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新国立劇場「ボリス・ゴドゥノフ」開幕前夜

いよいよ11月15日より、新国立劇場公演「ボリス・ゴドゥノフ」が開幕いたします。すでにいろいろなところで語られている通り、今回のマリウシュ・トレリンスキ氏の演出はかなり前衛的であり、衝撃的であり、物語の読み替えも原型を留めないと言っていいほど行なわれます。初めてこのオペラをご覧になる方も多いと思われますが、ご鑑賞の前には一度基本的なストーリーをお知りになっておくと良いと思われます。新国立劇場版で演奏される音楽に基づいて記述していきますので、ご参考にされてください。(Wikipediaの記述にその多くを負っております。)

なお過去記事の音楽解説も是非ご覧くださいね。


・プロローグ1場

モスクワ近郊ノヴォでヴィチ修道院の中庭(1598年)

シシコフのデザイン(1870)

憂いに満ちたファゴットの前奏で始まる。幕が上がると修道院の中庭をモスクワの人々が大勢うろつき廻っている。警吏ニキーティチが登場し、警棒で脅しながら人々に突っ立ってないで跪いてお願いしろと命令する。人々はそれに応じ大声で請願する(民衆の合唱「何故我等を見棄てられるのか、我等が父よ!」)が、その実、何をお願いしているのかよくわからず、ニキーティチの姿が見えなくなると、ミチューハを始めそれぞれ勝手にお喋りを始める。再度、ニキーティチが姿を現し人々を脅すので、また大声を上げてお願いし始める。貴族会議の書記官であるシチェルカーロフが現れると、ニキーティチは人々を制し話を聴くように命じる。シチェルカーロフは、ボリス・ゴドゥノフが人々の願いも空しく、頑として帝位に就こうとしない(シチェルカーロフのアリア「正教徒たちよ!公は聞き入れて下さらない」)と語り修道院に消える。続いて巡礼の一団が登場し、「神の栄光を称え、聖像を持ってツァーリをお迎えに行くのだ」と合唱し修道院に入っていく。

・プロローグ2場

モスクワクレムリン大聖堂広場(1598年)

ボロチャフのデザイン(1874)

戴冠式の場と呼ばれる。ウスペンスキー大聖堂とアルハンゲルスキー大聖堂に挟まれた広場にモスクワの民衆が集まっている。鐘が鳴り響く中、大貴族ヴァシリー・シュイスキー公が登場し、「ツァーリ・ボリス・フョードロヴィチ万歳!」と叫ぶ。民衆がそれに応えて「長寿と健康を我等が父なるツァーリに!」と叫ぶ。シュイスキー公の音頭取りで、民衆はツァーリを称える大合唱をする(民衆の合唱「空には既に輝く太陽が」)。やがて戴冠式を終えたボリスが王笏と権標を手に持ち、貴族やその子弟を従えてウスペンスキー大聖堂から姿を現す。貴族も一緒になり万歳が繰り返される中、ボリスは権力者の責任を痛感し独白する(ボリスのモノローグ「我が魂は悲しむ」)。再び歓喜の声が沸き上がり(民衆の合唱「光栄あれ!光栄あれ!光栄あれ!」)、アルハンゲルスキー大聖堂から出てきたボリスが宮廷へ向うところで幕。

・1幕1場

チュードフ修道院の僧坊(1603年)

チュードフ修道院

「僧坊の場」と呼ばれる。真夜中の僧坊で修道僧ピーメンがランプの灯りを頼りに年代記を書き綴っている(ピーメンのアリア「あと一つ物語を書き終えて」)若い修道僧グリゴリーはその横で眠っているが、悪夢に魘されて目覚める。それは何度も見ている夢で、高い塔に登った自分が下を見ると、モスクワの群集が自分を指差し嘲笑っている。いたたまれなくなった自分が塔から真っ逆様に落ちるとそこで目覚めるというものであった。ピーメンは若い血がたぎるせいであろうと宥め、自分が書き終えた年代記の恐ろしい内容(ボリスによる皇子ドミトリーの殺害)について語る。ピーメンは実際にウグリチに赴き、殺人者達がボリスの指示でドミトリーを殺害したと白状するのを目撃したという。ピーメンの話を聴いているうちにグリゴリーは死んだ皇子ドミトリーが生きていれば自分と同い年であることを知る。やがて夜が明け、朝の勤行のためピーメンは立ち去るが、野心家のグリゴリーは心中密かにボリス打倒を企てる。

・1幕2場

リトアニア国境付近の旅籠(1603年)

シシコフのデザイン(1870)

