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NTTドコモのNTT完全子会社化から考える「今後の通信キャリアのあり方」について

はじめに

9/28(月)の夜中に日経の飛ばし記事として報道された「NTT、ドコモ完全子会社化」の記事を受けて、私が常々感じていた「5G時代を見越した今後の通信キャリアのあり方」についての考えをまとめておこうと思い、本記事を書きました。
※9/29(火)に正式発表されました。

ちなみに、私は今年の夏まで通信キャリアに勤務していましたので、元・中の人的な目線も交えつつ意見を述べていければと思います。
※あくまで本記事内容は個人的な意見に終始しています。

ドコモ完全小会社化は良いことか?

結論から言うと良いことだと考えています。ただ、そもそもこの問自体が非常にナンセンスだとも思っています。

現在のNTT(持株会社)とNTTドコモの資本関係を考えると、NTTはドコモ株の6割強を保持しており、現在でもNTTは実質的にドコモに対してかなり強力なガバナンスを有しています。それが今更10割(=完全子会社化)に高められたとして、そのガバナンスの効き具合は大きく変わらないと考えています。

また、根強い親子上場問題も言われております。特に海外投資家からするとネガティブに見られる状況が解消する点においては、非常に好ましいと思っています。

一点気になる点としては、完全子会社化(TOB)後の事業統合がNTT法上認められ得るのか?という点です。完全子会社化するのであれば、他のNTT完全子会社化であるNTT東日本・NTT西日本・NTTコミュニケーションズとの事業シナジーをこれまで以上に活かす方向でなければ、なんの意味も無いと考えます。

ドコモを非上場化することで、株式の配当金がNTTグループ外に流出(キャッシュアウト)することを防ぐだけでも価値は有るかと思います。しかし本当にそれだけが理由だとすれば、非常に消極的なTOBだと言わざるを得ません。

NTT内の他企業(特に固定通信事業者)と事業シナジーを活かすためには、現在のNTT法がボトルネックとなります。NTTとしてはグループ内事業の協業は悲願と言われております。これはあくまで私の個人的な意見ではありますが、NTT側としては総務省に対して、

「携帯電話料金の値下げに応じるから、NTT法の規制緩和をしてほしい」

と言ったようなバーター取引を仕掛けるつもりなのかな?と考えています。

携帯電話料金の値下げ余地はあるのか?

これも一意見ではありますが、私は「ある」と考えています。

各携帯電話キャリアは移動体通信事業以外にも様々なサービスを提供しています。しかし、あえて厳しい表現をすれば、「所詮OTTのマネごと」に留まる様な質の低いサービスも数多く存在します。利益に貢献していない(場合によっては赤字)のサービスも多くあります。こういったものをどんどん廃止(サービス終了)することで、売上としてのトップラインは下がるものの利益率は更に向上すると考えています。

また、ITインフラコストに関してもまだまだ費用削減する余地が多く有ると考えています。移動体通信インフラ以外にも、回線・アカウント認証や決済システム等の基幹システム、WEBサービスを提供するシステム群など、通信キャリアは複数のITインフラを有しています。ただ、総じてこれらのモダナイズが出来ていません。
(ドコモの場合、iモード時代に作られた統合認証基盤システムが、現在も増築に増築を重ねられてスパゲッティモンスターになった状態で現役で動いています...笑)

こういったレガシーインフラを近代的なアーキテクチャのシステムにモダナイズすることで、保守運用などにかかる人件費や開発工数の簡素化による費用削減が見込めると考えています。こういった取組によって、中長期的には更に利益率の向上が見込めるでしょう。

また、本業の移動体通信事業に関わるインフラ(基地局、コアネットワーク設備 等)についても、独自仕様を極力廃した物品調達に専念することで、まだまだ費用削減の余地があると考えています。
(ドコモの場合、グローバルでは誰も採用していないような国内ベンダーの基地局を購入しています...)

通信キャリアのあるべき姿

私は「通信キャリアは土管に徹するべし。その方が寧ろ全国津々浦々の5G基盤展開を加速できる。」と考えています。その理由について、複数のビジネスモデル的観点・技術的な観点から説明していきたいと思います。

光コラボレーションモデルの前例
御存知の通り、NTT東西は自社で直接顧客に対してFTTHサービス(フレッツ)を提供する事を辞めました。その代わり、光回線を他事業者(光コラボ事業者)に卸販売し、卸を受けた事業者が自社ブランド名でFTTHサービスを提供するビジネスモデルにトランスフォームしています。
(例えば、ドコモ光とかmineo光などのサービス名称で各事業者から提供されています。)

そういう意味で、既にNTT東西はFTTH事業においては完全に土管化したわけです。その結果、光コラボ事業者間の市場競争が活発化し、昨今の光回線利用者数の増加ペースが加速しています。

携帯キャリアによるコラボ光や、光化を推進するケーブルテレビ事業者などが市場拡大を牽引した。

その様な観点を踏まえると移動体通信事業においても、わざわざ自社ブランドで展開しなくともよいのでは?と考えます。要は移動体通信設備リソースの利用権を他事業者に卸売販売し、他事業者が自社ブランド名で移動体通信サービスを提供すればよいのです。
(mineo 4G/5Gとか、BIGLOBE 4G/5Gとか...)

