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政治少年死す【エッセイ】

 もう「時効」だろう。なので、白状しよう。
七十年安保前年。札幌の予備校に通っていた年。大江健三郎の禁断の作品『政治少年死す』を、自費出版しようと活動していたことがある。同作品は、六十一年、『文学界』二月号に掲載された。が、右翼の抗議を受けて次号で謝罪し、封印されることになる(五十七年間も)。前年の浅沼委員長刺殺事件の犯人、十七歳の山口二( おと )矢( や )をモデルにした、小説だ。
北大に入った同期Tの兄が、掲載誌を持っていることを知り、Tに協力をもちかけた。私は決して政治的人間ではなかった。ベ平連のデモに時々参加する程度。が、その時代の切迫感だけは感じていた。一方Tは、北大の革マル派の拠点、恵迪寮にいた。彼は自ずと活動家として学生生活を、すごすことになる。
出版といっても、自分でタイプライターで打ち、製本だけを本職に頼んだ。作品の文字数は、六万字。写植するように、ガシャンコガシャンコと一字一字を打つ。要した時間は記憶にないが、受験前には完成していた。
Tは札幌、私は受験地東京で売った。右翼に見つかったら刺される、とビクつきながら、友人の大学寮などに潜りこみ、売りまくった。
その後、Tは挫折し北大を去り、札幌医大を受けなおし、今、医者になっている。
私といえば、結局二浪を経験。が、その活動が、後の人生の糧になっている(たぶん)。

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