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「3Dプリンターの家」による新しいライフスタイル

1.3Dプリンターの家「Sphere(スフィア)」の革新性

 2022年3月、愛知県小牧市に3Dプリンターの家、「Sphere(スフィア)」のプロトタイプが完成した。広さ10平米の球体状の構造で、広さは10平米、完成までの所要時間が合計23時間12分で300万円で販売が予定されている。
 まずは、グランピング用途として10棟を建設し、2022年8月には一般向けの販売もスタートさせる見込みだ。10平米を超えない場合、現行の建築基準法外の建物と扱われ、水回りの設備はない。一方で、スマートロック、ヒューマンセンサーといったIoT、オフグリッドの電力システム、個人用ロボット等の最先端技術が多数導入されている。
 このプロジェクトを手がけているのは、兵庫県西宮市にある企業、セレンディクス(COO飯田国大氏)である。
 飯田氏は「100平米で300万円の家を実現すること」を目指している。これが実現すれば、住宅ローンがなくなるかもしれない。
 海外の3Dプリンター住宅とスフィアの違いは以下の通りだ。
 第一に、「鉄筋などの構造体が必要ない」こと。鉄筋を使わなくても、壁厚30cm以上、10平米で重さ22トンのコンクリート構造にすれば十分な強度が得られる。しかも、単一素材で建設することで資材コストを抑え、3Dプリンター活用により人件費を抑えている。
 第二に、3Dプリンター建設にマッチしたデザイン開発である。レンガ、木造といった既存の建設手法を3Dプリンターに落し込むのではなく、素材や3Dプリンターの特性を生かしたデザインを開発することで、資材コスト・人件費・施工時間を抜本的に改革した。その結果、施工時間を計24時間以内に抑え、既存住宅の10分の1の価格を実現することが可能になったのである。
 セレンディクスは、「Sphere(スフィア)」に続き、通称「フジツボハウス」のプロジェクトも進行している。「フジツボハウス」は、建築基準法に準拠し、鉄筋構造を含めた49平米の平屋で、慶應義塾大学の研究機関と共同開発したもので、2023年春までに500万円以下の価格で販売する予定だ。

2.工法、素材を生かしたデザイン

 私は3Dプリンターによる球体の住宅を見て、蜂の巣を思い出した。鉢の巣も3Dプリンターのように蜂が口から液体を吐き出し、それが固まって形作られる。その結果、六角形のハニカム構造を構成し、ハニカム構造が強度を高めているのだ。同様に、3Dプリンターに相応しい形状があるだろうし、コンクリートを使用する場合は球体なのかもしれない。
 海外の3Dプリンター住宅を動画で見たが、それはレンガを積んでいくように見えた。レンガの壁が建造物を支えているイメージだ。
 日本の木造軸組構造を基本に考えれば、3Dプリンターを使って固い素材で柱を立てようとするかもしれない。それでは効率が悪くなってしまう。やはり、3Dプリンターに相応しい形状があり、それは素材によっても変化するだろう。
 デザインと素材、工法は密接に関係しており、我々の発想の基本になっている。
 3Dプリンターはより生物的であり、昆虫の巣の作り方や貝殻の形状が参考になるかもしれない。
 更に、外壁の塗装に遮熱塗料を使えば、省エネになるだろうし、外壁のカラーリングを周辺の環境にマッチした迷彩柄にすることで、環境に溶け込むような建造物もできるだろう。
 また、球体の建造物を地下に埋めることで、更なる形状や用途が開発されるかもしれない。
 不安定な形状の岩石の形状を3Dスキャナーで測定し、その形状にマッチした3Dベタ基礎を作れば、その上に既存の建造物を乗せることもできる。そうなれば、傾斜地の建設もより低コストかつ安全になるのではないか。
 3Dプリンターという技術はまだ発展途上であり、これからコンテンツが追いついて行くようになる。今回の「Sphere(スフィア)」はそのキックオフとも言える。
 

3.安価な住宅による新たな生活スタイル

 次に、住宅が大幅にコストダウンすることにより、我々の生活がどのように変化するのかを考えてみたい。
 前述した「フジツボハウス」は49平米の平屋で500万円という設定だが、定年後の老夫婦の住宅としては十分である。田舎の広い土地を購入し、そこで野菜や花を作りながら、暮らすというライフスタイルはある意味で理想的だ。
 過疎化が進んでいる行政が「農地付き住宅団地」を開発するのはどうだろう。団地と言っても密集しているわけではない。十分なプライバシーを確保できるように農地と住宅のレイアウトを考える。そして、行政サービスとして農業指導や農機具のレンタル、農産物の販売等が行うというものだ。 
 500万円なら、セカンドハウスとしても購入しやすい。ある意味で車を買うような気持ちで家が持てる。
 週末を過ごす田舎の家ならば、自然環境を守ると共に、自然景観にも配慮した住宅が望ましいだろう。
 また、戦争等の不安を感じている人には、核シェルター付きの地下住宅も良いかもしれない。安心安全をコンセプトにした住宅。独自の水源を確保し、小規模の水力発電、風力発電、太陽光発電等を組み合わせてエネルギーも自立していること。食料の自給自足ができる農地を確保できれば完璧だ。これらを全て完備して、トータルで一億円程度ならば、購入する人もいるだろう。
 これまでの住環境は家だけを考えていた。家の立地、間取り、日当たり等々である。今後は自然環境や庭、農地、自給できる設備等のトータルな住環境が問われるのではないか。それを実現するにも、家のコストは下げたいと思う。
 

4.GDPは減少しても幸せな人生を

 住宅価格が劇的に下がり、更にテレワークの定着で通勤が必要なくなれば、人口は分散していく。
 都心に企業が集中し、そこに通勤する人々がその郊外に住み着くというのが、これまでの生活スタイルの主流だった。
 しかし、全国に人口が分散すれば、過疎化の課題は改善される。たとえば、行政が中心となって「農業を副業にする若者を増やすプロジェクト」「農業を趣味とするリタイヤ生活プロジェクト」等を展開していく。その中で核となるのが、3Dプリンターによる安価な住宅提供である。
 そして、住宅、通勤等の支出が減少すれば、その他のことに支出が回るようになる。
 これまで余暇と言われてきたスポーツや趣味がメインの生活になる。余暇という発想は、仕事こそが重要であり、スポーツや趣味は余った暇な時間に行うべきだ、という考え方に由来している。
 そうではなく、むしろスポーツや趣味が人生のメインであり、余った暇な時間に働くという発想にするべきではないのか。そうすれば、スポーツや趣味を通じて恋愛も生まれ、そこから結婚も増えるだろう。
 仕事に消耗しない生活。そして、自然環境を守りながら生活しているだけで、日本は新たなサスティナブルな魅力を獲得していくだろう。そして、それを体験したい外国人が観光に来る。
 自給自足が増えれば、GDPは減少するかもしれない。しかし、確実に幸せな人々は増えるだろう。

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