そうすれば光コラボ事業の論理と同じ様に、市場競争原理の効果でサービス利用料が下がったり、回線の普及にも寄与するのでは?と考えます。ついでに自社での端末企画開発・販売や、アフターサポートなどもそれらのサービス事業者側(コラボ事業者側)で行う形にすれば良いと思います。

通信キャリアにとって端末の企画開発や販売業務は本業ではありません。
にも関わらず、これらの業務には本当に多くの無駄なコストがかかっています。端末の企画開発に関して言えば、各端末メーカが開発する端末に対して自社要件を盛り込む調整を行ったり、自社網と問題なく通信できるかの試験を行ったりと、非常に無駄な稼働が掛かっています。本来、移動体通信は国際標準化団体3GPPやGSMAなどの機関によって、端末からコアネットワークまで、End to Endで標準仕様が定まっています。その仕様に対して自社要件を無駄に盛り込むから、端末の通信試験など本来キャリア側がやる必要の無い仕事をやる羽目になっているのです。

MVNOモデルの限界
上述の通り「移動体通信設備リソースの利用権を他事業者に卸売販売し、他事業者が自社ブランド名で移動体通信サービスを提供すればよい」という考えに対して「それってMVNOと何が違うの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

ここではMVNOについての技術的な前提知識(L2/L3接続とかHSS/HLRとかフルMVNOとか)は省きますので、興味有る方はご自分で調べてみて下さい。

移動体通信の付加価値を司るのはコアネットワーク側が大きな役割を果たす事になるのですが、現状、各通信キャリアは自社コアNWを他事業者(MVNO事業者)に提供していません。提供しているのは無線アクセス部分までとなります。ちなみに、広義のコアNW設備であるHLR/HSS(加入者管理装置)については、通信キャリアから一部のMVNO事業者に対して接続用APIが開放されており、それらを利用して自社で用意したHLR/HSSをキャリア網に接続する事ができるMVNO事業者を「フルMVNO」と称しています。

しかし、コアNWの大部分は他事業者には提供されていません。その状態でMVNO事業者が自社サービスに付加価値を付けて販売することはそもそも非常に困難な状態です。

コアNWの仮想化技術と「コア貸し」について

現在の4GコアNW(EPC)の次の世代のコアNWである5GCにおいては、Dedicated Core Networkやネットワークスライシングの様な仮想化技術(NFV)が取り入れられる予定となっており、物理設備に依存しない柔軟なリソース管理が可能となるコアNWとなるとされています。

その様な、いわばクラウドライクな移動体通信リソースが実現した場合、既存の通信事業者は自社のリソース(無線アクセス〜コアNWまで)を他事業者にAPI経由で公開し、利用料をもらう様なモデルが実現できるようになると考えています。分かりやすいイメージとしては、

「WEBサービス作りたいからAWSを使ってサーバやデータベースを立てようっと。」

という感じのノリで、MVNO事業者が通信キャリアの移動体通信リソースを利活用し、それに応じて利用料を支払うようなイメージです。いわば「コア貸し」みたいなことまでできるようになるわけです。
(すんごくざっくり言ってます。もちろん直ぐにAWSの様な手軽さになるとは思えませんけど...笑)

現実的には、楽天UN-LIMITが謳っている完全仮想化ネットワークとは、まさにその様な設計思想に基づいたアーキテクチャとなっています。

これは私個人の意見ですが、NTTが盛んに言っているO-RANの取組は、既存の通信キャリアの論理に根ざしたものでしかないと思います。O-RANよりも「クラウドネイティブセルラーネットワーク」の波が世界には来ています。

個別の垂直統合の無駄
先にも述べたとおり、現在の移動体通信事業者は端末〜基地局〜コアNWまでをEnd to Endで提供しています。つまり垂直統合です。しかも国内4キャリアがすべてバラバラにそれをやっています。そのため各キャリアともNW設備の建造・維持管理に対して、各々でコストを負担しているわけです。これが日本の携帯電話料金が高い理由のひとつとも言えるでしょう。

アメリカや中国では、「基地局管理会社が基地局建造・維持管理を行い、それらの基地局を各通信キャリアに貸し出す」というビジネスモデルが実現されています。

なお、日本においてもKDDIとソフトバンクは、主に地方の5G基盤展開に関して「共同で基地局整備を行う協定」を発表しています。

今後、基地局に限らずコアネットワークも含めたよりドラスティックな「インフラシェアリング」が実現されるのであれば、各通信キャリアごとの取組に加えて、さらなる通信料金の低廉化の一助となることでしょう。

総論:5G時代の移動体通信事業者のあるべき姿

上述してきた通り、私は以下のように考えます。

これから移動体通信事業者は真の土管に徹するようにし、サービス提供は他事業者に任せるべき。それらによって一時的に売上トップラインは落ちるも、移動体通信/ITインフラのモダナイズや無駄なコスト体質の削ぎ落としによって、寧ろ利益率は大幅に向上する余地が有る。

そうして生み出された潤沢なキャッシュを、「OTTのマネごとサービス」や「端末企画開発・販売」などではなく、NW品質の向上にのみ振り分けていくことで、日本の移動体通信品質は、更に飛躍的に向上するのでは無いでしょうか?また低廉化したBitコスト(=通信料金)が、IoT/IoEや様々な分野での一層の移動体通信の利用を促進し、やがては日本全体のモダナイズ、Society 5.0の実現に寄与するものであると私は考えています。

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