遠くから見ると
犬に見えた

近寄ると猫のようにも見えたが
思いのほか足が多い

よくよく見ると
課長に顔が似ているし

スマホのカメラで撮ろうとすると
ボディービルダーっぽく見える

酔っ払っているからだろうかと
明日も来てみる

すると
もう一匹増えている

電信柱を挟んで
狛犬のような立ち位置

しかし犬というよりは
狸に近い

思い切ってグッと近寄ると
ハシビロコウみたいに振る舞う

素面のおかげで
昨日よりはハッキリ見える

けどスマホのカメラを向けると
ボディービルダーに変わりはない

近くに交番があり
お巡りさんが無感情で立つ

聞いてみる
あそこのアレは
いつもいるんですかい？

するとお巡りさんは
目玉だけコチラを見て

ああ
あれですかい
アレは
月の第二週だけ
一週間現れやす
ある人には犬に
ある人には猫に見えやす
中には
虎や雉だなんつう人もいたり
果ては
アメリカの大統領だなんて
馬鹿みたいなことを
真剣そのもので話す人もいやす
あっしですかい？
あっしにはメンフクロウと
オオカマキリが
月替わりに現れてやしたが
今はもう何も見えねぇ
なんでかはよく分からねぇが
母親の葬式が終わったら
パッタリでさぁ

ああそうなのかいと
相槌を打ったついでに
アレの方に目を見やると
二匹のうち一匹が
ずんずんずんと
こちらに寄ってくる

最初はポニーか何かで
瞬きをした次は
でっけぇ白熊か何か
目を擦ってもう一度見ると
スーツを着て
大羽根を拡げてやがる

おいお巡りさんよ
職務質問でもしてやってくれと
振り返ったところには
狐が一匹
向こうに歩いていく

してやられた
恐怖とあきらめ
動悸と呆然
まぁいいさと居直ると
真っ黒い影が覆い被さる

何秒かにも感じられたし
何分だとか
何時間だとか
そうかもしれない

目を開けると
あの電信柱も交番もない

やっぱり疲れていたのかと
帰宅してカップラーメンを啜る
いつもより旨い
あと肩凝りがない
（お金がないことには変わりがない）

あの日以来
アレは見えなくなった

けれど時折困ったことがあると
あの辺をうろつくことがある

すると交番もないのに
お巡りさんがひょんと
職務質問してくることがあったんだ
狐目のお巡りさんがね