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繊細さ【エッセイ】六〇〇字

早稲田EC「エッセイ教室」秋期講座、四回目(全八課題)のお題は、「繊細さ」。さて・・・? 繊細ではないワタクシが、繊細な表現ができるのかしら。またも悩むが。お得意のネタで。(笑

 「おこうぐらいで酒飲んでね、焼き上がりをゆっくり待つのがうまいわけですよ、うなぎが」とは、池波大先生の、有名なお言葉。
 最近、そんな大先生好みの店を、発見。四谷・荒木町で近所。惑わせるアテも、なし。還暦から十年余、江戸から続く店が馴染みだった。が、代が変り、妙に早く出てくる。繁盛店なだけに、焼き置き? と思い始め、探訪し始めていた。
 初日。サイトに品書きがなく、電話で確認すると、肴がない。一回り下そうな、無愛想な女の声。(ワタクシ流で)白焼きも、肝焼きも頼むと、いい肝がとれたらという、条件付き。
 店は夫婦で営み、四人席五卓の広さ。四代続く老舗らしい。奥の厨房近くに、予約札が。座るなり、女将が、“感染防止”を捲し立てる。相席の際のアクリル板の確認と、呼ぶときはマスク着用、という趣旨。五類になっても、この用心深さ。安心感を覚えた。が、愛想は、相変わらず良いとは言えず。よく言えば、江戸っ子気質。
 「酒二本、常温。と、おこう、先に」と、大先生を真似る。新香の量はアテになる程は、ある。銚子は、零れるくらいになみなみと。弾力と歯ごたえある肝がとれたようで、続く。そして、白焼きが、決定打となる。ふっくら感は、焼いた直後。沢わさび。すりたて。身に乗せ口に入れると、その辛甘味が拡がる。厨房は窓ガラスで仕切られており、様子を見ながら焼いている。三十分後に、(お初なので)特上、ご登場。一部重なっている。ご飯の硬さ、タレの量、合格。「立つ鳥跡を濁さず」。一粒も残さないのがワタクシ流。拘りの規範ルールである。
 勘定は、現金のみ。頑固な店にはよくあること。四方山話が進むにつれ、愛想かげんが柔らかくなってきたのも、高評価だった。
 十日後。着席するなり口上が始まりかけたので、「了解。呼ぶときはマスクね」と封じると、笑顔。帰りしな、「義父ちちがね。秋刀魚が来ると、鰻屋は空くって」と言ったのだが、「サンマもいいけど。鰻が、好きなので」と、店を出る。

(おまけ)
そうか、われに「退屈」がないのは、失敗の連続だからか。いちど書いた原稿を、「ああ、ダメだこりゃ」と毎日書きかえ、挙句に、師匠に駄作だと言われる。その連続だものなぁ・・・。

朝日新聞朝刊(2023年10月25日)

(こたえ)

①    商い益々繫盛
②    ご商売益々繁盛
③    大繁盛


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