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「コスパを最大化する新入社員教育とは」~ムリ・ムダ・ムラのない対策で定着・戦力化を図る~

割引あり


はじめに
 
終身雇用制度の崩壊。そんな言葉が飛び交うようになった。新卒で入社した会社で定年まで勤め上げる。

そんな時代は終わりを迎え、これからは年功序列ではなくスキルに応じた給与制度、つまりジョブ型雇用に移行していくと言われて久しい。

そんな流れもあいまって、「つらかったら逃げてもいい」という価値観が多くのメディアで発信されている。

では今の若者の早期離職、ここでの定義は「3年以内に退職してしまう新卒者」の割合はどうなっているのか。
 
31.2%
 
この数字が、厚生労働省が「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」(令和3年10月22)で発表した、大学を卒業して就職した人材の最新の早期離職の割合だ。

3割程度。この平均は昔も今も、認識として私は違和感がなかった。ただ、これはあくまで平均というところに着目していただきたい。

事業規模で分類すると下図の通り、100名未満の会社では4割、30名未満の会社では実に5割の新入社員が3年以内に退職へと至っているのだ。

 これは、企業にとっては大きな損失である。なぜなら、採用にかけた投資のリターンを得る前に、つまり人材が育って会社に貢献する前に退職に至っている可能性が高いからだ。

このように会社がかけた採用のコストに対して損失を出さず、パフォーマンスを最大化するための施策を本記事では考察していきたい。


1) 新入社員にかかったコストとは


まず、新入社員の採用にかかるコストをおさえておきたい。「2019年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」によると、新卒社員における採用単価の平均は1人あたり48万円であった。

また、リクルートの「2019就職白書」によれば平均採用単価は73万円。つまり、業界、業種でばらつきはあるものの平均すると1人あたりおよそ50~70万円のコストがかかっている。

近年の採用はこれまでよりも選考フローが複雑化したこともあり、この2019年の発表当時よりもさらにコストが上昇している可能性がある。

こちらのコストはいわゆる外部コストである媒体やナビサイトへの掲載料と、内部コストである人事担当の人件費や交通費などを包括した金額だ。

これらのコストに加え、新入社員が成長した後に会社にもたらしてくれる利益を考慮すると、早期離職による会社の損失は大きいことがわかる。

では、このような損失を防ぐ上で、会社が新入社員を迎える前にできることは何があるだろうか。

2) 既存社員にしておくべき教育とは


本記事の表題に示した「コスパを最大化する新入社員教育」を実現するには、新入社員を迎える前に既存社員の教育に注力しておきたい。

経営者や人事が課題感を持って新入社員教育に注力したとしても、配属された現場で経営者や人事と全く異なる価値観や意図で既存社員が接することがあれば、それが会社の不信感へとつながり、退職の温床となるからだ。

会社のMVV、すなわちミッション、ビジョン、バリューの中で、バリューについて改めて既存社員に浸透するなどの施策。

それは新入社員の入社前にあわてて実施するものではなく、常日頃から全社会議等の機会を通じておこなっていくものなのでここでは割愛する。

それより、新入社員が上司や先輩に対して不信感や不満を抱く場面に対して予め布石を打っておきたい。つまり、次のような不満を取り除いておきたい。

【不満を与えやすい上司や先輩社員の傾向】
①部下が報告や相談をしたときに、パソコンに向かって作業をしながら話を聞く
②部下からの依頼や仕事に対しては締め切りを守らず、自分の上位者からの依頼ばかり優先する
③なぜその仕事が必要なのか意味を伝えずに、ただ「やって」としか言ってこない
④不機嫌な態度を取り、周囲に気を遣わせる
⑤帰宅しようとすると、露骨に帰りづらい雰囲気を出す
⑥計画性がなく、場当たり的に急な締め切りで依頼をしてくる
⑦決裁事項をため込んで、毎回催促しないとフィードバックを得られない
⑧噂を真に受けて、一方からの情報を得ただけで決めつけてしまい、偏った判断をおこなう
⑨会社や仕事に対して愚痴をこぼし、職場にネガティブな空気をつくる
⑩長い時間をかければ頑張っているという価値観があり、生産性を上げる努力をしていない

これらの10項目に対し、あなたの会社の管理職、また先輩社員たちはどれぐらいあてはまるだろうか。

新入社員のモチベーションを上げる施策を検討するよりも、このようなモチベーションを下げる要因を取り除くことのほうが先決だ。

本当であれば1つでもあてはまってほしくないところだが、もし3つ以上あてはまる人材が職場にいるようであれば、先にその社員の教育に注力するか、新入社員と接しないような部署配置にする必要がある。

