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第15話 リーダーとフォロワーの認識の差異~アンケート調査結果より

 今回もお読みいただきありがとうございます。スキやフォローをいただいてる方々に心から感謝しています。引き続きよろしくお願いいたします。第9話で、リーダーは、リーダーとはこんな人だという「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」を拠り所として、特定のリーダー行動をとり、そのリーダー行動をフォロワーは、自身が持つ「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」によりその行動を比較・評価して、両者が整合しておればリーダーへの評価は高く、リーダーへの支持は強くなり、リーダーに自発的に追従する。整合していなければ、リーダーへの評価は低くなり、リーダーへの支持はそれほど強くならないということを説明しました。(第9話をまだお読みになっていない方は、この機会にお読みいただければ嬉しいです。)

 読者の方々から、「貴方の言うことは理解できるが、すべてリーダーとフォロワーの認知のことを述べているので、実際のところ、どうなの?」という質問が多数ありました。
 なので、今回は、「リーダー・プロトタイプ像」や「プロトタイプ的行動」には具体的にどのようなものがあり、そのことがどういう意味をもつのかということを、アンケート調査により調べた結果について説明させていただきます。

 ある公的機関のリーダーとフォロワーに対し調査票による郵送アンケートを実施しました。アンケートは、リーダーあて35名分、フォロワーあて626名分を配布し、郵送により回収しました。回収数(率)は、リーダーが26名(74.3%)、フォロワーが333名(53.2%)、そのうち、有効回答は、リーダーが26名、フォロワーが306名と、かなりの多くの方々にご協力をいただきました。
 質問内容の問1は、リーダーあても、フォロワーあても、「リーダー・プロトタイプ像」を明らかにする質問で、「今までの経験(仕事、学校生活、体育クラブ、ボランティア活動など)の中で、最もすごいと思ったリーダーの特性(「勇気がある」「公平な」など)25項目について、それぞれ、「最もよくあてはまる」から「全くあてはまらない」の5点尺度で回答を求める方式」で行いました。
 その結果、リーダーもフォロワーも、最もすごいと思ったリーダーの特性として共通して高く評価するのは、「行動力のある」、「頼りになる」、「叱ることができる」、「信念のある」、「目標指向的」、「きぜんとした」、「先見性のある」、「公平な」でした。
 これに対して、「懲罰的な」、「打算的な」については、共通して低く評価していました。
 さらに、リーダーとフォロワーとで、高く評価する特性として、差異があったのは、リーダーは、「勇気がある」、「わくわくさせてくれる」という特性について高く評価しているものの、部下社員であるフォロワーは、「理解力のある」、「部下の意見を聞く」、「協力的な」、「勤勉な」を高く評価していました。

 この結果が示す意味について考えてみましょう。二つあるように思います。
 一つ目は、リーダー自身が思い描く、すごいリーダー、つまり「リーダー・プロトタイプ像」というのは、「わくわくするような夢を掲げて、勇気をもって部下社員をグイグイと引っ張っていくようなリーダーである。」このことは、任命されたリーダーとしての立場上、フォロワーを引っ張っていかなければならないという思いから、高く評価したのだと考えられます。
 これに対して、フォロワーが思い描く、「リーダー・プロトタイプ像」は、「まじめに、部下の意見を聞いてくれたり、部下社員を理解してくれたり、協力してくれたりという、まじめで、親しみやすい特性を持ったリーダーを高く評価している」ということです。
 第2話でも紹介しましたが、ある生命保険会社が実施した「理想の上司」アンケート調査が、今年も、2022年4月就職予定の男女を対象に行われています。その結果、理想の男性上司は「内村光良」さん、理想の女性上司では「水卜麻美」さんがともに、“親しみやすい”、“優しい”といったイメージで6年連続1位を獲得しています。筆者が調査したフォロワーが描く「リーダー・プロトタイプ像」の結果とも、ほぼ符合しています。
 もう一つの意味は、こちらの方が、実践面において、とても大切なのことなのですが、第9話で、リーダーは、自身が持つリーダーとはこんな人だという「リーダー・プロトタイプ像」を行動の拠り所とするということをお話ししましたが、部下社員は、親しみやすい特性を持ったリーダーを高く評価していることを知らずに、自身の勝手な思いから、自身のイメージである、俺について来いとばかり、グイグイと引っ張っていくようなリーダー行動をとった場合、振り向いたらついてくる部下社員は誰もいなかったといった、ことになってしまうかもしれません。もっとも職場ですから、第5話でマネジメントでも人は動くことを説明いたしました。表面上は、追従しているかもしれませんが、面従腹背という言葉もあります。時間外の居酒屋では、部下社員の酒の肴になっていることも想像されます。

