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高浜原発3号機:老朽化ではないのか?

関西電力の高浜3号機(38歳)の「伝熱管」が損傷したと原子力規制庁が10月17日に発表(関西電力(株)から高浜発電所3号機で確認された蒸気発生器の伝熱管の損傷について報告を受理)した。


熱を原子炉からタービンに伝えるU字の管

「伝熱管」は「蒸気発生器」の中にU字型をした管だ。「蒸気発生器」の中で、「伝熱管」は原子炉で熱された水(1次冷却水)が下から入り、グルリとU字型の上部を回り、再び下部から出る。その間、2次冷却水に熱を伝えて、2次冷却水がタービンを回して発電。1次冷却水は2次冷却水で冷まされ、原子炉を冷やすことになるので、人間で言えば、心臓や肺のように重要なパーツだ。

原子力施設等におけるトピックス」P6
高浜発電所3号機のECT信号指示管位置図より

「結構見つかっている」が「高経年化の事象」ではない?

高浜3号機には蒸気発生器がA、B、Cと3本あり、今回見つかった損傷は2つ。
A(3269本の伝熱管)の1本で外面から減肉(管の厚さが薄くなった)。
C(3261本の伝熱管)の1本で内面の割れ。

翌18日の原子力規制委員会では報告がなかったので、記者会見で「これは経年劣化によるものか」を原子力規制委員長に尋ねたが、回答は以下の通りだった。

山中原子力規制委員長: 高浜3、4号機、今回3号機でございましたけれども、3、4号機、蒸気発生器の外面割れというのは結構、各定期検査中に見つかっております。これについては、劣化事象であるとは判断しておりますけれども、高経年化の事象であるとは考えておりません

2023年10月18日原子力規制委員長会見 議事録より

「ある時点を境に一斉に劣化することもあり得るんじゃないか。運転期間で区切るということが非常に重要じゃないか」と食い下がったが、山中委員長は、「定期検査で見つかる劣化事象」であり「高経年化事象であるというような判断はしておりません」という。しかし、「劣化事象」と私が聞いた「経年劣化」は同じことではないのか?

定期検査で発見→基準適合まで停止

原子力規制庁総務課事故対処室によれば、「技術基準規則第18条及び第56条に定める基準に適合していない」(関西電力からの報告の概要)として、対応が終わるまでは高浜3号機は稼働できない。当然、そうでなくては困る。

蒸気発生器Aの伝熱管は「スケール」による「フレッティング」

山中委員長は、外面については鉄の「スケール」による「フレッティング」、内面割れについては応力腐食割れが原因だと、18日の会見で述べた。チンプンカンプンだった。

「スケール」とは「鱗」という意味がある。公表資料P4には「2次冷却水に含まれる鉄の微粒子が、蒸気発生器内に流れ集まって伝熱管に付着したもの」とある。「フレッティング」とは、2つの物体が当たって生じる傷のようだ。
つまり、蒸気発生器Aの伝熱管は、付着した鉄の微粒子が、当たって減肉した。

原子力施設等におけるトピックス」P9

美浜原発では「フレッティング」で運転中に破断

過去には美浜原発2号機(参考)で、「伝熱管」と「揺り止め金具」による「フレッティング」で、伝熱管が破断して、原子炉が自動停止した事故が起きた。

この件は、今日(10月25日)のトピックスで高浜3号機の報告があった時に、石渡委員が質問していた。(なお、死者が出た美浜原発3号機は、1次冷却水ではなく、2次冷却水の配管が原因の事故だ。)

高浜原発3、4号機の蒸気発生器は傷だらけ

ところで山中委員長が会見で回答した中で述べた「3、4号機、蒸気発生器の外面割れというのは結構、各定期検査中に見つかっております」というのは、その通りだった。

2022年7月の関西電力の発表(高浜発電所4号機の定期検査状況について(蒸気発生器伝熱管の渦流探傷検査結果))がそれを表していた。

3、4号機のあちこちで、蒸気発生器は傷だらけだ。

2022年7月8日関西電力
高浜発電所4号機の定期検査状況について(蒸気発生器伝熱管の渦流探傷検査結果)」添付資料3

「セセン?」

17日の会見で、伝熱管を交換すれば大丈夫というものなのかと尋ねると、「施栓(せせん)をすれば使用できる」と山中委員長。思わず「セセン?」と聞き返してしまったが、後で聞いてみると、U字の伝熱管の入口と出口の両方を塞いで、水が入らないようにするのだという。

熱交換の機能がその分、減ることになる。施栓された管は、高浜3号機だけで10146本のうち、370本(応力腐食割れが25本、減肉が6本)もある。

原子力施設等におけるトピックス」P5
高浜発電所3号機の定期検査状況について (蒸気発生器伝熱管の渦流探傷検査(ECT)結果)

ビックリ3連続

そういうものなのか?とビックリしたが、ビックリなことは他にもあった。

関西電力は、高浜3号機と4号機の不完全な伝熱管には見切りをつけて、蒸気発生器を丸ごと取り替えるのだ。製造を受注した三菱重工業の発表でそれを知った(参考:三菱重工業「関西電力高浜発電所の3、4号機向け、取替用蒸気発生器の製造・取替工事を受注」2023-04-26)。

いちいち「セセン」している場合ではなく、もはや全取っ替えした方がいいという判断だろう。これを老朽化と言わずしてなんというのか。

もっとビックリしたのは、原子力規制庁事故対処室は、関西電力が蒸気発生器を発注したことを知らなかったこと。

彼らの任務はあくまで、今回、伝熱管が損傷して、それが基準不適合になったことに対して、事業者に対応させることだから、蒸気発生器丸ごとの全取っ替えについては知らないという。そして、蒸気発生器を取っ替えるなら、設置変更許可申請が必要になるだろうが、審査の担当者は別だと。

それはそうなのだろうが、「施栓」で急場をしのいで、実は「全取っ替え」というやり方はどうなのか。

心配なのは全取っ替えできないパーツ

つまり、全取っ替えできる「蒸気発生器」は若返っても、他の取り替えができないパーツはどうなのか。例えばケーブル接続部(既報)。

原発老朽化問題は、今、始まったばかりだ。しかも、西日本で増加する老朽原発。それは偏西風の存在ゆえに、日本全国民の問題だ。

経産省「日本の原子力発電所の状況」より

【タイトル画像】

原子力規制庁2023年10月25日「原子力施設等におけるトピックス」 (令和 5 年 10 月 16 日~10 月 22 日)P.9より

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