「旅籠の場」と呼ばれる。この場で奏される3つの主題からなる前奏で始まる。旅籠屋の女主人が「私は雄鴨を捕まえた」と歌っていると、屋外で声がして逃亡僧であるヴァルラームとミサイールが女主人に喜捨を求めるので、扉を開け中に招き入れる。二人に続いて道案内になりすましたグリゴリーが旅籠へ入って来る。彼はモスクワに居られなくなり、ここまで逃げてきたのである。リトアニアへ入るまで安心できないと言うグリゴリーに、ヴァルラームは酒さえあればどこでもいいと言い、女主人が持ってきた酒を飲み干して豪快に歌い始める(ヴァルラームの歌「昔カザンの町でイヴァン雷帝は」)。やがて酔いが回ったヴァルラームは「奴は馬で走る」という曲をぶつぶつ歌いながら眠り込んでしまう。その横でグリゴリーは女主人にリトアニアまでどれ位かかるか尋ねる。関所があって警吏が見張っていると言われてグリゴリーは青ざめるが、女主人は脇道へ逸れれば大丈夫と言う。やがて扉がたたかれ、警吏たちが入って来る。警吏は三人を尋問し、根拠も無いままヴァルラームをお尋ね者であるグリゴリー・オトレピエフと決めつける。無論、ヴァルラームは否定する。モスクワから届いた命令書にはお尋ね者の人相が書かれているのだが、警吏たちは誰も文字が読めない。するとグリゴリーが自分が読めると言い、内容を偽ってお尋ね者の人相をヴァルラームそっくりに読むので、警吏たちはヴァルラームに飛びかかる。びっくりしたヴァルラームは、命令書をグリゴリーから引ったくり、一文字一文字たどたどしく読み始める。読んでいくうちにお尋ね者の人相がグリゴリーそっくりであることに気がつくが、グリゴリーは持っていたナイフを振りかざし、旅籠の窓から飛び出していく。ヴァルラーム、ミサイール、警吏たちが「奴を捕まえろ!」と叫びながら後を追っていくところで幕。

(休憩)

・2幕

テレムノイ宮殿にある皇帝の居間(1604年)

フョードルの勉強を見守るボリス

「クレムリンの場」と呼ばれる。ボリスの娘クセニヤが、急死した許婚の肖像画を見て泣いている。弟のフョードルと乳母が慰めるが、なかなか笑顔を見せない。楽しくさせようと二人で滑稽な踊り歌を歌っているところへボリスが登場し、クセニヤを慰め、乳母とともに別室へ下がらせる。残ったフョードルに何をしているか尋ねると、地図を見て地理の勉強をしているという答えが返って来る。ボリスはこの国全てがお前の物になる、勉強を続けなさいと言い、物思いに沈む。自分は権力を手に入れ、6年の間、国を無事治めてきたが、心に幸福はない。許婚の急死、大貴族の裏切り、外国の陰謀、飢饉や疫病が続き、全ての罪が自分にあると国中で怨嗟の声が上がっていると歌う(ボリスのモノローグ「私は最高の権力を手にした」)。

突然、舞台裏で悲鳴が上がり、ボリスはフョードルに様子を見に行かせる。入れ替わりに侍従がやって来て、シュイスキー公が目通りの許可を求めてきたことを伝える(同時に彼が何か企んでいることも伝える)。シュイスキー公は、リトアニアに僭称者が現れ、ドミトリーの名を騙っていると報告する。驚愕したボリスはフョードルを下がらせ、シュイスキー公に対応策を与え、出発させる。が、思い直して、シュイスキー公がウグリチで確認した子供の遺体は本当に皇子ドミトリーだったのか訊ねる。シュイスキー公が「血にまみれ、恐ろしい傷が口を開けているにもかかわらず、清らかで輝くばかりのお顔は、確かに皇子のもの」と答えると、ボリスは気分が悪くなり、シュイスキー公を下がらせ、ソファーに倒れ込んでしまう。

この時、居間に置かれていた大時計が時を告げ始める。ボリスは錯乱状態になり、血だらけの子供の幻を見る(時計の場)。自分は人民に選ばれたツァーリだとボリスは叫び、神に救いを求める。

・3幕

聖ワシリー大聖堂前の赤の広場(1605年)

聖ワシリイ大聖堂

1869年原典版のみにある「聖ワシリー大聖堂の場」。元の呼び方は「第4部」だが、新国立劇場版では「第3幕」とする。飢えた群衆が辺りを歩き回っている。ミチューハを先頭にして一群の男達が大聖堂から出て来る。ミチューハは、内部でグリゴリー・オトレピエフの破門、亡きドミトリー皇子への追善の祈りがなされていたことを皆に語る。皆は生きているドミトリー皇子に追善の祈りだなんて罰当たりめ、皇子の軍隊がもうすぐやって来て、ボリス達に死を下される!と息巻くが、老人達にだまって待っていろと窘められる。

そこへ子供達とともに白痴が登場、子供達は白痴が持っていた銅貨を取り上げてしまう。白痴が泣いているところへボリスがお供を連れて大聖堂から出て来る。人々は跪きツァーリにパンを請う。お供の貴族達が施し物を与えるが全体には行き渡らない。人々は大地にひれ伏す。その時、白痴がボリスに対して訴える。

