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名探偵コナン考察:アマンダ・羽田浩司殺害事件の真相

2022年11月30日発売のサンデー1号から始動した新シリーズ(第1103話〜)では17年前の羽田浩司殺害事件を思わせるチェス大会が事件の舞台となっていることから、今までに作中に散りばめられた17年前の羽田浩司殺害事件の真相にかかわる伏線が今シリーズで回収されることに読者の注目が集まっている。
これに対して、17年前に、羽田浩司殺害事件と同じ日に同じホテルで発生したアマンダ殺害事件については、羽田浩司が殺害される原因とされ、かつ組織の犯行によるものであるにもかかわらず作中で掘り下げられておらず、新シリーズが始動した今、この事件の謎が今後の展開にどのようにかかわってくるのか、考察する必要に迫られている。
この機会にRUM編初期の「17年前と同じ事件」回から第1103話までを振り返りながら、アマンダ殺害事件と何らかのかかわりがあった羽田浩司が死に際に手鏡の文字に細工を施して遺したアナグラムによる「CARASUMA」というメッセージが一体何を指しているのか、ジンの言う羽田浩司殺害事件の中で「ラムがぬかった」こととは何なのか、そして、17年前の事件にかかわる浅香の人物像も掘り下げて、両事件の真相を考察することによって新シリーズの結末からRUM編のクライマックスまでの流れを予想する。


1 アマンダ殺害事件の謎

まず、本考察では、17年前の事件当時の検視では死因が不明となっている羽田浩司の名前が黒の組織が管理するAPTX4869服用者の死亡リストに記載されていることに対して、同じく死因が不明であるアマンダの名前がリストに記載されていると作中で明示されていないことに着目する。

⑴ 羽田殺害の同日にアマンダ殺害事件が起こり、同事件のアマンダの死因が不明であることから、アマンダも組織に殺害された可能性が高い
作中でも、アマンダの殺害については、棋士の羽田浩司が何故組織に殺害されなければならないのかという阿笠博士の疑問に対して、FBIやCIAに顔が利く(組織にとって邪魔な存在である)アマンダが組織に殺害されたところを偶然目撃してしまったからではないかと灰原が説明するかたちで、組織の犯行によるものであることが前提となっている
上記の灰原の説明と実際の両事件の間の順序やそれぞれの事件の経緯が間違っていれば、この前提が崩れることになるが、これに対しては、下記⑵の通り、事件当時殺害現場であるアマンダの部屋が何事もなかったかのような状態であったことから、灰原が言うように組織の仕業であることは間違いないといえる。

⑵ アマンダ殺害が組織の犯行によるものだとすると、組織はアマンダをAPTX4869によって殺害したのかについても問題になる。
これについては、羽田をAPTX4869で殺害したにもかかわらず、アマンダを同薬で殺害しない合理的理由は見出せず、作中でもアマンダ殺害の現場の客室が何事もなかったかのような状態であったことが述べられており、痕跡や抵抗なく殺害する方法としては同薬が最適であると説明できる。
⑶ そうすると、血液型でまとめられているAPTX4869服用による死亡リストにアマンダ死亡が記載されていることが明示されなかった理由とは何かという疑問が生まれる。
アマンダの名前が記載されているか否かの点については、上述のように、記載されていると明示されなかっただけで記載されてはいる可能性があり、本記事の最終章で述べる通り、あえて明示しないことによって読者を物語の流れに誘導する手法である可能性が高いが、以下ではアマンダの名前が記載されていないと仮定して物語を分析するとどのような疑問や矛盾点が発生するかを検討することに価値があると思うので、本記事では記載されていないことを前提とすることにする。
以下、⑶の問題に話を戻す。

①これに対して、両事件が複数犯によるものであったとすれば説明ができる。
ここで事件とRUMの関係が見えてくる。
複数犯が、羽田殺害に成功した後、薬による死亡を報告した者と、アマンダの殺害後、薬による死亡を報告せずに組織から脱退した者の二人で構成されていて、羽田殺害を担当したのがRUMで、アマンダ殺害を担当したのが、アマンダのボディガードとして帯同していた浅香だったとすれば、浅香がその後消息を断ったことやジンの「ラムがぬかった仕事」という発言の表現と整合する。

