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裏窓【エッセイ】六〇〇字

 バスの後ろ窓から、遠ざかる風景を見ていると、1匹と、2人の、姿が浮かんでくる。
 小学2年のとき。父親の異動で、富良野市下金山から、旭川市の北に位置する愛別町に、引越しすることに。移動の日。飼っていた黒猫を抱いていたのだが、父が言った。「猫は家に付くから、置いていくぞ」と。泣きながらお願いしたが、ダメだった。納屋に餌を置き、食べている隙に、バスに乗った。追っかけてくるような気がして、最後列に座り、小さくなる納屋を、じーっと見つめていた。
 小学5年。札沼線の終点・沼田町近くの北竜町から2駅隣りの雨竜町に転校したあと。沼田の本屋に行った帰り、バスで北竜を通りかかった。最後部で、外を見ていると、親友だったYくんを見かけた。彼も気づき、手を振った。すると、バスを追いかけてくる。「あああ、大丈夫?」と、心配した。心臓病で入退院を繰り返していたのだ。1か月後、亡くなったことを、級友から連絡があった。
 大学2年の夏休みに帰省したとき。両親は、帯広市近くの大正町にいた。愛国駅や幸福駅、帯広を観光した後、3日で帰京することに。もっと母のもとにいてあげれば良かったと、悔いている。バス停で、遠ざかって行く息子にいつまでも手を振る母の姿が、目に焼き付いている。帯広で、両親と3人で、名物「豚丼」を食べたのが最後の、外食となった。4か月後、急性劇症肝炎で、50歳で逝った(寂聴より1つ下。生きていれば98歳)。
 その後、座席は前と、決めている。

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