「子供達が自分の銅貨を取った。子供達を殺してくれ。あのかわいそうな皇子を殺すよう命じたように。」

横にいたシュイスキー公が白痴を捕らえるよう護衛に言うが、ボリスはそれを制して、白痴に自分のため祈ってくれと頼む。しかし、白痴はヘロデ王のために祈ることは聖母様が許さない、と言ってこれを断る。ボリスも群集も立ち去り、一人寂しく歌う(白痴の歌「流れよ、流れよ、苦い涙!」)。

(休憩)

・4幕1場

グラノヴィータヤ宮殿(1605年) 

シシコフのデザイン(1870)

「ボリスの死」。ボリスは貴族達を招集し偽ドミトリーへの対応策を協議させる。会議の冒頭、シチェルカーロフがボリスの言葉を伝えるが、ボリスは姿を見せない。貴族達は威勢良く、偽ドミトリーは拷問し、死刑にし、死体を晒し者にする、と票決する(貴族たちの合唱「さて諸君、票決と行こう」)。シュイスキー公が遅れて入って来る。彼は貴族達に子供の幻に怯えて錯乱するボリスの様子を自身で真似をしながら話す。丁度その時、ボリスがまさにそのままの狂態で議場へ入って来る。一旦、気が静まったボリスだが、シュイスキー公が連れてきたピーメンが語る、ドミトリーの墓の前で起きた奇蹟の話(ピーメンのアリア「ある日の晩のこと」)を聞くうちに再びおかしくなる。死を悟ったボリスは、フョードルを呼び、別れを告げる(ボリスの別れ「さらば我が子よ、わしはもう死ぬ」)。弔いの鐘が鳴り、舞台裏より哀悼の歌が流れる中、ボリスは死ぬ(ボリスの死「鐘だ!弔いの鐘だ!」)。貴族達の「身罷られた」という呟きとともに幕。

・4幕2場

クロームィ近くの森の中の空き地(1605年)

「革命の場」と呼ばれる。1872年の改訂稿で加えられた場面。ボリスの軍隊の司令官だった大貴族フルシチョフが、蜂起した群集に捕らえられ、嘲弄されている。遠くからヴァルラームとミサイールが、ボリスの悪行のため、宇宙全体がおかしくなった、と歌いながらやって来る。彼等は扇動者となり、群集とともに「ボリスに死を!」と叫ぶ。最後に軍勢とともに偽ドミトリー(グリゴリー)が登場、フルシチョフの戒めを解き、軍勢、ヴァルラーム等放浪者、群集、イエズス会士とともにモスクワへ向けて進んでいく。

その後姿を見ながら、白痴はこれからロシアを襲う混乱を憂いて一人寂しく歌う(白痴の歌「流れよ、流れよ、苦い涙!」)。

以上基本的なストーリーを追ってみました。新国立劇場上演版はこのストーリーから逸脱した内容も描かれますので、そことの比較もしながらご覧になるのも一興と思います。

公演情報

予定上演時間は約3時間25分、当初発表より長めになっております。(プロローグ・第1幕70分 休憩25分 第2・3幕40分 休憩25分 第4幕45分)

2022年11月15日(火)14:00 (終演後アフタートークあり)
2022年11月17日(木)19:00
2022年11月20日(日)14:00
2022年11月23日(水・祝)14:00
2022年11月26日(土)14:00

スタッフ

【指 揮】大野和士
【演 出】マリウシュ・トレリンスキ
【美 術】ボリス・クドルチカ
【衣 裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ
【照 明】マルク・ハインツ
【映 像】バルテック・マシス
【ドラマトゥルク】マルチン・チェコ
【振 付】マチコ・プルサク
【ヘアメイクデザイン】ヴァルデマル・ポクロムスキ
【舞台監督】髙橋尚史

キャスト

【ボリス・ゴドゥノフ】ギド・イェンティンス
【フョードル】小泉詠子
【クセニア】九嶋香奈枝
【乳母】金子美香
【ヴァシリー・シュイスキー公】アーノルド・ベズイエン
【アンドレイ・シチェルカーロフ】秋谷直之
【ピーメン】ゴデルジ・ジャネリーゼ
【グリゴリー・オトレピエフ(偽ドミトリー)】工藤和真
【ヴァルラーム】河野鉄平
【ミサイール】青地英幸
【女主人】清水華澄
【聖愚者の声】清水徹太郎
【ニキーティチ/役人】駒田敏章
【ミチューハ】大塚博章
【侍従】濱松孝行

※本プロダクションでは、聖愚者は歌唱のみの出演となります。フョードルと乳母はクセニアの友人という設定です。

新国立劇場HPでの情報もご覧いただくと完璧!かと思います。

それでは皆さま!新国立劇場でお会いしましょう。

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