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音楽領域で世界一を目指すのを辞めます

株式会社ウォールオブデスCEO/CTOの堤 真聖です。
弊社では創業からこれまで1年強「音楽領域で世界一の企業になる」を掲げてサービスを運営してきましたが、この度この方針を変更する決定をしましたので、経緯や今後の方針などをご報告させて頂きます。

はじめに

まずこれまでの理念に賛同頂いていたユーザー・メンバー・投資家・アーティストやライブハウス等の音楽関係者の皆様。
この度は多大なご協力誠にありがとうございました。そして裏切る形となってしまい大変申し訳ございません。

これまでの経緯

「世界一の企業を創る」「音楽業界を変える」「技術を追い求める」
僕が起業して実現したいことはこの3つでした。

それを踏まえて

  1. 音楽業界のブレークスルーとなるサービスを創出する

  2. プラットフォームに昇華させる

  3. 音楽業界を変える

  4. 音楽市場を10倍に押し上げて世界一になる

という道のりを頭の中で描き、取っ掛かりとなるための音楽系サービスを考案してきました。(実際に1年で4つの音楽系サービスを作って検証してきました)

中でも2021年10月にリリースしたアプリ「OTOAKA」はTwitter上の音楽ファンコミュニティ(通称: 音垢)に刺さり1日でユーザーが2,000人増え、今では3,000人のユーザーが参加したライブやその感想を記録し友人と共有するのに愛用してくれています。

これを前世界中の人々が使うプラットフォームにし、世界一になるのが最終的な目標でした。

昨年末にはシードで資金調達も実施し、1~3月はリアルライブと連動した投げ銭モデルの検証を行いました。
実際、TRINITY RIOT 2022を含むライブ4件とのコラボが進んでいました。

しかし思ったようにキャッシュを生めず、検証での躓きも多くありました。リアルマネーによる投げ銭額は合計5,000円程度に落ち着きました。(無料ポイントによる投げ銭は300万円ほどありましたが)

原因は2点あったと考えています。

1点目は「投げ銭」という体験を創るためのハードルの高さです。
大好きなアーティストを応援したいというインサイトにも、深く分析していくと必ず「対価」を求めているということに気付きました。その対価は必ずアプリの体験の中に必要であり、一朝一夕で設計できるものではなく、より多くの協力が必要でした。
しかし、アーティストの協力を得るにはそれだけ深い関係値が必要で、加えて彼らを取り巻くステークホルダー(事務所、レーベル、ライブハウスなど)の全ての承諾を同時に得る必要があり、我々にとってとても難しいものでした。

2点目はサービスとビジネスモデルの歪みです。
OTOAKAはもともと「ライブ参戦記録アプリ」であり「投げ銭アプリ」ではありません。自身が行ったライブを記録したいというニーズの延長線上に「好きなアーティストに投げ銭をして応援したい」という体験を結びつけるには更に高い壁がありました。
結果的にデザインがブレてしまい、コンバーションの低下やユーザーエクスペリエンスの低下に繋がってしまいました。

最終的に、投げ銭モデルの体験の検証から確立までには半年から2年程度の時間を要すると判断しました。またリアルライブと連動させるためには思っていたより多大なオペレーションコスト・教育コスト・抜本改革が必要なことが分かりました。
アナログ体験をデジタルと連動させ、ファンの熱量をお金に変えることは思っていたよりも変数が多く、深いものでした。

