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「転写する旅」



ある日空から落ちてきた探査船は、どうしても隠しきれない秘密を燃料に、裏の森に降り立った。木々の隙間からほのかな焚き火が見える。狼煙は空高く伸びている。星を眺めれば吸い込まれるようで、量子的な何かに意識を食われる。気づけば真白の中にいて、またしても感動していた。

いつかの記憶で夏を象徴するような女性が、ある日夢に出てきたようで朝起きる。脳が認識を獲得していくうちにぼんやりと忘れる。最近出逢ったあの人か?女性の影は瞬くうちに消える。目尻には涙が渇いていたが、きっと哀しくなかったような気がする。

湖のほとりで、昔亡くなった人がいるという。避暑で訪れた家族には14歳の少年がいた。適度に伸びた桟橋で湖に足をつけたまま寝転がる。雲が大きすぎる夕方。幽霊は対岸で彼を見ている。手を振るが幽霊にはそれがないということに気がつく。まるで恋のようだなと思う。

これはいつかの記憶の話。打ち合わせを終え四谷から新宿まで歩く途中。219円の電車代が浮いて、130円の飲み物を買うのをやめる。音楽は金にならない。僕は足先を内側に向けて歩くから、次第に膝が痛くなってくる。交差点を決して綺麗とは言えない老人が歩く。抜かしていくサラリーマン。何台の車が、何店舗の店が、何人の人がここを通り、今どこかに消えたのだろう。視線が奪われる光の河に街の輪郭がぼやけて立ちくらみがする。僕はどこに行こう?

翼に扇風機を二個くっつける。これで少しだけ遠くへ飛べるはず。今のこの躯体の性能でどこまで飛んで行けるだろう。そんなことをコントローラーを握って思う。右手を複雑骨折した誰かのことを思う。恐怖から目を背けた誰かと出会う。またもスパークするソロをイメージして涙する僕は、果たしてこんな所まで飛んでいけるだろうか。この躯体がどれだけの性能なのかを探る。

宇宙よりも遠い遠い場所の話。いつだってホラ吹きみたいなはぐれもの。そんな人に着いていく事もきっと未来ある事。駅構内、滴る傘の先にコンバース。泣いているように見える。何度も折られる心を補修するのはあの人の爛漫や弱さ。吐きながらも辿り着くその先で、真意を問う。あなたに出会う為になら。

自分には何もないと常に思っている。感覚も技術も知性も品格も人間性も。圧倒的に劣っている。だから焦る。気づけばそこには経験と感動の蓄積だけ、ある。好奇心の方向に、傷だらけになりながら手に入れたちっぽけなもの達。いざ!これを信じるしかない。やるしかない。空腹も苦痛も鬱も乗り越えてきた負け犬達よ、遠く遠くへ吠えろ!


日々を生きる中で、社会と自分の関係性を探る。街に転写されたようなルールを守りながら転々とするような旅路で、君は何を想うだろう。

きっと君は君のままでいいし、僕も僕のままでいい。

感覚も愛も澱みもリテラシーも、点在しているから定めない。このロードムービーのような連続を味わって、何を想うか、それだけだ。

2024.04.03

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