つまり、組織の一員の浅香が消息を断った理由と、RUMが何をぬかったのかという疑問に対し、浅香の正体がアマンダに協力し組織に潜伏していたNOC(スパイ)で、アマンダや羽田から何らかの情報を受け取ったNOCの浅香をRUMが取り逃してしまったからだと説明できる。

ただ、上記の説明に対しては、浅香がアマンダ殺害に成功(或いはアマンダが浅香を庇って自ら同薬を服用)したにもかかわらず、組織のボス或いはRUMに浅香がNOCであることがバレた理由、逃亡した浅香を受け入れた諜報機関はどこか、17年前に組織を脱退したはずの浅香がどのようにして工藤新一の死亡が記載された時点での新しいAPTX4869リストを入手したのかなど、新たな疑問も生じる。

(ⅰ) これらについては、浅香が当時から現時点までCIA所属であれば、アマンダがCIAに顔が利いていたこととも繋がって、疑問に答えられるように思える。
しかし、下記(ⅱ)以下と同じ理由で、同じCIAであるはずのイーサン本堂やキールとの連携が取れていないことがいえるため、浅香はCIAではない可能性が高い。

(ⅱ) では、浅香がMI6の諜報員である場合はどうか。
確かに、浅香がMI6の諜報員であれば同じくMI6の諜報員であった赤井務武と浅香が接触した経緯を説明できそうだし、父親がMI6の諜報員であることを知る赤井秀一が浅香が赤井務武の妻子である世良親子の周辺に近づいていると考えていた理由も説明できる。

しかし、当のMI6について、作中では、赤井務武は羽田浩司殺害事件を調査するまで組織の存在を知らなかったこと及びメアリー世良が幼児化してから世良親子が来日するまでの経緯において、メアリー世良が自身が飲まされたAPTX4869によって幼児化するまで同薬のことを知らなかったこと、世良親子が工藤新一の名前が記載された死亡リストを知らなかったこと、赤井務武が消息を断った17年前から赤井務武に変装したベルモットがMI6の前に姿を現し始めた3年前までの14年間MI6と連絡をとっていなかったことが明らかとなっている。

これらのことから、浅香がMI6の諜報員であるならば、赤井務武と接触していたはずの浅香が赤井務武が行方不明となっていた間にMI6に対して赤井務武の状況について連絡していないことになり、また、後述②以下の通り、浅香はヘルエンジェルやAPTX4869のことを知っていたにもかかわらず、ヘルエンジェルの姉であるメアリー世良に幼児化前までにこれらのことを連絡していないことになり、世良親子が来日してからも親子が堀田凱人から17年前の事件の情報を入手しようとしていたことからこの時点でも情報を隠していることになり、物語との間にこれらの矛盾が発生する。
よって、浅香はMI6の諜報員ではないといえる。

(ⅲ) 最後に、NOCであることを前提として今までの作中の流れと浅香の行動とを整合させてみるが、生前の堀田凱人が入手した情報によれば、消息を断った後の浅香が羽田の遺した手鏡と同じものを持っていたことから、浅香が「烏丸」という情報を手に入れたことが推認できるが、コナンや赤井は既に手鏡のアナグラムから組織のボスが烏丸蓮耶であることに気づいている
もし、RUMの「ぬかった仕事」が、NOCの浅香にボスの名前を知られた程度のことを指しているのなら、上記の通り、両事件の真相は物語の中でその価値を失っているから、物語の流れからすると、新シリーズでRUMと浅香を中心とする「CARASUMA」のアナグラムをめぐる17年前の羽田浩司殺害事件の真相を掘り下げることが不自然に見えてくる

以上の物語の流れとの不整合から、浅香がNOCではない可能性が高まったが、浅香の正体が判明した現在、灰原センサーが浅香に反応したことや、浅香とヘルエンジェルとの関係など、今までの伏線が浅香が組織にいたことを匂わせる描写として作用していることから、NOCでないなら事件を機に浅香が組織から脱退した理由(=死亡リストにアマンダが記載されなかった理由)についても疑問が生じる。