なぜ音楽領域で世界一を目指すのを辞めるのか

理由は3点あります。

まず「音楽領域で世界一になるまでの道のりは相当長い」ことです。
今回が投資家・メンバー・ライブハウス・アーティストを巻き込んだ初めてのマトモな検証でした。その中で業界構造やステークホルダーを身近で観察する機会を多く得ることができ、得られたことがあります。
まず、ターゲットのセグメントが細かいということでした。アーティストにしてみても「バンド」「アイドル」という大ジャンルでターゲットを分けられるほど単純ではなく、2000年代のギターロック・10代のオルタナティブ・新宿のV系くらい細かく分ける必要があり、検証を進めていくうちに相当入口が狭くスケールしづらいことに気付きました。
次に、業界構造やビジネスモデルが古く複雑で、既得権益に守られているということです。業界を良くするより自分たちの地位を安定させたいという人の方が圧倒的に多く、検証の初期段階からそういった人たちもターゲットに含まれます。従って、サービスによるブレークスルーと同時に業界内で革命意思を連ねて人海戦術を取ることが必要でした。
まず前提として、これらに対し業界経験のない22歳の大学生が始めからスタートアップという手段を取ること自体が些か悪手だということに気付きました。

次に「音楽領域のプラットフォームを創れる可能性は低い」ことです。
GAFAという世界一のプラットフォームを見ているといくつかの共通点があります。

  1. アーリーアダプター

  2. 70億人/2億社に通用するプロトコル

  3. BtoC(BtoBtoC)

これを音楽領域に照らし合わせると、プラットフォームと言えるのはSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスに限られます。
つまり、OTOAKAがプラットフォームになるためには「みんなライブに関心がある」状態をつくる必要があります。これは現実ではなく夢物語です。
また先ほども述べたように、セグメントが細かく、共通するプロトコルを見つけるのが困難でした。そもそも「行ったライブの記録」はアメリカやイギリスでは全くニーズがありません。

事業をやっていていつもどこかに「プラットフォームをverticalな領域から掘り進めるのは世界から程遠いし、次の当たり前にはなれないな」という悩みがありました。

今後の方針

企業理念を「世界を変える事業を創りテクノロジーで音楽業界を変える」に改めます。

今後の道のりはこうです。

  1. Web3/Web4時代に70億人の生活基盤となり得るプロトコルを創出する

  2. 過程で生まれたテクノロジーを活かし音楽業界を変える

今後、我々は世界を変える事業の創出を徹底的に追求します。
世界を変える事業の戦場はWeb3/Web4と呼ばれるインターネットのアップデートに他なりません。
Web3を多くの人は実験的な目で見守っていますが、僕はこの技術を一通り見て、10年後にはBlockchain as a BackendがWebの当たり前になることを確信しています。
Vitalikが信じているものは世界が本来あるべき姿であり、インターネットと通貨発行権の民主化は我々の未来のために必ず実現すべき事です。
僕らはここから10年かけて実世界の分散化を実現し、次の時代を創ります。初日から海外で勝負するのでよろしくお願いします。

またしばらくは受託開発もメインで進めていきます。OTOAKAのおかげで開発資産も貯まってきて、進行中の共同開発プロジェクトもいくつかあります。
iOS、Web、Web3、AWSなどなんでもいけますので開発でお困りの方は是非お気軽にご相談ください。

OTOAKAはどうするか

OTOAKAは先日のVer. 3.4.0アップデートを以て今後一切のメンテナンスをストップします。(既にAWSからHerokuに移し替え、ランニングコストも8,000円/月に抑えています)
サービスを残す方針を取ったのは、それが3,000人というユーザーの皆様に対してできる最大限の誠意であることと、単純に僕がこのサービスを愛用しているからです。

さいごに

サービスを放置する決断を下すまでに少し時間がかかってしまいました。
それほど4年間のめり込んできた領域を一旦離れる決断をするのはとても心苦しいもので、この悩みの中で音楽を聴けなくなったこともありました。

何より、下北沢ReGの鈴木さん、FABLED NUMBERを始めとするアーティストの方々、メンバー、投資家、ヒアリングに協力してくれたユーザーの方々の期待を裏切り恩を仇で返す形となってしまったことは本当に申し訳ないです。今回は完全に僕の未熟さが招いた結果です。
先に記したとおりこれからもスタートアップは続けていきます。このような僕ですが、何卒温かい目で見守って頂けると幸いです。


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