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志賀原発で何が起きていたか? ⑥東芝、日立、三菱の変圧器の耐震性と基準地震動の見直しなど。段差は80ヶ所

五月雨式取材ノートで恐縮だが、前回(「志賀原発で何が起きていたか? ⑤壊れた変圧器は、データ改ざんのあった三菱電機製だった」)、【3月25日加筆】1号機の変圧器は「東芝製」であると北陸電力に確認したとしたが、細かく記録しておくが、能登半島地震で一時的または現在も機能不能状態の変圧器は3台あった。


変圧器3台3社

1号機起動変圧器(東芝性)
油漏れしたが、修理部品があり今年8月に修理完了予定。
2号機励磁電源変圧器(日立製)
油が揺れて圧力を調整する板が割れただけで破損ではない。2月に取り替え済み。
2号機主変圧器(三菱電機)
これが3月4日の参議院予算委員会で試験データに改ざんがあったことが確認されたもの。復旧時期については未定だ。

これら細かく確認できていなかった点を月曜(3月25日)朝一で北陸電力に尋ね、回答を待っていたところ、15時から原子力部部長と土木建築部長が現況についてプレス発表するという。

3つのリリース説明

発表の中身は、2号機主変圧器の損傷箇所についてリリース添付資料1、海面上での油膜の原因と対策リリース添付資料2、断層、敷地地盤、津波などリリース添付資料3だった。変圧器の説明図は以下の通り(図A)。

図A:「令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について
(2024年3月25日 北陸電力株式会社 北陸電力送配電株式会社 )添付資料1より

2号機主変圧器の損傷について新たな発表①②③

図Aは、1月5日に北陸電力が「令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報) 」で説明した以下、図B1番右の変圧器本体(ピンクで塗られた部分)内部調査で、新たに明らかになったことの説明だ。

図B令和6年能登半島地震による志賀原子力発電所の影響について(第5報)
(2024年1月5日 北陸電力株式会社)

つまり、今までは図B1番右の変圧器本体(ピンクで塗られた部分)で漏えいがあったことはわかっていた。今回はその内部調査(図A)で、③冷却器の配管が損傷していたこと、結果として、①本体上部にある「プッシング」(ケーブルの固定とケーブルとケースを絶縁する器具)という箇所に損傷放電した痕があり、②そのケースにも放電した痕があった、と3点を新たに明らかにしたのだ。

なお、冒頭で、この2号機主変圧器の復旧時期は「未定」と書いたが、これらの取替範囲や工法などを調整中で決まっていないのだという。

会見で分かったいくつかのこと

さて、この発表で、これまでに抱えていた疑問点をいくつかクリアできた。
概要は次の通り。

損傷と耐震性との関係性:建築基準法

Q:今日の説明で変圧器の油漏れがどのように起きたのかはわかったが、噴霧消火設備の作動は、耐震性とどう関係があるのか
A(北陸電力原子力部長):噴霧消化器は安全装置。地震とは関係なく、油漏えいを検知すると火災につながる可能性があるので自動的に作動する仕組み。

Q:油漏れと耐震性はどのような関係があるか?
A
:地震の揺れで設備の一部が損傷、そこに油が入っていたのが漏れ出た。

Q:損傷と耐震性との関係性は
A:変圧器の耐震設計は、建築基準法で、1倍の耐震性で設計することになっている。10年に1回ぐらいの震度4程度の地震では壊れてはダメ、数百年に1度の震度6(400ガル)の地震では部分的損傷はいいが、倒壊してバラバラになってはいけない。この概念に照らすと、設計想定の中で収まっている。

建築基準法(400ガル)と民間規格(500ガル)の関係

Q:読売新聞社に対する当社の抗議内容について(2月5日掲載)」では「変圧器は一般産業品と同等の耐震設計(耐震Cクラス)が要求され」「500ガル程度の揺れまで耐えられる」とあった。400ガルと500ガルの差は?
A:変圧器を作るときには、建築基準法の考え方の範囲内で、日本電気協会(JEAC)が作る民間規格を用いて設計する。このガイドでは0.5G、約500ガルの静的な力でギュッと押した時に(揺らすのではなく)、変圧器には地面を埋め込んでいるボルトがあるが、そのボルトが変形してはいけないとしている。それが達成できれば建築基準法を満たせるということ。

1号機地下で399ガル。2号機は?

