河田 雅圭

進化の研究をしています。/東北大学教養教育院・グリーン未来創造機構・生命科学研究科/ …

河田 雅圭

進化の研究をしています。/東北大学教養教育院・グリーン未来創造機構・生命科学研究科/ プロフィールや研究など以下のページを参照ください https://ochotona0.wixsite.com/mysite

マガジン

  • 生物はいかに進化するのか

    生物進化に関わるあらゆる話題についての解説記事です。人の進化に関してはマガジン「 進化的視点から人について考える」に収録します。

  • 生物多様性と進化

    生物多様性とは何か。生物多様性はいかに生じ、進化してきたのか。また生物多様性はどのような役割を持っているのか。これらの問題に関する記事を維持を公開します。

  • 進化的視点から人について考える。

    ヒト(ホモ・サピエンス)は、20万年から30万年前に誕生してから、気候変動などさまざまな外部の環境変動や自らがつくりだした環境(農耕による食べ物や社会環境など)に影響を受けながら進化してきた。現代あるいはこれからの人間社会を考える上で、ヒトがいかに進化し、現在も進化しているのかという視点は欠かせない。本マガジンでは、ヒトの様々な特性の進化や進化的視点に基づいた現代社会について考察した記事を掲載していく。

最近の記事

  • 固定された記事

あらゆることに進化が関与している

地球上にはなぜこんなに多様な生物がいるのか?といった問題に限らず、なぜ人は個人個人で異なるのか、また、あるときはお互い協力するのに、あるいときは敵対するのか?といった問題もヒトが進化してきたプロセスが関与しています。  私が大学院生として進化の研究をはじめた1980年代は、進化論論争の時代といわれ、様々な理論が提案され、その妥当性について激しい論争が生じていました。当時は、ダーウィン進化論から発展したネオダーウィニズムとよばれる学派が主流であり、進化の原動力としての「自然選

    • 新型コロナウイルスの進化と感染症の傾向

      新型コロナウイルスの進化とはなにか   「時間とともに集団の遺伝素材(genetic material)が変化する過程である」が進化である。新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)は、自らのゲノム(RNA配列)が突然変異によって変化した変異株(異なる配列をもったウイルス粒子)が、ウイルスの集団に頻度を拡大したり、消失したりしており、まさに、進化しているといえる。新型コロナウイルスは急速に進化し、その進化はリアルタイムで生じており、観察可能である。  ウイルスは生命ではない

      • 「利己的遺伝子」の誤解を招かない使い方

        本記事を修正・加筆した記事が、以下の新書の第3章に収録されています。 「利己的遺伝子」とは「恋をするのも、争うのもすべては遺伝子の思惑通り?」これは2022年科学道100冊に選ばれたリチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」(1)の紹介のタイトルである。このような表現は、生物のあらゆる性質は遺伝子にとって有利に進化した結果である、ということを示唆したものだ。あまりにも表現が「俗っぽい」ので、うさんくさい、と思う人もいれば、深い理屈は考えずに、そうかもしれないと思う人もいるか

        • 進化における「適応」という言葉をめぐって

          適応の意味とは 日常生活で、「新しい職場の環境に適応できない」というふうに、その場の状態や条件にうまく対応できることのような意味で「適応 (adaptation)」という言葉を用いることが多い。たとえば、温暖化に対する対応としてもちいられる「適応」は、気候変動による影響に対応して被害を軽減するためのアクションという意見で用いられている。一般的な生物学的意味としては、「ある生物が環境に適合している」ことという意味とみなされることが多い。  しかし、進化学では「生物が環境に適合

        • 固定された記事

        あらゆることに進化が関与している

        マガジン

        • 生物はいかに進化するのか
          6本
        • 生物多様性と進化
          3本
        • 進化的視点から人について考える。
          9本

        記事

          老化の進化:なぜ老化しない生物がいるのか?

