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「100ミリリットル」を「数リットル」に訂正:福島第一ALPS内の44億Bq /L廃液

統一します(お詫び)「ℓ」→「L」(2023.11.2と1.6に修正)

いや、びっくりした。すみませんが長文です。


びっくりしたのは、「10月28日の日報をお配りしております」と会見担当が、会見資料の一つとして説明し終えようとした時だ。日報には次のようにある(長いが記録のために抜き出す)。

 10月25日午前11時10分頃、増設ALPSのクロスフローフィルタ出口配管(吸着塔手前)の洗浄を行っていた協力企業作業員5名に、配管洗浄水またはミストが飛散した。このうち協力企業作業員1名の全面マスクに汚染が確認され、またAPD(β線)の鳴動を確認。
 今後、汚染の状況確認および除染を実施する。
 同日、身体汚染の可能性があると連絡があった協力企業作業員5名のうち1名は身体汚染が確認されておらず、身体汚染があった作業員4名のうち2名は除染が完了しているが、残り2名については現在も身体汚染が残っている。なお、作業員5名の鼻腔スミヤを行ったところ、内部取り込みは確認されなかった。身体汚染が残っている2名については、汚染レベルは下がってきているが、退出基準(4Bq/cm2)以下までの構内での除染は困難であると午後7時23分に判断し、福島県立医科大学附属病院へ搬送。なお、救急医療室の医師の診断の結果、放射線障害による熱傷の可能性は低いと判断。
 午後10時25分に福島県立医科大学附属病院に到着し、医師の受診と除染を開始。その後、医師の判断により除染の継続ならびに経過観察のため入院。なお、汚染部位の皮膚への外傷は確認されていない。
 入院していた2名の協力企業作業員については、本日(10月28日)退院しています。なお、元請企業によると、現時点で2名の協力企業作業員の体調面に問題はなく、汚染部位の皮膚に特に異常は確認されていません。

2023年10月28日福島第一原子力発電所の状況について(日報)

広報担当者は日報に目を落としながら、2名の退院について述べたが、それは、既にリリースされていたので、想定内。しかし、次の言葉に目が点になった。

記載内容は問題なし、「説明の際に、少し誤った」? 100mL改め数L

「そのことに関しまして、先週10月26日に公表しました資料について。この記載内容につきましては、問題はありませんでしたが、説明の際に、少し誤ったところがありますので、訂正をさせていただきます。」動画13分30秒あたり(こちらだが、じきに消える)。

飛散した量について、元請企業のヒアリングにより、飛散した洗浄廃液は数リットル程度であったことが確認できております。具体的にどのくらいの量ということは特定することは難しいですが、ミスト状のものが飛散したというところにつきまして、少し訂正させていただきます。」

10月26日中長期ロードマップ進捗会見資料「汚染水・処理水対策」92枚目

びっくりした。先日書いたように「最初は100mLと述べていたが、会見中に、記者に「タイベックを抜けて皮膚に浸透したのに本当に100mLか」と追及されて「撤回」した」のだ。それが「数L」に訂正なのに、「少し誤った」と述べた。

全て口頭で虚偽の記録を残さない

しかも、日報を見ても、元の「誤った情報」も「訂正情報」も書いていない。

口頭で記者に聞かれて、作業員が浴びたのは床に飛び散った100mLより少ないと述べて、それを口頭で撤回したのが26日。事件が起きてから31時間後でまだ正確な量を把握していなかったことが、その時点で露呈。そして、汚染事故から5日後(127時間後)に、また口頭で訂正したのだ。

事故から127時間後に「1次請ではなく3次請3社」

訂正はこれで終わりではなかった。「続きまして(略)、作業員の方々が、1次請の作業員の方々と説明をさせていただきましたが、こちらにつきましても、誤りがありましたので、訂正いたします。作業につきました企業は1次請ではありませんで、3次請企業でございました。で、合わせて、3次請企業の3社にまたがって所属されている方々ということでありましたので、少し訂正をさせていただきます。」

「少し訂正」をしたが、この時は通常は「訂正」とセットの「お詫び」はせず、「引き続き、原因対策調査をしてまいりたいと考えております」と述べて終わった。後で、記者に質問される中で、初めて「お詫びして訂正」すると述べた。

100Lと誤報させられたメディアもいる。私も「1次下請けの作業員」と間違った情報を書かされた。私も連鎖的に詫びなければいけないではないか。そのことを謝れ!と言いたいぐらいだ。

しかし、以下の4ページを見ての通り、「1次請」と書いていたわけでもない。新しく日報に書いた訳でもない。どのような作業環境で事故が起きたのかに関する基本情報を記録に残さず、口先だけで説明して、口先で訂正した。

10月26日中長期ロードマップ進捗会見資料「汚染水・処理水対策」93枚目

説明はこれだけで、次の会見資料への説明へと移り、全ての会見資料の説明が終わって、記者質問に入った。

元請企業として説明責任を果たしていない東芝エネルギーシステムズ

3番目に質問した私の前までに、「数L」情報は、「退院をした方にヒアリングしてわかった事実」→「厳密には元請(東芝エネルギーシステムズ)を通じてヒアリングをした」→100mL情報も「元請(東芝エネルギーシステムズ)からのヒアリングで確認したことだった」ということがわかった。

被ばく事故に関する基本的な情報が、事故から127時間にわたって、元請(東芝エネルギーシステムズ)と東電により、報道機関に知らされることはなかった。

ちなみに、「2017年10月1日に(株)東芝より分社し、発足いたしました」と四柳端・代表取締役社長(リスク管理室担当だそうだ)が挨拶をしている同社のニュースリリースサイトを見ても、自ら受注した作業で下請け企業に被ばくさせた事件についても、お詫びも謝罪も載っていない(2023年10月31日現在)。本来、東芝エネルギーシステムズが会見を開いてもいいぐらいのことではないのか。