厄介なのはこれらの項目があてはまる人材に限って、新入社員の退職の申し出に際し、入社前の説明内容に不足はなかったのかなどと人事側に責任を置いてくるのだ。

このような社員を教育するには、評価制度を構築して終わりにするのではなく、経営者が自ら理念を何度も発信できるとよい。ただ理念を浸透するには定期的に1on1をしていく必要がある。

もし難しいときは人材教育のプロにお願いし、外注してでも既存社員の教育に注力することで、新入社員が安心して働ける環境を整えたい。

これらの環境を整えた後に、いよいよ新入社員へのアプローチが可能となるのだ。

3) 配属の前に新入社員にしておくべきマインドセットとは


あなたの会社では新入社員への教育プログラムはどのように設計されているだろうか。入社時に研修はおこなわずに、いきなり部署に配属してOJTにて育成をはかるという会社も珍しくないだろう。

OJTのメリットはすぐに仕事を覚えてもらえるという点だが、デメリットは属人化しやすく、教える側の能力によって新入社員の成長度合いが左右されて再現性が低いところだ。

さらにOJTでは技術や仕事のやり方の継承に重点が置かれやすく、社会人としてのマインドセットは後回しになってしまう。

社会人としてのマインドセットをおろそかにすると、様々な場面で訪れる迷いや悩みに対して新入社員の自助努力では解決が難しくなる。

私はこれまでの教育業界での知見やトップマネジャーとしての経験から、Off-JT、つまり仕事を離れて講義を受講する形態によるマインドセットの研修こそが人材定着、はては会社の利益に貢献する素養を作る大事な教育だと確信している。

マインドという表現だと「稼ぐ力」に比べて軽んじる人間も出てくるが、要は「人間力」の向上を指している。

ではどんなマインドセットの研修を施したら良いのだろうか。その話に入る上で、前提を整理しておきたい。教育には大きく分けて3種類存在する。

⑴事前指導
⑵現場指導
⑶事後指導

このうち最も大事なのはどれか、おわかりだろうか。最も大事なのは事前指導である。事前指導の役割は、次の2つだ。

①納得感のある伝え方でルールを予め周知しておくこと
②仕事をする中で抱く不安に対し、捉え方を変えられる布石を打っておくこと

例えば①の例として、職場の身だしなみについて事前指導に注力した場合と注力していない場合とで比較してみる。

■事前指導に注力している場合

◇事前指導
「当社ではいつ取引先が来社するかわからないので、誰が見ても好感の持たれる身だしなみを心がけてほしい。誰が見てもというのはつまり、誰か1人でも不快に感じたら、それは修正する必要があるということだ」
(後日、新入社員が髪を染めてきた)

◇現場指導
「その髪色は、当社では少し明る過ぎるな。接客するにあたって、私と同じように不快と感じる人も出てくるだろう。誰か1人でもと伝えてあったと思うので、そこは改善してほしい」
(事前指導で周知されていたため、納得し、改善)

◇事後指導
改善されたため、特になし

■事前指導に注力していない場合

◇事前指導
(身だしなみについて特に触れない)
(後日、新入社員が髪を染めてきた)

◇現場指導
「その髪色はちょっと気になるな。常識的に見ても、改善したほうが良い」
(A先輩と自分との髪色の違いがいまひとつわからず、なぜ自分だけ指導されるのか納得いかない)

◇事後指導
(後日面談時に、新入社員側から髪色の基準について質問される)
説明に追われ、しかし一貫性を持った説明ができず、無駄な不信感を与えてしまう。新入社員が周囲に愚痴をこぼすようになり、職場の風土を立て直すのに多大な労力がかかる。 

以上は極端な例だが、本質として伝えたかったのは、事前指導に労力を前倒しにすると事後指導の労力を減らせるという点だ。

これを「フロントローディング」という。元々は製造業界の言葉で、計画、設計時に労力をかけずにおろそかにすると、後々の工程で修正が生じ、より多くの労力が割かれることを意味している。

新入社員研修も同様で、新入社員の入社時に事前指導をおろそかにすると、事後指導に多くの労力が割かれることになる。

次に新入社員研修における事前指導の役割として先ほど挙げた2つのうち、②「仕事をする中で抱く不安に対し、捉え方を変えられる布石を打っておくこと」の例を挙げていきたい。

わかりやすくするために仕事をする中で抱く不安を症状、捉え方を変えられる布石を処方薬として整理する。

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