Q:1号機の地下2階で399ガルということだが、2号機は?
A:399ガルは1号機の原子炉建屋地下2階(岩盤に直付けにおいてある)、耐震設計の最高クラスの建物に置いてある地震計で記録された。その外にある変圧器ではもっと大きな地震の波が来ている。では、その変圧器にどれぐらいの地震の波が来たのか、何ガルの地震がきたかを解析途中。取りまとめ次第、公表する。

Q:2号機主変圧器は1号機変圧器より大規模に壊れた。2号機地下や変圧器が置いてあった場所も解析するか。
A:変圧器は1号機2号機も標高11メートル。同じ地震でも、地下構造、岩盤の性質、地層で地震の伝わり方は大きく変わる。1、2号の解析結果を待ちたいと思うが、2号の方がもしかすると若干大きな波がでてくるかもしれない。

東芝、日立製変圧器の耐震性

Q:1号機起動変圧器(東芝)、2号機励磁電源変圧器(日立)の耐震性は?
A:2号機種変圧器と同じ0.5Gつまり、約500ガル。

三菱電機のデータ改ざんについて

Q:三菱電機製の2号機主変圧器は、データ改ざんがあったと国会で明らかになったが、データ改ざんが耐震性についてあったかどうかを確認するか?
A:不適切事案があったのはご指摘の通り。そちらについては、一部の「交流耐電圧試験」など雷の耐性についての試験の改ざん。耐震性については、特段、不適切事案はなかったと確認をしている。(会見後にさらに広報担当者に電話で尋ねたが、実は、設計当時の記録が見つからなかったと述べた

基準地震動1000ガルの変圧器耐震性500ガル

Q:志賀原発の基準地震動は1000ガルだが、変圧器の耐震性はそれより弱くていいのか。
A:原発の安全性を考える上で、1の矢をしっかりすればいいという考え方もあるが、原発は深層防護なので、1の矢がだめなら2の矢、3の矢と深い層をもって安全性を確保する概念。検討の余地はあるが、1000ガル、耐震Sクラスにするかとそこまでは考えていない。2の矢は非常用発電機、3の矢はモバイル(可搬型)の電源。それらをいかに強くできるかという考え方を展開する。

基準地震動の見直しは、1年後以降か?

なお、リリース添付資料3で、敷地内の断層は、今回の地震に伴って活動した痕跡が認められないので「影響ない」と発表(あくまで事業者発表)。

一方、敷地周辺断層については「今回の地震の震源断層や関連する断層についての知見を踏まえ,適切に評価に反映していく」という。そこで確認した。
Q:知見が出るまでにどれぐらいと見込んでいるか?知見がでた後、基準地震動の見直しはありえるか?
A:我々、調査もしている。学会は5月以降開催される。政府の地震推進本部の公表も1年以内に行われるかもしれないと承知している。私どもは、得られた知見を速やかに評価しながら、基準地震動の評価も反映すべきものは反映する。

基準地震動とは、原子力施設の事業期間中に発生しうる最大の揺れだ。今回の能登半島地震での最大は、同じ志賀町の富来地区の地震観測計で2,828ガル。志賀原発1号機地下2階で399ガル。基準地震動は1,000ガル。それでいいのかどうかという話である。

その検討が1年後に始まるかどうか。何度も繰り返すが、原発が電力の安定供給に資するというのは幻想でしかない。その間に伸ばすべき再生可能可能エネルギーが能登にはないのか?

【タイトル画像】赤線が段差80ヶ所

会見で北陸電力は、敷地地盤には80ヶ所の段差(「変状」と表現)が確認されたが、深部と連続していないから、発電所施設の機能に影響はないと発表(下図)。

また、1月5日は、物揚場中央の舗装コンクリートで最大35㎝の段差が生じたと発表していたが、今回の添付資料3P.3では「平均 0.04mの沈降」とした。また、「西南西方向に 平均 0.12m」ズレたことも発表した。

令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について(3月25日現在)
(北陸電力株式会社 北陸電力送配電株式会社 )添付資料3「敷地地盤に発生した変状」より


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