          なぜ生物は老化し、死ぬのか 老化(Senescence)あるいは生物学的加齢(biological aging)とは、年齢を経るにつれて死亡率が増大するような生物の生理的状態の変化のことだ。多くの生物は、年を取るにつれて、次第に体の状態が衰え、最終的に死に至る。年齢とともに病気に罹りやすくなったり病気で死亡しやすくなるすることは、老化が原因である。一方、生物は、偶然の事故や自然環境の変化で死亡したり、捕食者に食べられたりして死亡することもある。このような年齢とは独立した外的

          老化の進化:なぜ老化しない生物がいるのか?

          犬はなぜ多様に進化できたのか:祖先の遺伝的多様性の役割

          ダーウィンと犬の進化 ダーウィンは、犬を大変愛し、彼の進化論は、犬なしでは誕生しなかったといわれている(1) 。同じ種内で、犬は、大きさ、形や色のパターン、行動など非常に多様な特徴を持っている。様々な性質をもった犬の品種(犬種)は、人為的な選択によって創り出された進化の結果であると考えられる。しかし、他の愛玩動物や家畜動物に比べても犬の多様性は高い。人間が関わっているとはいえ、なぜ、このように多様に進化できたのだろうか。  ダーウィンの進化論から約160年後、ようやく、犬の

          犬はなぜ多様に進化できたのか:祖先の遺伝的多様性の役割

          SARS-Cov-2はどのように進化しているのか: 新型コロナウイルスの進化

          コロナ感染症(Covid-19)の流行とコロナウイルスの進化 感染症の単純な数理モデルによると、感染した宿主の数が減少していくのは、すでに感染し、免疫を獲得した個体が集団に占める割合が高くなったとき(すなわち集団免疫が獲得されたとき)であると予測される。  しかし、これまで過去二年以上のコロナ感染症(Covid-19)の状況をみてみると、充分に集団免疫が獲得される前から感染状況は減少していく傾向が見られている。このような減少がなぜ生じているのかについては、明確な答えは出されて

          SARS-Cov-2はどのように進化しているのか: 新型コロナウイルスの進化

          ヒトは、アフリカのどこで誕生したのか?

          アフリカでのヒトの祖先集団の複雑な関係 ヒト(ホモ・サピエンス)は約20万年前にアフリカで誕生し、5から6万年前にアフリカを出て、世界の各地に拡散した(ヒトの進化に関しての解説は、以下を参照)。 ヒトが、アフリカで誕生したことは、ほぼ間違いないと思われる。しかし、アフリカのどこで誕生したのかについては、いくつかの異なる説がある。また、どこか1箇所でヒトが誕生したのかも不確定である。  ホモ・サピエンスが誕生したと考えられる30万年から20万年の間、異なる性質をもった集団

          ヒトは、アフリカのどこで誕生したのか?

          「種の保存のための進化」はどこが誤りなのか

          本記事を修正・加筆した記事が、以下の新書の第3章に収録されています。 レミングの集団自殺? レミングとは、主にツンドラ地域に生息するネズミの仲間で、3年から4年周期で個体数が急激に増減することが知られている。特に、レミングイヤーと呼ばれる年には、その数は激増し、集団移動をすることがある。この集団移動の時に、多くの個体が海に飛び込み「集団自殺」をするという"迷信"が広まった。この迷信の原因の一つが、1958年に制作された「白い荒野」というディズニーの映画である(ムービー1)

          「種の保存のための進化」はどこが誤りなのか

          古代人・現代人ゲノムから探る人の「こころ」の性質の進化

          「こころ」の性質の進化をさぐる 「こころ」、あるいは精神的な性質は、人によって様々である。たとえば、ものごとをネガティブにとらえる傾向が強い人もいれば、ポジティブにとらえる人もいる。また、自己抑制的な人もいれば、衝動的な人もいる。また、ヒトが幸福を感じるかどうかは、その人の置かれた環境や状況が同じでもより幸福感を感じる人とそうでない人がいる。このようなこころの性質は、人が誕生してから、現代までに変化してきたのだろうか?  これまで、こころや精神にかかわる進化は、人と近縁な霊