②これに対しては、浅香はNOCではないが組織内の抵抗勢力の協力者だったという線を考えることができないか。

(ⅰ) 組織内の抵抗勢力といえば、APTX4869の開発者であるヘルエンジェルと宮野厚司が挙げられる。
夫妻はAPTX4869に、組織を崩壊させる銀の弾丸との願いを込めていた。
夫妻の言う銀の弾丸が幼児化作用そのものであるかは不明であるが、組織に抵抗していたことは明らかである。
作中でも、浅香がAPTX4869に幼児化作用があることに気づいているかのような描写がある。
これは、浅香が17年以上前から組織内でヘルエンジェルとAPTX4869について組織内での抵抗計画として情報交換をしていたという伏線なのではないか。

(ⅱ) しかし、浅香がこの二人に好意を持っている描写はなく、むしろ作中ではヘルエンジェルに対して複雑な感情を持っている様子が描かれている。
具体的には浅香は灰原を見てヘルエンジェルを思い出し、ヘルエンジェルを自分の人生を掻き乱した人物であると表現し、また、宮野志保については、ヘルエンジェルの研究を引き継いだ人物として認識しており、毒薬を開発したことについてヘルエンジェルに対して被害感情を持っている様子である。
このような浅香の態度からはヘルエンジェルとの協力関係を見出せないと指摘できるのではないか。

この指摘に対しては、その上述の通り、ヘルエンジェルに人生を掻き乱されたという浅香の発言の表現が、アマンダと羽田がAPTX4869により殺害されたことだけでは表現仕切れない因縁を含んでいるから、その二人の間の因縁こそがアマンダ殺害事件の真相のキーポイントであるといえるので、結果的に、事件発生以前から浅香とヘルエンジェルとの間に協力関係があったことが推認されると反論できる。

(ⅲ) この反論に対して、さらに、ヘルエンジェルと関係があれば、極論として、組織の内部の人物であろうがなかろうが、APTX4869(及び死亡リストなどのデータ)を入手することができるのではないかと指摘できる。

つまり、作中で浅香が工藤新一の死亡が記載された時点での死亡リストを入手していることが明らかとなっていることについて、外部からの不正アクセスか内部の協力者によって組織内の同死亡リストを入手したとすれば、浅香は17年前においても組織の人物ではなかった可能性が生まれる以上、APTX4869によってアマンダを殺害した浅香が組織内部の人物ではなかったから死亡リストに記載されなかったとも説明できるのではないか。

この再反論に対しては、死亡リストの入手方法については、宮野夫妻が死亡した現在、内部にまだ協力者が残っているとは考えにくいし、外部からの不正アクセスについては、それが容易にできるほど、かつて組織の内部事情に浅香が関わっていた可能性があるともいえるから、入手方法如何は浅香が内部の人物か否かを分ける要素にはならない。
また、組織の人物ではない外部からの協力者であれば、FBIやCIAに顔が利くアマンダを同薬で殺害する必要がないと反論できる。

(ⅳ) それでもなお、組織の人物でありヘルエンジェルの協力者である浅香がアマンダのボディガードとして雇われた経緯や、そこからアマンダを殺害する(或いはアマンダが浅香を庇うために自ら薬を服用する)必要が生じる展開には飛躍があり違和感を拭えない。
また、殺害していないなら他の殺人犯がアマンダの名前を死亡リストに載せていない理由が説明できない歯痒さが残る。

2 第1103話:黒田視点における17年前の事件

以上におけるアマンダ殺害の謎を巡る浅香の人物像についての争いは、第1103話における黒田管理官の浅香に対する反応で決着がついたように思える。
同話にて黒田が浅香と遭遇したにもかかわらず浅香を警戒する様子は見せていなかった点について考察する。

