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再生可能エネルギーの主力電源化の時代に、「学生実験程度」の高速炉開発か?

「ナトリウム冷却高速炉」事故のための試験で火災発生:茨城県で書いたように、日本核燃料開発株式会社という会社が、火災を起こしたのは、原子力規制庁が発注した事業だった。その続報。


規制庁は原子力規制委員たちに小出し報告

3月19日の原子力規制委員会で、原子力規制庁からはその火災について説明があったが、一体、なぜ火災が起きたのか、「何をしようとしていたのか」(杉山委員)、「どうしてこういうことになったのか」(田中委員)と尋ねられても、原子力安全研究部門担当者は、「金属ナトリウムとセシウムの混合物を作成し、エタノールでその試料を溶かす過程で発火に至った」、「エタノール95.5%に、残りの0.5%は水が入っている。そこにナトリウムとセシウムの混合試料を入れたときに発火した」と小出し回答でラチがあかない。

石渡委員が資料「7ページの原因の文書がよくわからない」と具体的に尋ねてようやく、以下の答えがあった(以下、動画は該当箇所頭出し)。

外容器のバケツに冷却用の水を入れて、そのバケツの中に直径10センチの金属のビーカーを入れ、ビーカーの中にエタノール(水0.5%入り)を入れて、そこに試料(金属ナトリウムと金属セシウムの混合物)を入れた。ビーカーの中で発火した勢いで、ビーカーが水バケツの中で倒れたようで、それで結果的に水バケツの中でも発火が生じた」

そこまで答えさせた石渡委員は、「水とナトリウムが接すれば火が出るというのは誰でも知っていることで」と呆れ果てた表情を露わにした。なぜ、そんなことになったのかは、これから原因究明が行われるのだという。

「常陽」のための試験か「次世代革新炉」のための試験か

それでも、そもそも「何をしようとしていたのか」(杉山委員)もわからない。先日、もしや、日本原子力研究開発機構などが「昔」から取り組み、実現できていない「ナトリウム冷却高速炉」のためのものか?と書いたら、常陽のためではないかというコメントをいただいた。

「常陽」は、もんじゅより一段階前、一世代前の「高速実験炉」だが、原子炉内にピンが陥ったまま原子力規制委員会が再稼働を許可してしまった後(既報)、事業者である日本原子力研究開発機構が自ら再稼働を2026年に延期し(既報)ている。不覚にもその存在を忘れていたが、確かにそれかもしれないと思い、3月19日の定例会見で山中伸介原子力規制委員長の見解を聞いておくことにした。

