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低線量被ばくとがん死亡率との因果関係が立証された論文の扱い

累積100mSv以下の固形がん死亡リスク。厚労省が国際疫学調査の検討方針を労災支援団体に約束で書いたことの続き。


山中委員長「低線量でがんが発生する云々というそういうのを聞いたという記憶はございます」

米仏英の国際原子力労働者研究(INWORKS)の結果、これまで「仮説」としてしか認めてこなかった(時に無視、軽視してきた)累積100mSv以下の低線量の被ばくと固形がん死亡率との因果関係が、「証明」された。

高線量を浴びた原爆投下による広島、長崎の被爆者の研究がベースになっていた研究が、今回も、一歩進んだことになる。そこで、4月17日の会見で山中原子力規制委員長に尋ねておくことにした。

○記者 放射線審議会でいろいろ議論があったという報告がありましたけれども、昨年の8月にフランス、イギリス、アメリカの原子力施設の労働者の国際共同研究の追加調査の成果が更新されて、被ばく労働する30万人の固形がんのがん死亡率を追ったところ、長期にわたる低線量の被ばくでこれまで見られませんと言っていた、その累積100ミリシーベルト以下でも50ミリシーベルト以下でも線形モデルが確認されたと、そういう証拠が得られたという発表があったということなのですが、これについては委員長は情報としては把握されているでしょうか。
○山中委員長 これは技術情報検討会等(*)であったように記憶はしているんですけれども、詳細、どう解釈するかということについて記憶が曖昧なので、もしマサノさん、御興味があるようでしたら、事務方に後ほど説明をしていただけます。

○記者 了解しました。
○山中委員長 多分解釈をしていると思います。記憶はあるので、はい。

○記者 先日、厚生労働省と原子力施設の被ばくの労災について、活動しているグループとの面談の場がありまして、そこで実は厚生労働省の労災審査をする検討会のほうでは、まだそれをしっかりと提示して議論にも上げていなかったけれども、今回指摘されて取り上げますということをお話しされていたので、もしかすると原子力規制委員会の間でも、まだ議論してないのかなと思いましたので、聞きました。
○山中委員長 私が聞いている情報というのが別の案件かもしれませんので、そのような、いわゆる低線量でがんが発生する云々というそういうのを聞いたという記憶はございますけれども、それがマサノさんが言われているのとぴったり一緒なのかどうかというのは後ほど事務方にちょっと確認していただいて。
○記者 ありがとうございます。了解しました。

原子力規制委員会委員長定例会見2024年4月17日速記録

直後に広報室とのやりとりで、技術情報検討会等(*)ではなく、放射線審議会の事務方である放射線防護企画課に確認してもらうことになり、回答があった。

放射線防護企画課「一つ一つの論文を取り上げることはしていない」

放射線防護企画課いわく「放射線審議会では、今後はわかりませんが、検討していない。INWORKSの論文は昨年(2023年8月)出たときに技術基盤グループが認識している。」

新知見については「一つ一つの論文を取り上げることはしていない。IAEAやICRPが刊行物を発行したときに議論しているのが我が国のスキームだ。放射線審議会の中で取り上げるべきだということになれば取り上げる」。そこで聞いた。

Q:INWORKSを放射線審議会で誰かが取り上げようといえば、取り上げるのか。
放射線防護企画課:委員が言えば、ですね。

Q:今回の新知見は、長年、積み重ねてきた結果、今までに「仮説」とされてきた因果関係が「証明」されたのだから、大きなこと。取り上げるべきではないのか。
放射線防護企画課:ご意見として受ける。

Q:現状では、「一つ一つの論文」の一つに過ぎないという位置付けか。
防護企画課:その通り。

原子力規制庁放射線防護企画課への取材メモより

より低線量の被ばくで人体に影響が出ることは既に、これまでに多くの論文で証明されてきている。しかし、放射線審議会の議論のテーブルに載せようとしない。

水俣病の「ネコ400号実験」隠蔽より悪質ではないか

これは、1959年当時、チッソ病院長の細川一医師がネコ400号実験で、「失調、麻痺を起こし疑わしいため屠殺、病理所見により水俣病発症を確認」したにもかかわらず、チッソの技術部長によって隠蔽させられたことと何が違うのか。

ネコ400号実験結果は、11年が経過した1970年の裁判で明らかになったが、INWORKSの調査結果は、、私ちの目の前にある。それを取り上げないとしたら、隠蔽よりも悪質な、やるべきことをやらない積極的な不作為ではないのか。

そして、放射線審議会の面々は、議論しようと提案をするだろうか。いや、その前に、議論しようと提案する委員が選ばれているのか。

愚行を繰り返さないように。歴史は今を生きる私たちのためにあると最近、富に思う。

【タイトル写真】

山中伸介原子力規制委員長。2024年4月17日会見にて筆者撮影。


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