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ともしび【エッセイ】六〇〇字

早大エクステンション「エッセイ教室」春講座。三回目のお題は、「ともしび」。
女性は母一人。あとは、男ばっかの四人家族。二つ違いの弟が女の子だったら、と母はよく口にしていた。もしそうだったら、もう少し明るい家庭だったろうに、と思うことがあります。文中のアイテム、従姉妹が読んでいた少女漫画、「りぼん」や「なかよし」の付録が好きでした。男のよりもたくさんあってカラフルで、「女の子いいなあ。こんなに楽しそうな付録ついているんだ」と思いましたね。

               ※
 ただただ、母の笑みだけが、救いだった。
 うちは、女性は母のみ。父と弟との四人家族。「タカ(弟)が、女の子だったら良かったねぇ」と、母が口にしていたほど。男だけのうちは、ホント、暗い。
 海軍出身の父は、短気で無口。父に野球を教わっていたので、会話は、キャッチボールと、二人がファンだった長嶋選手が打ったとき、テレビの画面に目を遣りながら。母は、乱暴者で封建的な父に、ひたすら耐えるひと。大声で笑うことはなく、いつも床を拭いている姿があった。子たちの成長だけを楽しみに生きた、ひとだった。
 近くの町に母方の親戚があり、小学生のころ、よく泊まりに行っていた。同い年の従妹と、四つ違いの姉と弟との家族。伯父も海軍出だが、伯母の尻に敷かれているような温厚なひと。従姉妹は、「りぼん」や「なかよし」の付録でよく遊んでくれた。女性が多いと、こんなにも明るいのかと、行く度に思った。
 戻ると、快晴のなか山小屋に入るときの暗さを感じたが、迎えてくれる母の笑顔は、パッと点る蝋燭のように明るくしてくれた。
 そんな母の優しさに見守られ、多くの迷惑をかけながらも、母のおかげで東京の大学に。就職し落ち着いたら、母が行きたいと言っていた東京に呼んで、一緒に暮らしたいと、考えていた。
 が、大学二年のとき。「ハハ キトク」の報を受けることに。戻ると、黄疸が強くすでに意識がなかった。急性劇症肝炎だった。翌朝早く、蠟燭の炎が揺らぎ、スゥーっと消えた。
 笑みをかすかに浮かべているように、見えた。

(おまけ)校閲クイズ

『残雪』に続いての母の想い出話なので、(おまけ)のクイズでお茶を濁しました。 (-_-;)

東京新聞朝刊に毎金曜日に掲載されている記事です。
実際に赤字を入れた原稿を問題にしたクイズになっています。わかりますか?
解答は、前回のエッセイ『ウォーキング小景』の最下部にあります。

東京新聞朝刊2023年4月14日


東京新聞朝刊2023年4月21日


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