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マンホールからベンガルトラまで その22

リスペクト


ジャパニーズレストラン青空に無事戻り、落ち着いた洋風テラスでカツ丼を食べる。お店の雰囲気とカツ丼がナイスミスマッチ。
しかしここはなんでも美味いな。
疲れた身体にカツ丼が沁み込む。

ポカラ最後の夜だった。もうすぐ旅も終わる。

隣の席に座っていた白人の青年と日本人青年との声が聞こえてきた。
少しギョッとしたのは白人男性の言葉が流暢な日本語だったからだ。

日本人青年が「それじゃあまた。」と言って席を立った。

ちょっと気になったので白人の顔立ちをした彼に話しかけてみた。
「すいません。」
二人で話してるところにいきなりは話しかけづらいが、一人ならいける。

「こんにちは。日本語上手なんですね。ハーフの方ですか?」

「そうなんです。日本で育ったのでほとんど日本人なんですけどね。顔立ちが外人寄りなのでよく英語で声をかけられますよ。」

気さくに話してくれた。彼の名前はよしき君。
まだ20歳を越えたところらしいが、物腰が落ち着いて見える。

ドイツ人とのハーフなのもあって、国際的な接点が多く、英語、ドイツ語に堪能。
高校生の時にネパールで一年間ホームステイしてたのをきっかけに日本の高校生とネパールの学生を繋げるコミュニケーションの橋渡し的な事を続けているらしい。
高校生の時からそんなことをしてるんだって。すごい若者がいたもんだ。
今回は企画の下調べで来ているようで、ポカラに日本学生を連れてきて、こちらの学生との交流や、ネパールでしか出来ない体験をしたり、ネパールの貧困と子供達の教育格差を知ってもらう企画だという。
素晴らしい活動だけれども、どうしてこういうことをするようになったんだろう。その理由を聞いた。

「ネパールには貧困のために餓死したりする人もたくさんいます。
学校に行けない子供達がいっぱいいます。
親に売られて肉体労働を強いられている子供達もいます。
知識としてそういう事を知ってる人は沢山いるかもしれないけど。私はそれを実際に見てしまったから、日本でただ楽しい日常生活を送ることは出来なくなってしまいました。
本気で世界を変えて行くことが私のやりたいことです。」

だって。
めちゃくちゃ年下なんだけど、尊敬できる点が多すぎて拍手するしかないね。こりゃ。

そんな人が目の前にいると思うとなんか涙出そうになる。
でも、今まで私が会った事ないだけで世の中にはこういう社会的な悲しみを自分のものとして考えて世界を変えようと活躍している人がたくさんいるんだろうな。

なんか想像したこともなかった。こういう人が実際にいることを。
彼みたいな人達の地道な活動が世界を少しづつ豊かなものにしてきたんだろう。

闇に光を当ててきたんだろう。

この旅に出て自分の想像範囲から越えたことが多くて笑えてくる。
自分の当たり前が当たり前じゃなかったんだってことに笑えてくる。知らないことがどれだけ多いだろう。

やっぱり体験しなくては。体験の衝撃が自分を変えて行くんだ。それを改めて教えてもらった出会いだった。

私は彼の成功を心から願った。

ポカラ最後の夜は月が綺麗だった

旅立ちの日の当日。

朝からホテルの前はお祭り騒ぎだった。というかお祭りだった。
ホテルの上の階から道を見下ろすと人だかりの円の中でカラフルな衣装を身に纏った人達が踊っている。

下に降りて私も人だかりに加わる。
道化師みたいな格好のお兄さん達が回ったり、ミュージカルみたいに踊ったり。
こんなものがポカラを出る前に見られるとは思わなかった。まるで私の出発を祝ってくれているみたいじゃないか。いやー、ありがとう、はっはっは。

ホテルの人に聞いてみると、ガイジャトラというお祭りだそうで、亡くなった人の魂をあの世へ送り出す日本でいうお盆みたいな行事らしい。賑やかなお盆だなあ。
あ、ごめん。さっき私の為のお祭りみたいなこと言ったけど、私のことはあの世へ送り出さないでいいからね。

ホテルでお世話になった人達に挨拶をして行く。
特にネパールの曲、レッサンフィーリーリーをギターで教えてくれたエマには感謝の五円玉を渡して連絡先を交換した。

「次会った時、ギターで歌えるように完璧にマスターしとくからね。」

「頑張って。私も日本行ってみたい。いつか行けたらその時はよろしく。」
エマはそう言って力強く私の手を握った。

ハーフのよしき君とも連絡先を交換してお互いの成功を祈りあった。
彼の存在が沢山の人達を変えて行くきっかけになるだろう。私みたいに。
なかなか思い通りにいかない時もあるかもしれないけど、諦めずに頑張ってね。そしてちょっとずつ世界を救っていって欲しい。

大勢の人に見送られながら、(ほとんどお祭り目当てに集まった人だったが)バス乗り場へ向かった。

カトマンズまでバスで行って2泊して飛行機で日本へ帰る予定だ。

ポカラの遠くに見える白い山並みをバスの車窓から眺めながらまた訪れたい所だなと思った。今度は山に登ったり山岳地帯に住む人達の集落を撮影するのもいいかもしれない。

アンナプルナの山々にさよならを言ったあと、瞼を閉じる。
長距離のバス移動に備えて眠りに入った。


宿泊してたホテルの前に沢山の人だかり

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