          古代人・現代人ゲノムから探る人の「こころ」の性質の進化

          人はなぜ宗教を信じるように進化したのか

          なぜこんなにも多くの人が宗教や超自然的存在を信じているのだろうか 正月、近所の神社に行くと、厄年を迎える人の生まれた年が大きく看板に書かれている。私は、宗教や神の存在は全く信じていないが、看板に書かれた年が自分の生年と一致していると、何の根拠もなく今年は病気に気をつけようとか、お守りぐらい買っておこうか、などと一瞬考えてしまう。これは、人を宗教にひきつける、人間の心理をついた「うまいやり方」である。将来への得体の知れない不安に対して、超自然的なものに頼ろうとする人間のもつ心

          人はなぜ宗教を信じるように進化したのか

          生物多様性は感染症リスクを減少させるのか増大させるのか

          生物多様性と人獣共通感染症リスク  生物多様性の減少は、生態系がもたらす様々な恩恵(生態系サービス)を減少させることが予測されることから、生物多様性の保全は、SDGs(持続可能な開発目標)でも重要課題とされている。そのような状況の中、新型コロナウィルス感染症の流行は、人間の開発による生態系への影響が原因の一つであるとする論調が多くみられる。野生生物の中で保持されているウイルスなどの病原体が、自然の開発(生物多様性の減少)によって、人間に感染するリスクが増大する、という考えで

          生物多様性は感染症リスクを減少させるのか増大させるのか

          人類の進化史と病気の進化

          ヒトの病気と進化 2020年はじめから急速に拡大した新型コロナウィルスの影響により、2021年8月21日現在、全世界での感染者は2億1千万人、死者は440万人に達している。このようなウィルスや細菌などの感染症は幾度となくヒトの歴史や進化に大きな影響を与えてきた(新型コロナウイルスによる感染拡大は人為的流出の可能性もあり、その場合は人類にとって初めての経験となる)。たとえば、近代の歴史でみると、ヨーロッパ人がアメリカ大陸やカリブ諸島に持ち込んだ様々な伝染病により、免疫をもたな

          人類の進化史と病気の進化

          カリブ諸島のヒトと動物の移入・絶滅の歴史

          キューバとカリブ海の島々 毎年夏から秋になると、アノールトカゲというトカゲの研究のためキューバを訪れていた。残念ながら2021年と2020年はコロナウィルスの影響で調査は中止になった。キューバは、カリブ海に浮かぶ島々のなかでもっとも大きい島だ(図1)。これまで9回の訪問で、キューバの様々な場所を訪れたが、都市ハバナや地方でも治安はよく、大学教員の給与が2,3千円という経済的には厳しい状況でもみんな明るく、前向きに生きているように感じた。また、カリブの島々では森林の多くが消失し

          カリブ諸島のヒトと動物の移入・絶滅の歴史

          食生活の変化による脂肪酸代謝の進化:植物性脂肪か動物性脂肪か

          健康食事法は1万年前から変わらないのか? 油(脂質)の取り過ぎは体に悪いと思っている人でも、「青魚に含まれるDHAやEPAは健康によさそう」、とか、「油のなかでもエゴマ油や亜麻仁油がいいらしい」と思っている人は結構いるのではないだろうか。そうだとすると、魚を毎日食べている漁師さん、もっと極端にいえば、北極圏で魚をたくさん食べているイヌイットの人たちはより健康なのだろうか?  パレオダイエットという健康食事法がある。人類はホモ・サピエンスへ進化する以前から何百万年にもわたって狩

          食生活の変化による脂肪酸代謝の進化:植物性脂肪か動物性脂肪か

          ビール酵母の進化とビールの多様化

          私は、基本的にお酒はビールしか飲まない。以前はラガービール(サッポロ黒ラベル)が定番だった。しかし、最近のお気に入りはIPA(インディア・ペールエール)、それも少しアルコール度数の少ないセッションIPAである(たとえば"Coedo 毬花"や"ホップ農家と醸造家が奏でるSESSION IPA"など)。IPAは、ホップを大量に使用した、爽やかな苦みのきいたビールだ。私がビールについて少し調べてみようと思ったのも、IPAを飲んで、クラフトビールのおいしさにはまったことが切っ掛けであ

          ビール酵母の進化とビールの多様化