるギャップはグレーゾーンとなり、かつては、商売をそれだけでは終わらせない”思いやり緩衝帯”となっていた。何かおまけしてあげたり、傷モノを通常価格で買ってあげたりと、持ちつ持たれつの人間関係を残しながら商取引が行われていた。最近はそれらを目にする場面も少なくなったが、筆者が子供の頃は、そのようにふるまう大人たちを当たり前のように目にしていた。”思いやり緩衝帯”は、その時々の双方の事情により使い分けられる。例えば、自分や家族が用いる品であればNP品で構わないけれど、贈答品や来客用であればA品に限るというように。

 これまでの話は、お金が絡んでいないときも絡んでいるときも、地続きにつながった話である。海外観光客から評価の高い旅館やホテルの”おもてなし”だって、商売でやっていることとはいえ、採算やブランドイメージだけではない、純粋な思いやりが上乗せされているからこそ彼らを感動させるのである。一方、感動を抱くのだって、お金を払っていてもそれを当たり前には思わない謙遜の気持ちがあるからこそである。


3)思いやりシステムを取り戻す

 けれども、”思いやり緩衝帯”は今ではかなりの部分が失われてしまった。顔の見えない取引が、人を”思いやりマインド”から”商取引マインド”へとすっかり変えてしまったためだ。売り手(送り手)は私益を重んじれば、経費は小さく、利益は大きくしようとする。つまり、モノやサービスの品質の許容ラインを低く低くと設定する。そして、買い手(受け手)は、より安く、より高品質なモノやサービスを手に入れようとする。つまり、許容ラインを高く高くと設定する。それら二本の許容ラインは折り合いがつくところで一本に収束する。そこにグレーゾーンは許されない。グレーゾーンだったはずのモノはB品、あるいは廃棄となる。農作物の廃棄問題もその一例である。「NO PROBLEM」は、送り手と受け手の架け橋となり、今一度、”思いやり緩衝帯”という、人々が思いやりを発動しやすくなるシステムを取り戻そうとする活動とも言える。今回は、いすみで農作物の廃棄に直面する人達と、「NP品」について意見を交わしにやって来る。


NO PROBLEM


第3回 国吉藝文祭の案内


国吉藝文祭の紹介「文化的栄養と自然的栄養」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?