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ドキュメンタリー映画上映会の再発明!「初めて」の連鎖の始まり

「10/24(日)に岩井真美子さんと一緒にドキュメンタリー映画「インディペンデントリビング」のオンライン上映会&対話会を企画した。

32名の方が映画視聴に申し込んでくださり、13名の方が対話会に参加してくださった。

今後、オンライン上映会を企画する方の参考になるように、何を意図して企画したのか、共同主催をして気づいたこと、などをまとめておきたいと思う。

ドキュメンタリー映画との出会い

私にとってドキュメンタリー映画が身近になったのは、2016年のことだ。311後に福島に残ったお母さんたちを描いた、鎌仲ひとみ監督『小さき声のカノン』との出会いがきっかけだった。

私自身が、311をきっかけに東北を離れたということもあり、離れた人、残った人の間に生まれた分断に当事者として心を痛めていた。

だからこそ、残った人の目線に寄り添ったドキュメンタリー映画を見て、残った人の気持ちについて考えることができるのはありがたかったし、集まった人同士で対話する試みにも可能性を感じた。

ドキュメンタリー映画を応援する人たちが、日本各地にいて、上映会を企画しているということも知った。上映会を主催するグループの一つと繋がり、鎌仲さんとも知り合った。

2016年12月に渋谷のLoftで行われたイベント「No More Hibaku~分断を乗り越えるあたらしい試み~」では、自主避難した人がZoomで参加するハイブリッド形式にチャレンジし、オンライン側のテクニカルやファシリテーションを担当した。

「No More Hibaku~分断を乗り越えるあたらしい試み~」で見えた市民運動の新たな形

これは、私にとって、ドキュメンタリー映画をきっかけに、社会活動に関わるという体験だった。

ドキュメンタリー映画の主催者をオンラインで組織化していくことで、活動をさらに広げていけるのではないかという議論を、当時、鎌仲さんとしたことを覚えている。

しかし、新型コロナウィルスの蔓延によって、ドキュメンタリー映画を取り巻く状況が一変した。人が集まる上映会の実施は困難になったからだ。

映画の製作費を、クラウドファンディングや上映会の収入で賄っていくというモデルは、上映会が実施困難になると成立しなくなる。そうなれば、ドキュメンタリー映画の存続が困難になるのだ。

鎌仲さんから「オンライン上映会のやり方についてアドバイスしてほしい」という連絡が来て、一緒に考えることになった。

ぶんぶんモデルという新しい可能性

オンライン上映会をやること自体は難しくない。事前にオンラインでの映画視聴を可能にし、Zoomに集まってイベントをやればよいからだ。

難しさはそこではなく、別のところにある。

鎌仲さんが主催するぶんぶんフィルムズのドキュメンタリー映画は、映画を見た人が、当事者意識を持ち、自分自身が動くことで社会に変化が起こせるのだということに気づくきっかけとなるコンテンツである。

だからこそ、当事者意識を持った主催者によって、各地、各コミュニティでオンライン上映会が行われることが重要なのだ。

参加型のオンライン上映会ムーブメントをどのように起こすのか?

これが、鎌仲さん、監督の田中悠輝さん、共同主催の岩井さん、私の4人の間に生まれた問いだった。

参加者⇒主催者という循環が生まれるオンライン上映会モデルを「ぶんぶんモデル」と名付け、具体的な方法を考えることになった。

共同主催の岩井さんと一緒にアイディアを練り、3層構造のイベントを企画した。

1)チャットをしながら一緒に映画を見る

約100分の映画を各自が自分の都合のよい時間でみられるように期間限定の視聴URLを発行して参加者に送付した。

しかし、せっかくだから、一緒にワイワイと見たいというニーズもあると思い、一緒に見たい人はAM10:30にZoomに集合することにした。カウントダウンして映画の再生ボタンを同時に押し、Facebookグループのコメント欄で、「この言葉が響く~」などと書きながら、一緒に見ていることを実感できるようにした。

Zoomで画面共有するという方法もあるのだが、そうすると画質が落ちるので、Zoomで集まって軽く自己紹介をして、カウントダウンして再生ボタンを同時に押したら、Zoomを閉じるというのが、今回のやり方だった。