⑴  まず前提として、黒田が記憶喪失か否かを問わず、公安である以上は、コミック第99巻でバーボンが公安の研修で17年前の事件の資料を確認していたように、黒田もアマンダとそのボディガードの浅香という人物を資料によって把握することが可能である。
作中でも、黒田が同事件のことを意識している様子が度々描かれている
また、バーボンが資料の駒の特徴と同じものを拾った際に同事件の殺人犯を意識したことから、資料には被疑者の情報が書かれていることが推認されるほか、堀田凱人の浅香についての情報など、作中で描かれた同事件に対する一般認識から、公安の資料によっても被疑者は浅香とされていることが推認できる。

⑵ つぎに、第1103話にうつると、若狭留美と再び対面した黒田は、自身の17年前の事件当時の記憶の断片から、ホテルの廊下で遭遇した二人の女性を思い浮かべ、その内の一人の姿を若狭留美と重ねて、同人に以前にチェス大会で会ったことがあったか尋ねた。
黒田に対して若狭留美もまた、自身の17年前の記憶の中のホテルの廊下で遭遇した男性を黒田に重ねて問いかけに答えた。
黒田と若狭留美の記憶の中には、アマンダとボディガードのような風貌をした若狭留美の姿があり、これらのことから、若狭留美の正体が浅香であることが確定した

⑶ 以上の流れによって、黒田自身の記憶の中の二人の女性が、公安の資料に書かれているであろうアマンダと浅香であることに容易に気づける状況だったにもかかわらず黒田は浅香に対して警戒していなかったのであるから、黒田は浅香がアマンダ・羽田浩司殺害事件の犯人ではないと考えていることがわかる。
黒田の考えの根拠としては、作中における同事件の伏線となっていた今までの黒田の挙動(羽田浩司殺害事件の記事の中の羽田浩司の死体写真に対する強い意識)と親和性を持たせると、①アマンダ・羽田浩司殺害事件の真犯人を知っている、②羽田浩司のアナグラムのメッセージの真意に気づいており、そこから犯人が浅香ではないと考えている、③自身の事件当時の記憶から浅香のアリバイを証明できる、④浅香をグレーだと考えていたが、若狭留美として活動する浅香の今までの振る舞いをみて現時点では白に傾いている、といったものが挙げられる。

上記⑶の考察に対しては、黒田が浅香を警戒していないことについては、黒田の部下であるバーボンが17年前の事件の当事者であるRUMと接触しているにもかかわらず、上記⑴の通りコナンや赤井に比べてあまりにも同事件についての情報に乏しい様子から、黒田もバーボンと同様にRUMが同事件にかかわっていることを知らないのではないか、すなわち黒田が浅香が犯人ではないと考えられるほど事件にかかわっていないのではないかと指摘できる。

3 新シリーズの結末からRUM編クライマックスまでのシナリオ

いずれにせよ、新シリーズで公安の黒田が浅香に接触し始めたことは、作中の伏線によって公安と組織の対決が始まることが示唆されているRUM編において大きな意味を持っている。
浅香がどのような点で上述のようなRUM編のシナリオにおける重要人物になるかを考えると、工藤新一の幼児化に気づいている素振りを見せている浅香が灰原にも幼児化の可能性を見出している現状から、新シリーズにおいて、宮野エレーナとの因縁で浅香が灰原と接触し、浅香を警戒するRUMが二人の会話の一部始終を見て、シェリーが幼児化して生存していることに気づく(=シェリーを始末したはずのベルモット、バーボン、シェリーに協力した疑いのある毛利小五郎、コナンらの危機)という展開を発生させる役割が考えられる。

つまりは、17年前の両事件の真相つながりで、浅香からは、コナンとRUMが直接対峙する「きっかけ」を発生させる役割を見出せる。
この展開ではバーボンや灰原、コナンの正体がバレることから主人公サイドが絶対絶命の危機に陥ってしまうが、RUM編が終われば次はボス編なので、未だに組織の目的とは何なのか、すなわち、灰原が作らされていた薬とは何なのか、ベルモットが板倉卓に依頼したソフトとは何なのかといった物語の核心にせまる伏線が回収されていない現状からすると、17年前の事件の真相と絡めてRUM編クライマックス、ボス編へと展開していくファクターとしてはこれ以上ない人物像を浅香は持っているのではないだろうか。