委員長の見解「基礎研究」「学生実験程度」

○記者 今日のトピックスで出てきた火災の問題なのですけれども、この実験は原子力規制庁のほうからの発注で行われている事業ということなのですが、これはナトリウム冷却高速炉ということで、もんじゅがないので、常陽のための実験なのか、それともいわゆる次世代革新炉のためのものなのかどちらでしょうか。
○山中委員長  (略)あくまでも推測でございますけれども、ナトリウム中での そのいわゆるFP(核分裂生成物)の挙動等に関するあくまでも基礎研究なのだろうなと いうふうに理解をしています。
○記者 そうすると、委員長自身はこういった試験が発注されていることは御存じなかったということですかね。
○山中委員長  高速炉の基礎研究をやっているということは知っておりますし、個別の各テーマについて、詳細について承知をしておりませんけれども、この件については報告受けております。
○記者 ちょっと仕様書がホームページに出ていますので、それを見てみますと、水バケツで、エタノールの中にナトリウムと金属セシウムを入れるというようなことは書いてありませんで、そのやり方については相談とか協議を原子力規制庁担当者と協議の上変更できるとかそういうことが書いてある(仕様書P15)のですけれども、そういった協議が行われた結果、水バケツでその金属のビーカーに0.5%の水が入っているエタノールでそのナトリウムを溶かすという、そういう協議が行われたかどうかみたいなのは確認されますでしょうか、今後。
○山中委員長 今回の事象は本当に初歩的なミスだというふうに私は理解しています。なので、こういうミスを防ぐために、やはり委託を受けた事業者がきちんとやっていただくのが筋かなというふうに思っています。我々はこういう、いわゆる学生実験程度の分析のことに対して、委託をする側が何か指示をしないといけないというようなことは、聞いてはいませんけど、そんなことは必要ないだろうというふうに思っています。あくまでもこれも事業者の技量の問題だというふうに理解しています。
○記者 この今回、火災を起こしてしまった日本核燃料開発株式会社は、東芝エネルギーシステムズと日立製作所が50%ずつ株を持ち合っている言わば原子力業界のプロ中のプロがつくっている会社であって、行われている場所がJAEAの敷地内だった★お詫びして訂正)のですけれども、そこでそのような初歩的なミスが起きたということについての受け止めをお願いします。
○山中委員長 まずNFD(日本核燃料開発株式会社)という会社、かつてはですが、照射された材料のホットラボでのいろいろなその高度な試験をする技術者がたくさんおられて、非常にいい仕事をされてきた会社だというふうに理解しています。こんな初歩的なミスを起こされるということは、非常に残念だというふうな受け止めです。
○記者 今回の事件と、あと、もんじゅの事件を鑑みますと、ナトリウムを冷却材に使った高速炉の開発自体を、もう、人材が枯渇している日本においては、やめるべきではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
○山中委員長 マサノさんの御意見ですよね。これもかつて答えさせていただきましたけれども、技術者として、ナトリウムを使った実験炉を使ってこれから研究していくということについては、一定の意義があるだろうという、そういう、それ以上のものではない。それ以上の何か私が述べる事柄は特にございません。

原子力規制委員会委員長定例会見 2024年3月19日 速記録
2024年3月19日原子力規制委員会
原子力施設等におけるトピックス(令和6年3月11日~3月17日)P8より
★日本核燃料開発と日本原子力研究開発機構は近隣であり、
同じ敷地ではないことがグーグルマップで確認してわかりました。
訂正してお詫びします。

発注した「規制庁技術基盤グループシステム安全研究部門」は

その後、実際のところどうなのかと、発注部署に尋ねると、担当者いわく、「常陽など特定の炉を対象にはしていない。今後、事業者が高速炉を申請してきたときに活用するため」のものだという。そこで念のために確認した。
Q:今後、新たに申請があればということですよね。
A:今後そういうものがでてくればですね。
Q:「今後そういうもの」というのは、たとえばGX基本方針でいっている次世代革新炉ということですか。
A:(仕様書では)「革新炉」という言い方ではなかったですね、「高速炉」。Q:つまり具体的なものは何もないけど。
A:そうですね。結局、基礎的なデータを今から取る段階。
Q:基礎的なデータを取る必要性が切迫しているとは言えない時点ですよね。

「そんなの止めちまえと言いたいんですけど」と笑って取材を終えたが、実際、笑い事ではない。

再生可能エネルギーの主力電源化(エネルギー基本計画)に向かっているときに、日本原子力研究開発機構は半世紀前の夢の高速実験炉「常陽」の再稼働に躍起になり、一方で、東芝系列と日立がお金を出し合った会社が、ナトリウムとエタノールをビーカーで混ぜるときに出る熱を水バケツで冷却しようとして、発火させ、その勢いでビーカーが水バケツの中で倒れて炎上したことの原因究明に時間や人材を費やす。これが日本における原子力開発の現状だ。

この国は変だ。今回の火災現場で人々が炎上したバケツの前で立ち尽くしている以下の写真が、それを物語っているのではないか?

2024年3月19日原子力規制委員会
原子力施設等におけるトピックス(令和6年3月11日~3月17日)P9より

【タイトル写真】

2024年3月19日原子力規制委員会 資料
原子力施設等におけるトピックス(令和6年3月11日~3月17日)P9より

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