こんな大切な情報をどこで間違ったのか

それにしてもしっくりこない。どのように「訂正」に至ったのかを聞いてみた。「(26日会見で「100mL」を疑問に思った記者に追求され)撤回したからヒアリングをしたのか、それとも撤回したこととは関係なく、改めて元請にヒアリングをしたら数Lだったとわかったのか」。

そう聞くと、「会見で説明したことというより、事実はどういうものなのかということを確認するために、作業された状況を確認した際にわかったこと」だと東電広報が答えた。主語が不明確だが後者だ。東電としては撤回しっぱなしで、自ら確認しようとは思っていなかったことになる。

そこで、「(100mLも数Lも元請企業の情報だということだが)元請企業から『訂正があります』と言われたのか」と聞くと、沈黙後、「今回の状況がどうだったのか確認する中でわかったこと」と繰り返した。常識的には、最初に与えた情報とかけなはれた情報を元請け企業が発注先に与えてしまった場合、お詫びと共に新情報が伝えられるのではないか。何かおかしい。

尋ねて尋ねて出てくる日報に書けたはずの説明

「事件が10時40分に起きて、翌日夕方の会見までに、何が起きたのかわからないままに会見を開いてしまったということか」と質問の角度を変えたが、会見担当の回答は要領を得ず、「補足する」と引き取ったもう1人の会見担当による説明は次のようなものだ。それも分かりにくいので、括弧で補足する。

「従前に(元請企業・東芝エネルギーシステムズが)ヒアリングした(入院しなかった)3名が(飛散した汚染の)拭き取りをして、拭き取りと申しましょうか、3名の方がご覧になられた床面の漏洩量が100ccだったということで、その報告を(元請企業・東芝エネルギーシステムズから)受けて、先週の木曜日に発表した。一方で、退院された2名の方に(元請企業・東芝エネルギーシステムズが)ヒアリングして、その結果わかってきたのが先ほど申し上げたこと」

つまり、時系列の「10:40頃」に「飛散水の簡易ふき取り」としか書かれていなかったが、5名のうち3名は、床に飛び散った汚染水を拭き取る作業をおこなった。彼らが床面を見て「100cc」と判断した残りの2名が退院するときに聞いたら、「数L」被ったという情報が被った当人たちから出てきたというわけだ。

10月26日中長期ロードマップ進捗会見 資料「汚染水・処理水対策」91枚目  

この説明が本当だとしたら、なぜ、そんな単純な説明が、10月28日の日報に書けないのか。公表したくない、記録に残したくない情報だったからではないのか。

なお、この床面に飛び散った情報については、おしどりマコさんが「こうした汚染事故では、これまで面積と深さで公表してきたのに、今回はなぜそうしなかったのか」を追及している。

ここまで書いて集中力が切れてしまったので、事故から127時間後に「1次請ではなく3次請3社」については、別のコマで書く。

多核種除去施設(ALPS)で不可視化されてきた仮設施設

なお、前回のノートで原始的な「仮設ホース」と「仮設タンク」として、東電が会見に参加した記者に提供した現場写真を掲載した。

写っているモノについて、10月26日(木)の会見では東電の福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントもALPS処理水対策責任者も答えることができなかったが、30日(月)会見で聞けたので、そこだけは先に書いておく。

提供:東京電力HD株式会社 撮影日:2023年10月25日

緑色のタンク
「洗浄廃液」を入れる「仮設タンク」。
1回の洗浄で「300〜500Lの洗浄廃液」が出るという。

緑色タンクの手前の鉄棒に白いテープで貼り付けてある黒い物体:
緑色のタンクの蓋。

オレンジ色のホース
増設ALPSのフィルタ出口配管(吸着塔手前)を洗浄して出てくる「洗浄廃液(今回は44億Bq/L)」を配管出口からタンクへ流し入れる「仮設ホース」。これが緑色のタンクから外れて「洗浄廃液」が飛散した。その飛散量が100mLと言っていたのが数Lと訂正された。

オレンジ色のホースを縛る白い縄ヒモのようなもの:
「固縛」位置が「タンクから離れすぎていたのでホースが外れた」と説明していたが、「固縛」とはこの白い縄ヒモのことだった。「固縛」という漢字2文字と「縄ヒモ」の実態が、かけ離れ過ぎて腹立たしい一方、滑稽で聞きながら耐えきれず、吹き出してしまった。

緑のタンク前に垂れ下がるオレンジ色の布状の物
「遮蔽のためのものかと思うが確認する」(東電)というが、そうだとしたら、こんなペラペラな切れ端で、何を遮蔽するというのか。

有毒の洗浄薬液「硝酸」の入口も仮設

なお、ここが「洗浄廃液」の出口だとして、入口で「硝酸」を入れるところの写真もくださいと求めた。東電資料を拡大してみると、洗浄薬液である「硝酸」を入れるユニットも「仮設薬液注入ユニット」だと小さく書いてある。

10月26日中長期ロードマップ進捗会見資料「汚染水・処理水対策」92枚目の右下。
干草の山の中に針を隠したみたいな資料だ。

そこに「硝酸100L」と書いてある。「硝酸100L」と1回の洗浄で「300〜500Lの洗浄廃液」が出ることの関係についても確認を求めた。

硝酸は吸入すると生命に危険があり、目に入れば失明の危険があると、厚労省の「職場のあんぜんサイト」に書いてある。そのようなものであることを作業員は知らされているのかも、あわせて、確認して欲しいと求めた。

続く。

【タイトル写真】

東京電力HD株式会社(撮影日:2023年10月25日)の提供写真から仮設ホースを「固縛」する白い縄ヒモを筆者拡大の上、切り取り。


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