また、アマンダ殺害事件の真相についてもう一つの筋が考えられないか。

つまり、羽田が手鏡で遺した「烏丸」、そこから浅香が何らかの情報を受け取り、これに対し「ラムがぬかった」とされ、アマンダの名前がAPTX4869リストにない理由、これら全て、「アマンダを殺害したのは烏丸蓮耶だった」とすると矛盾なく説明できないか

ここでアマンダの人物像がキーポイントとなる。
FBIやCIAに顔が利くアマンダは資産家でもあった。
アメリカの資産家ほどの財力がある人物なら、もし組織が組織の目的を達成するために薬の研究などの資金が必要であったとすれば、契約交渉という体裁で組織の重要人物を表に引きずり出すことができるのではないか

そこから17年前の事件のシナリオを考えると、アマンダは資産家として組織のボスとの接触を図り、接触したボスの正体が烏丸蓮耶であることを対面で確認した
しかし、烏丸からボディガードを交渉の場から外すよう要求されていたか、RUMの策略か或いはベルモットの変装によって陽動され、その時浅香はアマンダの部屋にはいなかった
アマンダは烏丸蓮耶のことを協力者である浅香に伝えようとするも、部屋から出る前に烏丸に薬で殺害されてしまった(生前の羽田浩司はこの一部始終を見ていた)。
烏丸は生前のアマンダがホテル内で接触していた浅香と羽田を見逃さず、RUMに二人の殺害を命じた。

ところがRUMが浅香を逃してしまい、事件後、羽田浩司に「烏丸」というメッセージを残されたことも判明し、事件当時、自分が烏丸蓮耶であることを隠して特定の人物としてアマンダや浅香と接触していた(烏丸蓮耶が当時ホテル内にいた特定の人物として行動していた)ことを見抜いたアマンダによって罠に嵌められたことに気づいた烏丸は、組織内に、事件発生以前に自分がジュークホテルに来ることをアマンダに知らせた内通者がいることを疑い始めた。
そのため烏丸はAPTX4869服用者リストにアマンダを記載せず、殺害したことを隠すことによって内通者を炙り出そうとした。


ということになる。

以上の流れを裏づけるためには、事件発生前の当事者の行動について、例えば組織がFBIやCIAに顔が利くアマンダを殺害する目的でホテル内で行動していたと評価するにとどまらず、事件発生までのAPTX4869にかかる事実関係を確認し、それらの事実関係が事件後から現在までのAPTX4869に関係する組織の行動や出来事と関係しているかまで検討する必要がある。

⑴ まず、作中では、ヘルエンジェルが組織に組み込まれた19年前の時点で、科学者の間では「烏丸グループ」という名前の団体が知れ渡っていたこと、そこから17年前までの2年間でヘルエンジェルがAPTX4869を開発したことが明らかとなっている。

⑵ 次に、同薬の研究を引き継いだ灰原が服用者死亡リストの工藤新一の情報を「不明」から「死亡」に書き換えたことからもわかるように、事件当時に開発者のヘルエンジェルがAPTX4869服用者リストを管理する立場にあったことが推認できる。

⑶ 以上の事実関係のもと、作中の時系列全体をみると、アマンダ・羽田殺害から数年後に薬の開発者である宮野夫妻が事故によって死亡している
この二つの出来事の間の時系列から、両殺害事件をきっかけとしてAPTX4869の開発者や科学者に対して烏丸が疑いを抱き圧力をかけ始めたとみることができないか。
烏丸は、組織の内通者候補として第一に組織の目的と密接にかかわっている科学者を疑い始め、羽田浩司を薬で殺害したことをリストに記載する一方でアマンダについては記載せず、ヘルエンジェルを含む科学者に対してアマンダが死亡したことを隠すことによって、内通者がアマンダに連絡を取るところを確認しようとしていたのではないか。

