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クリスマスはホラー映画を観ませんか?

🎄この記事は、みんなの北星 Advent Calendar 2023の16日目(12月16日)の記事です。リンク先から各記事が読めます。🎄


こんにちは、私はホラーフィクションが好きな人間です。
せっかくクリスマスの時期なので、クリスマスシーズンが舞台のゾンビ映画を紹介します。
※ホラーやゾンビといった要素が苦手な方はご注意ください。


クリスマスのホラー映画といえば皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。
世紀の名作『暗闇にベルが鳴る』や『チャイルド・プレイ』(最初の一日だけだけど)など沢山良いものがありますね! 今日はちょっと前向きなものを紹介したいので、青春×ゾンビ×ミュージカル映画の金字塔『アナと世界の終わり』を紹介します。

ジョン・マクフェール監督 アナと世界の終わり (2017)

(邦題が某作品に乗っかりすぎだと思われるかもしれませんが、原題がAnna and the Apocalypseなのでまあまあ直訳ですね)

あらすじ:アナは地元を離れてどこかに行きたい高校生です。クリスマスが明けた日、町にゾンビが溢れ返ります。アナはクラスメイトたちと一緒に町を脱出できるのか……という話を歌と踊りに乗せてお届けする映画です。

※ここから先はおよその話の流れに言及しながら書きます。
予告編以上の内容にも触れているので、先に読みたくないよ!という方はここまででお止めいただけるとよいかと思います。





先に触れたように本作はゾンビが出てくる映画です。皆さんご存知の、何らかの原因で死体が蘇って襲ってくるあれですね。
私はゾンビという空想の存在は、同じモンスター的存在の中でもとりわけ、人間の人間に対する恐怖を描く装置となってきた存在だと思っています。
ゾンビの親ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』には「顔の見えない相手」「個ではなく群れとしての相手」を「殺せてしまうことへの恐怖」があったと考えています(個人の意見です)。

ただ本作『アナと世界の終わり』のゾンビは「恐怖の対象」のみならず、「倒すべき対象」を表す装置として機能します。
主人公のアナは何を倒さなければいけないのか。
それはぬるま湯のような「地元」という環境、独り立ちするために離れなければいけない親、今から旅立たなければいけない町そのものです。

この映画でのゾンビは「町の住民」で「学校のみんな」で、つまり「町」です。
映画の中で起きていることは、表面的には「顔を知っている誰か」だったはずの町の人間をバッタバッタ倒していく酷い有様ですが、メタファー的なことを考えると、アナが飛び立つ前に切り捨てなければいけないものを倒していく様がめちゃくちゃ極端に描かれている、といえなくもないです。

私は自分自身も小さな町の出身で、大人になってそれなりに人口のある場所に旅立った人間なので、襲い来る町の人間(ゾンビ)を倒して先に進むアナに胸が痛くなります。
アナの親友ジョンは、アナにとっては「親友そのもの」だけど、私の目には地元の安心できる人間関係そのもので、でも夢や自己実現のために別の場所に行くと決めたなら置いていかなければいけない。
アナがずっとこのゾンビパニックの中探す父親も、尊敬しているし大好きだけど、いつまでも一生の居場所だと思ってはいけない。

アナが襲い来るゾンビをなぎ倒したら、当然だけど血が出てゾンビの肉体が千切れて飛んでいく、それは単純にゾンビを倒しているのではなくて、そうやって置いていくこと自体がアナにとっても「痛み」だから、「犠牲」だからです。
何かを得るために何かを犠牲にする、成長するにつれて人生は単純な足し算にならない、どこかで引き算も起こる、そういうことをこの映画ではゾンビを倒すことによって描いているんじゃないか……と感じます。
(もちろん切り捨てて突き進むのが絶対に正しい理というわけではなく、たまたまこの映画はそういう道を描いている、と思っています。)

(↑ 「飛び出した~~~い!」という気持ちを歌う作中の名曲 "Break Away")

さらにこの映画は何が良いって歌って踊ってゾンビを倒す映画なんです。
歌うこと、踊ること、歌詞を紡ぐこと、自分の言葉を発すること、すべて心の解放です。『スクール・オブ・ロック』だって『リトル・ダンサー』だって『いまを生きる』だってそう、そして『アナと世界の終わり』はそのついでにゾンビも倒しているんです。

(名曲揃いです 私は "Hollywood Ending"が一番好き!)

私はホラー映画、ゾンビ映画と呼ばれるジャンルの映画が好きでよく観ますが、本作はゾンビという架空の「怖いもの」を「倒して前に進むもの」に徹底して描いたところがとてもお気に入りです。
ゾンビという舞台装置の特徴の一つである「元は見知った、顔のある人物である」という部分もうまく使っていたと思います。
何より、「怖いもの」「倒すべきもの」として倒しはするけど、「忌避すべきもの」として跳ね除けるのではなく、「愛してるけど、でも行かなきゃ」という気持ちがとても大事に描かれていた気がして、それがこんなにこの映画を気に入っている理由かもしれません。

少し話が逸れますが、私はフィクションの中で「描かれた恐怖」は、決して現実の存在への忌避や嫌悪を助長させるだけさせて終わり、ではいけないと思っています。
この映画は実在する何かというより、何となく一定の人々の原風景にある「地元のぬるま湯」がその対象ですが、ここで「やっぱ地元の田舎なんてろくなことねえし捨てていいよみんな!倒せ倒せ!」と攻撃的な気持ちを人に伝播させるのは良くないんだと思います。
どんなものを観てもいつも、「描かれた恐怖」を特定の土地や人への現実の嫌悪や茶化しに結びつけたり正当化したりしないように気をつけたい。ただそれと同じくらい、映画を観て楽しい気持ちやどうしようもなく攻撃的な気持ちになること自体は肯定したい。人にはぶつけず。
そうやって自分の気持ちを自分の中で整理できるようになるためにも私は映画を観ています。

怖い物語が好きだからこそ、正しく恐怖と向き合わなければいけません。2024年もそうやってホラーに触れていこうな!という抱負を述べてアナ終わ(日本でそんなに話題にならなかったから略称がこれでよいかも分からない)のお話は終了です。ありがとうございました!
なおアナ終わは2023年12月16日現在はAmazon primeビデオでレンタル配信、U-NEXTで見放題配信されています☺

(本当はクリスマスホラーといえば『呪怨 白い老女』もとても好きなのですが、さすがにこうした場で話すタイプの恐怖を描いたお話ではなかったのでやめました。
ただ2023年は呪怨白い老女の(話の骨子部分は置いといて)最強ホラー演出無限玄関をアプデした恐怖シーンが『ミンナのウタ』で見られたので実質呪怨白い老女イヤーそしてミンナのウタイヤーだったと言っても過言ではないでしょうミンナのウタ本当の本当の本当に良いホラーだったので年末年始はホラーが観たい!という方はぜひどうぞなんか配信来るらしいから早口すみません)

最後に記事内で言及した作品をリストアップして締めとします。気が向いたときに何かのご参考にしてください。


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