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「死んではいかんと奴は言うけど」

古い友人は「死んだら負け(だめ)だよね」と言った。
「ある作家の作画を(遺族の許可を得て)編纂しストーリーにする」というある作品をぼくが批判的に語ったことに対する返答だ。
その作家には特別な思い入れがあり、故人の言葉には重みを感じていた。作家は自分の絵の中に風流を作り、詩を吟じていた。どんな文章も飲み込み音楽さえ絵の中に引きずり込まれていく。編纂された作品はそれらとはまるで比べ物にならないくらい平凡で退屈なものであり「匂い」は皆無だった。
提案者ははたして故人が目の前に現れたとして、この作品を差し出すことが出来るのだろうか。周囲の人々は、これを褒め称えることに迷いはないのだろうか。よくよく故人の言葉を思い出すといい。故人の残した素晴らしい遺産(作画)を触るなら、「雑」ではだめだ。何度も疑って自分の繊細な神経と向き合い、断念するはずが、勢いだけで出版をする。
救いがあるのは、かの作家はこのくらいのことに揺らぐべくもない作品群を残し、見識ある後継者も読者も育てたことだ。ただこういう場合には一人くらい本当のことをいう変わり者がいてもいいだろう。これは駄作だ。と。

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