①これに対しては、烏丸蓮耶がアマンダを殺害したことの根拠とはなっていないとの指摘が考えられる。

確かに、烏丸蓮耶でなくとも犯人が事件当時現場にいたことが確定しているRUMであれば、RUMが事件以前からヘルエンジェルを疑っており、ヘルエンジェルと通じている可能性の高い資産家のアマンダを罠にかけてジュークホテルにおびき寄せて殺害したが、アマンダの所持品からはヘルエンジェルと連絡をとっていた証拠が見つからず、ボディガードの浅香を追跡するも羽田によって阻まれたから仕方なくアマンダの殺害を隠してヘルエンジェルを泳がせたという説明が成り立つように思える。

しかし、これでは羽田が遺した「烏丸」というメッセージが単に組織のボスの名前を意味することになってしまい、「烏丸グループ」をよく知るはずのヘルエンジェルとアマンダ・浅香が内通していたという説明と整合しないという反論ができる。

②これに対して、逃げ場のなくなった浅香と羽田が最後に組織に反撃するために「烏丸」というメッセージを遺したとして、「烏丸」は浅香に対してではなく浅香と羽田の二人が諜報機関に向けたメッセージであり、やはりRUMがアマンダ殺害の犯人であるとの再反論が考えられる。

しかし、結局のところRUMが浅香を取り逃がしたことと整合せず、素直に「烏丸」は浅香に対するメッセージであると考えるのが自然である。

⑷ 最後に、APTX4869リストにアマンダの名前が記載されているか否かが作中で明示されなかった理由をメタ的に分析することによって、その理由が浅香の人物像にどのようにかかわっているのかという点について一つの解釈を示して本記事を締めくくる。

まず、RUM編においてAPTX4869リストが作中でどのような文脈で触れられることになったかというと、17年前に亡くなった羽田浩司という名前が同リストの工藤新一の二つ下にあったことを灰原が思い出したことが始まりであった。

その直後にコナンがアマンダ・羽田浩司殺害事件に触れることとなった「17年前と同じ事件」回においては、コナンが幼児化するよりも17年前に亡くなった羽田浩司が工藤新一の二つ下に記載されている理由について、「殺害順ではなく服用者の血液型でまとめていたから」だと灰原は説明し、この説明によって間接的ではあるが、アマンダについても、灰原はその名前を確認まではしていないが、同日に殺害された羽田浩司と同じく死因不明であること、及び二つの事件の被疑者がアマンダのボディガードの浅香であるから二つの事件の間に繋がりがあるとみられることを根拠にリストに記載されていることを前提として二人が話しを進めていることがわかる。

二人は会話の中で、アマンダと同日に棋士の羽田が組織に殺害されることになった経緯について、趣味で参加していたチェス大会のためにホテルに滞在していた棋士が組織とかかわりを持っているとは通常考えられないことと、ネット上の事件記事の通りに二つの事件が被疑者の浅香という同一人物の犯行によるものであることを踏まえて、アマンダが事件以前から羽田のファンであり羽田と交流があったことアマンダが羽田の客室を一度訪れていたことから、組織にとって邪魔な存在であるアマンダが殺害されるところに偶然羽田が遭遇したと推測して、両事件の間に因果関係のような順序的繋がりがあったと解釈している。

この解釈について、本来なら両方とも黒の組織の犯行であれば犯人が一人である必要がないにもかかわらず、コナン視点において組織の浅香が二人を殺害したという推定が生まれた要因として、①棋士の羽田が組織とかかわりを持っていたとは通常考えられないこと、②浅香が逮捕されずに消息を断ったことが挙げられる。

この①②について、第1104話時点で羽田事件の伏線回収とともに羽田事件との関連性が明かされ、二つの要因が浅香が後行の羽田殺害の犯人である可能性を潰す方向に作用しているが、それでもなお作中では浅香が先行事件のアマンダ殺害の犯人である可能性が強調されている。

つまり、作中第1104話時点では当初の浅香の単独犯の線を捨ててもなお①②を浅香が組織の人物であるとする根拠として扱いたいようであり、当初の時点でアマンダの名前がリストに記載されていることが明示されなかったことにはこのような事情に合わせる意図があったと考えられる。
 