 次に、アンケートの質問内容の問2では、問1で回答した、最もすごいと思ったリーダーがどのような行動をとっていたのかという「プロトタイプ的行動」を測定する質問を実施し、その差異を測定しました。具体的な質問項目は、第11話でお話しした、三隅(1984)のPM式質問の16項目を使用して、リーダー行動をP行動(目標達成行動)と、M行動(集団維持行動)とに分けて、PM測定を行いました。その結果、「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」との関係について、興味深い結果が得られましたので紹介します。
 「リーダー・プロトタイプ像」に関する質問は、25項目あり、しかもリーダーの特性を聞く項目ですので、その特性を回答した原因となる因子を探るべく、多変量解析手法の一つである因子分析という手法で分析しました。そして、ポジティブなリーダー・プロトタイプ像」をもつフォロワー群とネガティブなリーダー・プロトタイプ像」を持つフォロワー群を抽出しました。それら2群の「プロトタイプ的行動」のP得点とM得点とを求めて、平均値の差を統計的に検定し、有意差を確認しました。
 その結果、ポジティブなリーダー・プロトタイプ像」を持つフォロワーは、ネガティブなリーダー・プロトタイプ像」を持つフォロワーに比べて、リーダーに「PM」型のリーダー行動を期待している。反対にネガティブなリーダー・プロトタイプ像」を持つフォロワーは、リーダーに「pm」型のリーダー行動を期待していることが分かりました。つまり、ポジティブなリーダー・プロトタイプ像」を持つフォロワーは、リーダーのP行動(目標達成行動)もM行動(集団維持行動)も高く評価しており、ネガティブなリーダー・プロトタイプ像」を持つフォロワーは、それらを余計なお世話や白々しい行動と認知する傾向にあることがうかがえます。このことは、第11話でも、火事の現場の例をとって「PM」型、目標達成行動も集団維持行動(部下社員への配慮行動)も、ともに強く発揮しているリーダーシップ・スタイルが唯一絶対のものではなく、状況次第で有効なリーダーシップ・スタイルが異なることを説明しましたが、同様に、フォロワーが認識している暗黙のリーダー像である「リーダー・プロトタイプ像」の差異によって有効なリーダーシップ・スタイルが異なるということを実証したものとなっています。
 以上、リーダーとはこんな人で、こんな行動をとる人であるという「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」との関係について数値で明らかにしましたが、次回は、同じくアンケート調査結果から、リーダーやフォロワーが、認知上高く評価する行動である「プロトタイプ的行動」と「実際のリーダー行動」についての差異について数値で明らかにしていきます。そして、これら一連の結果から見えてくる、最も大切なリーダーシップの本質とは何かに迫っていきたいと思いますので、ご期待ください。

(参考文献)
池中正司「リーダーとフォロワーとの相互影響関係の視点から捉えたリーダーシップの研究-日本郵政公社への調査を中心にして―」,『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』第24号,2007年,131-145頁。
淵上克義『リーダーシップの社会心理学』,ナカニシヤ出版,2002年。
三隅二不二『リーダーシップ行動の科学 改定版』,有斐閣,1984年。
明治安田生命相互会社HP:https://www.meijiyasuda.co.jp ニュースリリース2022/02/01。


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