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「偽装請負」って何?

 東京電力福島第一原発の多核種除去施設(ALPS)配管の洗浄作業で、高濃度(約44億ベクレル/L)に放射能汚染された洗浄廃液が作業員にかかる事件が2023年10月25日に起きた。
 被ばく原因の1つは、アノラック(カッパ)が未着用だったこととされたが、着用指示の有無や曖昧さから、「偽装請負」が疑われている。この偽装請負については参議院の東日本大震災復興特別委員会でも質問が行われた。
 しかし、偽装請負とはそもそも何で、どうして起きるのか。
 労災を被った本人や家族、安全衛生活動、原発労働者支援に力を注いできたNPO法人東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長にお話を伺ってきた。


Q1:そもそも偽装請負ってなんですか?

 派遣先に派遣されている労働者に対して、派遣先が業務の指揮命令を行う、本来、これが派遣法で認めている仕事の仕方です。
 しかし、派遣事業ではなく労働者が現場に派遣され、派遣先、派遣元、派遣労働者という関係ではなく、現場の発注者が下請の労働者にあ〜せ〜、こ〜せ〜と指揮命令をすることは派遣法違反です。これをいわゆる「偽装請負」と言います。
 言い換えれば、請負の発注者と下請の関係の下で働く下請労働者は、あくまで下請業者から指揮命令を受けるのであって、発注者から指揮命令を受けることは基本的には禁じられているわけです。

Q2:偽装請負は、労働者からみてどんな問題がありますか?

 本来は、自分を雇っている下請業者に雇用責任がある。たとえば、安全衛生管理は、あくまで下請業者の責任です。
 ところが、雇い主である下請業者が、現場のことについて発注者に任せきりにすれば、下請業者はその責任を放棄することになる。労災が起きた場合、本来、労働者の安全管理や労災防止をやらなきゃいけない下請業者が、発注者に責任を押し付けることになる。
 下請労働者から見たら、誰が労災を補償してくれるのかということになる。下請労働者が発注者の指揮命令に従えば、下請業者の安全管理や法的な責任が曖昧なものにされてしまう。

Q3:たとえば、今回の東電のケースは?

 3次請が3社で別々の会社だとすると、そこでのコミュニケーション、指揮命令は、別々なわけです。すると、現場の業務が円滑に遂行されず、コミュニケーションギャップを生み、本来、守らなければいけない作業手順がチェックされないままに事故が起きるリスクをはらんでいます。
 現場の人は混乱するんじゃないでしょうか。誰が責任を持って指示するのか、誰の指揮で動けばいいのか、はっきりしなかったり指示が変わったりする。本来、あってはいけない現場です。ALPSみたいな被ばくリスクが高い設備でそれが日常化された結果、その弊害が今回、表に出てきたのかという感じがします。

Q4:雇用主はなぜ偽装請負をするのでしょう?

 一般的に言うと、多重請負構造そのものは、「中抜き」つまり、請負金額を中で抜いて、仕事だけ下請に任せる、要するに仕事を下請に卸すだけで儲けちゃう業者がいる構図。
 東電がある程度、労務単価を上げているつもりでも、途中で抜かれてしまえば、末端の労働者に対して改善の影響が及ばない。
 多重請負構造を是正すべきだと、我々は前から言っているが、中間搾取をして儲ける業者がいて是正されない。
 元請にしても、そういう業者がいた方が、必要な時に必要な労働者を集めてもらえて業務をさせられるところが便利。
 発注者も、必要な労働者を集めてもらって業務を担ってもらうという安易さがある。
 偽装請負はそうした構図の中にある。しかし、東電の場合は、発注者だから、直接的には労働安全衛生上の責任はない。

Q5:その東電の責任をどう考えますか?

 今回のALPSでの作業については、特定原子力監視・評価検討会(12月18日)をライブで見ていたが、東電としては東芝エネルギーシステムズに任せていたが裏切られた、みたいなことを小野氏(福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント)が言っていた。伴(信彦)委員がたしなめていたが、東電としては責任逃れと言われてもしょうがない。
 本来であれば自分たちのプラントなので、発注者の立場であったとしても、現場の作業員の被ばくリスクは最終的には東電が責任を負わないといけないと僕は思う。だけどそれも含めて元請に丸投げし、チェックもどれだけやっていたかは疑問だし、やはり責任逃れと言われても仕方がない。
 労働安全衛生上の発注者責任は、今は必ずしも認められていないが、被ばく対策は東電がやるべきだ。労働安全衛生法の改正で、発注者に対して一定の網を被せる必要があると以前から厚労省に求めているが、まだそうなっていない。
 建設事業、造船事業、原子力産業では、やってはいけない指揮命令を下請労働者や孫請労働者に対してすることも昔から行われてきました。
 そこに複数の会社の社員が混在することで、いろいろな労働安全リスクを招く。東電がいかにツールボックスミーテンング(TBM)をやっていますとか危険予知(KY)やっていますといっても、不具合や事故の予兆が起きたときに、どう対処するのか、労働者をどう退避させるのかといった問題については、まったく無防備であったことが明らかです。

Q6:東電は、偽装請負を否定していますが、どう思われますか?

 明らかに偽装請負ですよね。
 その上に、この設備でこれかと驚愕しました。今、汚染水の海洋放出で注目が集まっていて、デブリを取るという究極の廃炉作業も計画はされ、そこも大変な被ばくを伴うが、ある意味、それと同列の被ばくリスクの高い作業としてALPSの作業があるんじゃないか。その中で、ホースが結わえ紐でくくってある。「固縛」なんて言葉も初めて聞きましたけど、そこらへんのマンションの基礎工事と違うのに、これかよ!と。

Q7:最後に「偽装請負かも?」と思ったら誰に言えばいいですか?

 規制者で言えば、労働基準監督署や都道府県の労働局。
 それから、どれだけ機能しているかわかりませんが、東電については、毎年、「労働環境改善アンケート」をやっている。指揮命令を受けている会社からではなく、他から賃金をもらっている偽装請負の可能性があるような働き方、長時間労働などについても書いて出すようになってはいる。また、アンケートの用紙には、相談窓口が開設されていることも書かれているので、そういったところに通報することもありうる。
 また、外部の相談機関として、被ばく労働を考えるネットワークや東京労働安全衛生センターもあります。

飯田勝泰さんプロフィール 1959年生。NPO法人東京労働安全衛生センター事務局長。1987年に前身組織である東部労災職業病センターの専従職員となり、以後、労災職業病の被災者、家族の相談活動、労働組合の労災防止、安全衛生活動の支援に取組む。原発労働者支援局を担当。

【タイトル写真】

飯田勝泰さん(ご本人にお願いして、ご提供をいただきました!)

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