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[書評]何となく広まっている「好きなことを仕事に」に一喝、目の覚める補助線を引く書。

「趣味を仕事に」「好きなことを仕事に」といった言葉が、近年よく聞かれるようになった。確かに、それができたら「さぞかし幸せだろう」と思うかもしれない。働く=楽しい、なんて世界は、誰もが夢見るところだ。しかし、現実は甘くない。ただ茫漠と趣味を洗練させていけば、仕事になるというものではない。たとえ趣味が仕事になったとしても、仕事化した途端に「楽しさ」が雲散霧消し、苦痛へと変わることはザラである。

何の思慮もなく、好きなことを仕事にしようというのは、かなり無謀な試みなのだ。

岡崎かつひろさんの著作『“好き”を仕事にできる人の本当の考え方」は、そんな「無謀さ」「ふわふわした夢見人の足取り」をしっかり地面に着地させる力を持つ。具体的な指南も満載だ。

まず、警鐘。

本書冒頭は「『好き』を仕事にするのはやめなさい」という章から始まる。もちろん岡崎さんは奇をてらって「逆張り」でこう起筆したのではない。彼は極めてリアリストで、本章は警句に満ちている。一箇所、引用しよう。

「『好きなことをやっていれば幸せに生きていける』なんて幻想」「ほとんどの場合、(どんな業務であれ)最初から仕事が好きなことはまずありません」「できないうちはつまらないのです。でも、できるようになったら楽しくなるのです」(同書20頁、(  )は引用者)

どこかにユートピア的な職場があるわけではない。もちろん、趣味のフェーズへと仕事を移行することが是の場合もあるだろう。だが、たとえ職場を変えなくても、今いる場所を好きになり、楽しく働ける環境へと変えていくことはできる。むしろ、今いる場できちんと働けない人は、どこにいっても、たとえ「好き」を仕事にできたとしても、きっと長続きしないだろう。なぜなら、どこにいっても中途半端になるからである。そこに、好き嫌いは関係ないのだ。

また、岡崎さんはこうも言っている。

「もう一つのダメな働き方が『得意なことをやろう』『長所を生かそう』というものです」(同33頁)

まず、あなたが得意と思っていることが、世間的にみて本当に秀でたレベルなのかが怪しい。自分の得意なことは、自分で過大評価しがちなのが人間だ。意外に通用しない、なんてことは、残念ながら多い。

また、ビジネスの世界でコーチングがよく教えてくれるところだが、多くのビジネスパーソンは意外にも自分の長所を自分で把握していない。わかっているつもりでいて、わかっていない。ここに、自己認知と現実の齟齬がある。ゆえに、得意や長所を単純に仕事にすることには危うさがつきまとう。もっといえば、得意や長所を仕事にしたところで、そこにニーズがなければ、そもそも仕事は成立しない。

繰り返し言うが、岡崎さんはきわめてリアリストだ。そして、とどめ的に次のフレーズを付言する。

「そもそも、『(今の)仕事がつまらない』という状況がおかしいのです」(同63頁、(  )は引用者)

自分で自分の仕事をつまらなくしていないか。まず、そこから内省してみてほしい。そして、十分に内省した上で、本書を手に取ってみてほしい。どういったスキルやマインドセットが、真の意味で「好き」を仕事にするのに有効なのかが具体的に書かれている。そこからスタートすれば、「ほんとうに好きを仕事にできる人」の考え方が身に染みてわかってくるだろう。

もちろん焦らないで。

岡崎さんはこう語っている。

「なにかに挑戦するときに、早いも遅いもありません」「状況が整ってから新しい挑戦の話が来たら最高です。でも、そんなに世の中、自分の都合どおりにできません。自分の都合で考えるのではなく、来たものに合わせて、自分を変えていくしかないのです」(同181頁)

好きを仕事にするのは、現実的には大変だ。しかし、遅きに失するということは、ほとんどない。虎視眈々と自分を磨きながら、むしろできないことなどにも積極的に挑戦して形にしてみたらどうだろうか。思わぬ収穫が得られるかもしれない。そうして視野を広げて、おのれと対話し、「ほんとうに好きなこと」を探って楽しむ。楽しみながら、わいてきた「好き!」をつかまえて、現実主義で挑戦する。そこに、あなたの真価が現れるはずだ。

ぜひ、本書をご一読してみてはいかがだろうか。

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