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名探偵コナン考察②アマンダ・羽田浩司殺害事件:黒田兵衛の役割

本記事の問題意識の背景


2022年年末・名探偵コナン第1103話からスタートした新シリーズは17年前の羽田浩司殺害事件を思わせるチェス大会が舞台となっており、コナンや灰原を巻き込む形で同事件の中心人物たちが舞台に集まる事態にまで発展した。
新シリーズ事件編序盤ではRUMが当時の事件現場を回想し、中盤では若狭と黒田兵衛が再会すると、それぞれが17年前の事件当時のお互いの姿を回想し、17年前の事件に対して各人が抱く思惑が強調されていた。

そして新シリーズ事件解決編の第1105話にて、彼らのうち黒田がコナンに接触し、17年前のアマンダ殺害事件のダイイングメッセージについての謎解きを依頼し、遂に両事件の真相の一つ、アマンダ殺害事件が語られ始めることとなった。

以上が新シリーズの流れであるが、その読感としては、2023年2月1日発売の週刊少年サンデー第10号掲載の第1106話にて黒田からアマンダ殺害事件のことを受動的に聞いて得られる情報だけでは両事件の真相にはまだ程遠いように思われる。

なぜなら、以下のようにこれまでのRUM編の物語の流れを踏まえると、依然として両事件の真相にかかわる最大の謎は羽田浩司が遺した「CARASUMA」という一つの名称についてのメッセージであり、新シリーズにおいては、黒田が知っている限りの両事件の当時の状況にはこのメッセージの真意を引き出す文脈としての役割があるということが考えられ、アマンダ殺害事件のダイイングメッセージを単なる犯人探しの役割にとどめる新シリーズの物語の誘導的な流れ及びその読み方には疑問を持たざるを得ないからである。

第85巻・RUM編当初、作中では羽田浩司はアマンダ殺害事件に巻き込まれたことにより組織に殺害されたと考えられていた。
コナンや灰原がそう考えていた根拠として、事件記事には羽田浩司は棋士であり事件当時に趣味のチェス大会に参加するためにホテルに滞在していたこと、及びアマンダとも事件以前から交流があり、ホテル内でも羽田の客室にアマンダが訪れていたという確定事実が記載されており、それらの事実から羽田は組織とは無関係な人物で、事件当時にホテル内でアマンダと接触していたためにアマンダのボディガードの浅香によるアマンダ殺害事件に巻き込まれたことが推認されることが挙げられる。

しかしその後の物語の流れでは、第98巻にてコナンは服部平次から羽田家が大金持ちであるという情報を得て、そこからコナンは羽田浩司が大金持ちの御曹司であるという点を再認識する展開となっている。

つまり、第95巻にて羽田の遺したメッセージが「烏丸」であることが判明した直後にこれと関連づけるかたちでコナンは事件当時の羽田浩司の人物像について再検討する必要に迫られていたということである。

すなわち、烏丸グループや烏丸蓮耶という名称についてはコナンも読者も既に知っている(ただし作中でコナン自身は"烏丸グループ"という名称に一度も触れていないことに注意。)以上、新シリーズにおいては、この羽田の遺したメッセージが持つ単なる名称にとどまらない意味について吟味する必要があり、羽田のメッセージとアマンダ殺害事件にてアマンダが遺したダイイングメッセージの間にどのような関係性があるかを、アマンダ・羽田両事件について、黒田が知る限りの事件前後の状況及び各当事者の人物像の両方から掘り下げないことには、二つのメッセージの真意に辿りつけないということになる。

17年前のジュークホテルで何があったのか

では、第1106話から黒田兵衛によって語られるアマンダ殺害事件について、「CARASUMA」のメッセージの真意に近づくために上述のような方法をとる場合に、事件のどのようなことに焦点を当てて黒田から得られる情報を解釈するべきか。

手がかりとしては、17年前に日本警察の身分である黒田兵衛自身がジュークホテルにいた理由が挙げられる。

現在でこそ黒田兵衛の指揮のもとにバーボンが黒の組織に潜入していることで公安と組織の直接対決という構図が成り立っているが、公安が組織の存在を明確に把握するに至った出来事とは何かという点と、17年前に黒田がジュークホテルにいたこととの間に繋がりが生まれる。

ここで意識するべきことは、RUM編中盤で明らかとなった「烏丸グループ」という黒の組織の表の顔である。

この組織の表の顔こそが、17年前のジュークホテルに一人の資産家と一人の警察官が呼び寄せられ、羽田家の御曹司がアマンダ殺害事件の裏で糸を引く存在にいち早く気づいたことなどをひとまとめに説明できる理由として有力であると思う。

17年前のこの事件を物語全体の時系列に位置づけてみると、20年前に組織を調査していたFBIであるジョディの父がベルモットに殺害されたこととその3年後の17年前にFBIと繋がりのあったアマンダが殺害されたこととの期間の中にAPTX4869の研究があり、研究の発端が描かれたバーボンの回想の中で「烏丸グループ」という名称が明かされていることがわかる。

バーボンの回想の中で宮野エレーナが研究のスポンサーとして烏丸グループを好意的にみていたことからわかるように、烏丸グループは社会的な影響力の大きい組織であり、資産家としてのアマンダとジュークホテルで会合を図り、その影響力の大きさからアマンダだけでなく公安やFBIにマークされていたとみるのが自然である。

問題は、組織が表の顔をもって赴いたであろうその会合の内容である。
この点こそが第1106話で黒田が話すことのテーマではないかと思う。

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