以下では、物語の流れにおけるコナン視点及び読者視点におけるRUM及び浅香候補に対する印象の変遷の過程を再確認することによって現在の浅香の立場を明確にさせ、浅香がアマンダ殺害事件の犯人である場合に現在の立場に至るまでの過程にアマンダの名前がリストに記載されていることが明示されなかった理由がどのように関係するかを考察する。

上述のコナンと灰原の解釈は、一見すると「17年前と同じ事件」回後編でコナンと赤井が被害者からヒントを得ることにより羽田浩司の遺した手鏡から「asaca rum」というアナグラムを抽出し、アマンダ・羽田殺害事件の被疑者の浅香が組織のNo.2RUMであると推理する流れ、及びその直後の「霊魂探偵」回で読者視点において「ラム」が羽田殺害事件にかかわっていることが判明する流れに沿っているように思える。

しかし、RUMが羽田事件にかかわっていることが確定したのはあくまで読者視点でのことであり、さらにその後の話の展開をみると、ボディガードのような能力を持った若狭留美が登場し、さらに片目に眼帯を着けた脇田兼則も登場し、その後の「マリアちゃんを探せ」回では、若狭留美が工藤新一の死亡が記載されたリストを確認し、脇田兼則も阿笠宅に訪問し、この二人が工藤新一の生存を意識する様子が描写され、同回のラストでは、工藤優作と赤井が羽田の手鏡の暗号について話し合ったことで、「asaca rum」とするのではなく、手鏡の暗号が「carasuma」という名称を指しているという結論に達している。

この結論によっても、棋士の羽田がアマンダ殺害をきっかけとして組織と接触したことにより烏丸という組織の情報を得てその情報を手鏡に遺したといえるから、犯人が浅香ではなかったとしても羽田殺害とアマンダ殺害の間に上述の順序的な繋がりがあるということには変わらない。

そして、浅香が犯人である根拠がなくなったことについても、読者視点においては、ボディガードのような能力を持った若狭留美が組織とのかかわりを見せたことから若狭留美の正体を浅香と推定できるから、羽田事件にかかわっていることが確定しているRUMがアマンダ・羽田事件の犯人とすれば浅香は犯人ではないと考えることができる。

ところが、コナン視点では羽田の遺したメッセージの意味が変わって浅香とRUMが同一人物でなくなったことにより浅香が組織の人物である(=羽田事件の犯人である)とする根拠がなくなっただけではなく、羽田事件にRUMがかかわっているとする根拠もなくなったのだから、RUMが犯人候補から外れることにより、浅香がアマンダ事件の犯人か否かというスタート地点に戻ってしまったことがわかる。


浅香が自分が諜報機関を頼って、APTX4869のことや、羽田の遺したメッセージの意味、ヘルエンジェルとの協力関係などを洗いざらい話してしまうと、かえってヘルエンジェルの身に危険が及び、銀の弾丸計画が上手くいかなくなると考えたのではないだろうか。

すなわち、浅香がヘルエンジェルについて「人生を掻き乱した」人物だと表現したのは、被害感情を持っているからではなく、むしろ、ヘルエンジェルを守りたいが故に人生をかけて逃亡を続けていることを表していると考えられないか。

作中でも、浅香は灰原に宮野志保である可能性を見出していて、それでもなお灰原を気配だけで怯えさせたRUMを睨んでいるところが描かれていた。
そうすると、ヘルエンジェルから灰原のことを守るように依頼されていた可能性も考えられる。
ヘルエンジェルが遺したカセットテープでは浅香のことが話されていないだろうか。

浅香は組織でもベルモットしか知らない薬の幼児化作用を知っており、また赤井秀一が月日をかけてたどり着いた工藤新一の幼児化をほぼ初見で見抜いていることから、実力者であることに疑いはない。
その浅香が羽田浩司の遺した「烏丸」というメッセージから受け取ったものは、烏丸蓮耶の正体、すなわち現在の姿であると考えている。

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