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風【エッセイ】

 『北の国から』の舞台、麓郷。六十年前、小学一年までの三年間、すごしたことがある。
 その地域一帯は石灰質の岩盤の上にあり、開拓者は石に悩まされたと聞く。黒板五郎が建てた石の家。そんな地質も関わっている。
 家は市街にあり、少し離れた所に東大演習林があった。森を小川が流れ、春が来ると、その川が秘密基地になる。底は岩盤で、透明度が高く、プールにもなる。両岸の木々が覆いかぶさり、ドームを形成していた。今、グーグル・マップで見ると幅のある川ではないが、子供の体躯からすれば巨大で、緑に囲まれた、神秘的で幻想的な、空間だ。倉本氏が見つけていたら、純や蛍らの遊び場になっていただろう。
 冒険小屋を造り、高学年の子を隊長に、毎日のように集まった。初夏には川面を揺らす緑風を感じながら、小屋で気ままに昼寝をすることもあった。真夏には、浅瀬の岩盤に仰向けに横たわる。キラキラとした木洩れ陽が落ちる中、水中の小石が転がる音、葉をなでる風の音を聞きながら。今も、木々のトンネルを爽やかに、吹き抜けていることだろう。
 放映後に観光地になった麓郷を、二十数年前、弟家族と車で訪れたが、その森には行っていない。その後倉本氏が関わって造られた「風のガーデン」を、いつか訪ねるとともに、その森も探してみよう。はたして、あの風を同じように感じることが、できるだろうか。

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