2)出演者やプロデューサー、監督に想いを伝える未来フェス

当事者意識を持つ第一歩は、自分を表現することだと思う。

通常、上映会にゲストが来ると、ゲストが話して参加者が聴くという時間がメインになる。

しかし、私たちは、ゲストに向かって一人ひとりが自分が感じたことを表現する時間をメインにした。

参加者一人ひとりが5分ずつ、映画を見て感じたことを率直に話していく「未来フェス」というやり方を採用し、岩井さんと私を含めた14名が、想いを語った。

私たちが、この時間を企画したときに抱いていたイメージは、「オンライントーク寄せ書き」というものだった。色紙に言葉を書いてプレゼントするように、出演者や製作者に言葉を話してプレゼントしたいと思ったのだ。

私たち一人ひとりが想いを伝えた動画を、当日来られなかった出演者や製作スタッフの方たちに共有してもらうことで、また、違った価値が生まれると思う。

3)放課後作戦会議

未来フェスが終わった後、いったんイベントを終了し、「放課後残って話したい人は、1時間ほど話しましょう」と呼びかけた。

今回参加して、自分も上映会を主催したいと手を挙げてくださった方とは、小グループで作戦会議を行った。

残った人たちは、出演者の恵美さん、チョッキさん、田中監督などを交えた、ざっくばらんなおしゃべりに参加した。

この作戦会議から、次のオンライン上映会の企画が生まれ、一緒に考えたいというブレスト会議も行われることになった。

企画は、予定調和ではないオープンスペースから生まれる

映画はコンテンツなので、一方的に映像が流れる。視聴者は、それを一方的に受け取ることになる。

いろんな感情が発生し、言葉にならない何かが身体の中でうごめく。

未来フェスは、言葉にならない何かを、不完全さを許容しながら、一人ずつ語っていく場だ。自分だけでは言葉にできなかったことが、一緒に参加している人の言葉によって言語化されたりする。まったく気づかなかった観点に気づいたりする。参加者同士の触発によって、身体の中に生まれた何かが相互に増幅されていく。

そこから何かが生まれるために必要なのは、何も強制されない、でも、エネルギーが満ちているニュートラルなオープンスペースだ。

そこで、各自のオーナーシップが尊重されつつ、自由に話すことができると、起こるべきことが起こるのだ。今回は、放課後作戦会議が、オープンスペースだった。

放課後、ゲストの恵美さんとチョッキさんが、

「若い障害当事者に、自立支援のことを知ってほしい」

「ヘルパーさんが足りないので、増えるとうれしい」

ということを話してくれた。「じゃあ、どうする?」というアイディアが出てきて、それに向けた企画も立ち上がることになった。

実施前の私は、「健常者の意識変革」のほうに注目していた。恵美さんとチョッキさんの言葉によって、自分が盲点になっていたところに気づくことができた。

ピアサポートの持つ力

今回の企画には、2つの「初めて」があり、この2つが、効果的なリソースとして活用されていた。

1つ目の「初めて」は、「インディペンデントリビング」が、田中監督の「初めて」の作品だということだ。

夢宙センターの平下社長を始め、出演者の人たちが、「悠輝ならできる!」と田中監督の背中を押してくれたとのこと。

自身がヘルパーとしても働いている田中監督と、出演者のみなさんとの関係性が画面の背後から滲み出ていた。

仲間としての信頼関係があるからこその距離感で撮影された映像が、私たちの心を震わせたのだと思う。そして、その雰囲気がそのまま対話会に持ち込まれていた。

今回の企画を通して、「インディペンデントリビング」が世の中に出ていくこと、そして、それが、参加型の渦を起こしていくことは、田中監督に続く若いドキュメンタリー映画監督の背中を押すことになるのだということを実感した。

もう一つの「初めて」は、岩井さんが、オンラインイベントを主催するのが初めてだったこと。

Peatixの設定などをネットで調べたり、呼びかけ文を考えたり、苦心しながら主催者をやり遂げ、「初めての私にもできたので、皆さんにもできますよ。私がサポートしますよ。」と呼びかけた。

岩井さんが醸し出している気楽な雰囲気と、「初めて」という事実が、「私も主催してみよう」という次の主催者の背中を押したはずだ。

社会に新しいものが生まれいくというのは、「初めて」の連鎖が起こっていくということだ。

田中監督や岩井さんは、その連鎖のドミノの最初の一つを倒したのだと思う。

これから、たくさんの「初めて」が生まれていくのが楽しみだ。

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