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何が違う「除染・溶融」と「高い低いを混ぜる希釈」。福井県の原発金属リサイクル

2月5日の「第3回福井県クリアランス集中処理事業に係る意見交換会合」の概略未満のメモをまとめたが、必要最低限のことを加えておく。原発で放射化した金属の取り扱いについてだ。


一見縛りをかけた後に規制緩和

第2回の会合では、原子力規制庁(以後、規制庁)が論点を提示し、福井県側が質問する形で規制緩和に向けた議論が進んだ。規制庁が、一見、縛りをかけるような表現で論点を提示するが、質疑で1往復すると緩和に向かっていた。たとえば

  • 規制庁が、クリアランス推定物については「放射能濃度がクリアランスレベル以下であることが十分に予測できるものを対象」にすると提示。

  • 福井県が「具体的に規定されているもの」はあるかと質問。

  • 規制庁側が「規定はない」が、「幾つかのものを混ぜて溶融してという形」、「どういうものまでを希釈と呼ぶのか」を伺いたいと答える。(議事録

第3回の会合は、第2回で上がった論点への回答を福井県が用意し、それを元に議論が続けられた。たとえば、上記への回答は

  • 福井県は「除染作業及び溶融による効果も考慮し、クリアランス推定物を選定する」「全てのクリアランス推定物を除染した後に溶融する計画」と説明。「DF100は確保できる」(*)との表現もあった。一方で、「クリアランス基準を満たすためにあえて非放射性の金属を混ぜることが、意図的な混合・希釈に当たる」「意図的な混合・希釈は行わない」とも。つまり「意図的」にでなければ「除染と溶融」もできないが、「意図的な混合・希釈は行わない」と、まるで「除染と溶融」は「混合・希釈」と違うことのような表現を使った。

  • これに対して、規制庁(安全審査官)が「除染作業というのは(略)DF100ぐらい取れるだろうという話もありましたので。例えば除染係数20とか100とか、適切な数値を設定してもらって、対象物がこれくらい物理的な除染で放射能が落ちるだろう」、「プラスアルファで溶融によって除染する効果も考慮する」、「したがって、除染作業と溶融による効果を考慮して除染係数を定めて、クリアランス推定物を選定していきますという説明を受けたのだと思います」とまとめた(議事録

(*)「DF」とは何かを会合後にすぐ担当者に聞くと「なんだったかな。なんとかFactorです」と述べたが、「Decontamination Factor(除染係数)」とも「Dilution Factor(希釈係数)」とも考えられる。いずれにせよ、放射線が100倍薄くなることを意味する。要するに「希釈」だ。私が無意識に「希釈」という言葉を使っていると、担当者は「念のために言いますが、希釈ではなく、除染・溶融です」と言い返してきた。DFに関してはこんな質疑もあった。

意図的な200倍はOKで、何が悪意?

  • 規制庁(安全審査官)が「例えば物理的な除染がDF100としますと。 溶融除染による希釈がDF100とします、例えば。100+100で200落ちるとしますと。(略)最初に受け入れたときにはクリアランス基準は満たしていないと。で、200倍落ちたらクリアランス基準を満たすものをまず受け入れると理解しました。(略)それをさらにクリアランス物を混ぜることによって薄めると。そういうことは決してしませんと。それは悪意のある行為だから、と認識しましたけどちょっとそれで合ってますかね」と確認した。

  • これに「その御認識で結構です」と即答したのは、福井県ではなく、オブザーバーの関西電力の原子力事業本部廃止措置技術センター 所長だった。

  • この確認に至るまでには次のやりとりもあった。規制庁が「意図的な希釈というのは放射能濃度確認対象物と放射能濃度確認対象物以外を混ぜる」こと、「クリアランス推定物同士を混ぜるという行為はそれは意図的な希釈に当たる」というと、関西電力が「悪意を持って高いものをクリアランスにするために、低いものと混ぜること。これを意図的な希釈と今認識しております」と、自らも、それぞれも、違うことを言い合っているのだ。

結局のところ、例示として挙げた200倍もの意図的な溶融と、悪意のある希釈の差はまったくわからない。どちらも「希釈」ではないか。

被規制者と共にルール作りする規制庁/放任委員会

2日後の2月7日の原子力規制委員長の定例会見で、以下、聞いておいた。

○記者 月曜日(2月5日)に、福井県の原子力リサイクルビジネスについて会合がありましたが、これについて伺います。これまで、電力事業者だけがクリアランスレベルを下回ったものを外に出すということをしてきましたけれども、先日の会合では、クリアランスレベルの100倍、200倍高いものを除染する、あるいは溶融することによって、その時点でクリアランスレベルをクリアすればいいという、大きな政策転換について議論されていました。これ、大問題だと思うのですけれども、この政策転換は一体なぜどのようになされたのでしょうか。
○山中委員長 その報告については、まだ委員会では受けておりませんので、リサイクルについての何か委員会として方針変化があったというふうには考えていません。

○記者 委員会が歯止めをかけるということもあり得るということですね
○山中委員長 もちろんその委員会で議論させていただきたいと思っています。

○記者 (略)最初に始まったときは廃炉を前提としたリサイクルビジネスという話だったと思うのですけれども、今回、通常運転から出てくるものについても、クリアランス推定物ということでさっき言ったような扱いをするということでどんどん拡大されていっていますけれども、これもやはり問題があるのではないか。
○山中委員長 クリアランスに関してのこれまでの基準を見直すということは、何か議論したわけではございませんので、何か基準規則を見直す必要があれば、改めて委員会で議論したいというふうに思っています。

2024年2月7日原子力規制委員長会見録

消えた。「除染」後の「放射能測定」

第1回福井県資料
第3回福井県資料

福井県は第1回と第3回に「クリアランス推定物」の処理フロー図を出しているが、これも規制緩和の方向に変化している。第1回で「除染」の次にあった「放射能測定」が第3回で消えた。「測定」は溶融後だけになってしまった。

つまり十分に除染できたかを確かめることなく「溶融」(放射能が高いものと低いものの意図的な混合・希釈)ができてしまう。

また、第3回のフロー図では「除染」の下に「*十分に除染できないと考えられるものは細断等適切に処理する」が加筆されたが、「適切に処理」が「発電用原子炉設置者に返還」することか「溶融」することかは不明だ。

確かなのは、規制者が被規制者に相談しながら、ルール作りをしているということだ。これが国会事故調で指摘された「規制の虜」だと、原子力規制委員長は気づかないのか、気づいていて放任しているのか。

【タイトル画像】
第3回福井県クリアランス集中処理事業に係る意見交換会合福井県資料 より 処理フロー図


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