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COURTのいま「2021年」

デビューシリーズの「フィッシャーマンズ 」から第二弾の「ローカルウールン」、第三弾「カレッジ」までトントン拍子で進んできたCOURTのブランディング。しかし、次の第四弾の開発で、なかなか大きな困難に遭遇しました。今回は第四弾「カラード」が生まれるまでのトライ&エラーと、同時期に考えた流通戦略のお話です。

難産だった第四弾「カラード」までの道のり

デビューと同時に第三弾までの展開も見据えて動き出したCOURTは、おかげさまで第一弾フィッシャーマンズの売れ行きもよく、初年度の売り上げ目標500万を半年で達成しました。2年目には1500万、3年目には3000万。順調ではありましたが、僕のブラディングの師匠である中川政七商店13代の中川淳さんからは「ひとつのブランドを立ち上げたら、まず5000万までは売らなきゃね」と指標をいただいていました。あと2000万を、どうやって伸ばしていくか。第三弾が出た頃に考えたのが2つのことです。

・商品政策:グラフィックへの挑戦
・流通戦略:家具店以外の販路拡大

まずは何度も産みの苦しみを味った、商品政策の話をしたいと思います。

グラフィックシリーズへの挑戦

COURTのラグは一番安いもので7万円、高いものでは12万を超えてきます。暮らしの中では高い買い物に入るアイテムなので、もう少し手の届きやすい、1枚5万円くらいのシリーズをつくれないかと考えていました。ラグ自体の質の良さは落とさないようにとアイデアを検討していく中で思いついたのが、白生地にインクジェットプリントで柄を見せるグラフィックのシリーズです。

COURTとしては初となる柄物への挑戦。ビジュアル的にもインパクトがありますし、アイテムのバリエーションも広がります。いつかはやりたいと思っていたので意気込みました。しかし、柄のインクジェットプリントは技術的にも新しい試みで、かつグラフィックデザインは未知の領域。試作を繰り返す中ずっとモヤモヤしていたのが「この柄がベストなのか?」という問いでした。ずっと無地でやってきたCOURTには、柄の良し悪しを判断する軸がまだ定まっていませんでした。

結局、明確な答えが出せないまま2018年冬の展示会で発表までしたのですが、ついに発売に踏み切ることなく製造中止に。この出来事からはのちに、ひとつの学びを得ることになります。

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COURTらしさとは?

次にチャレンジしたのが、外部のインフルエンサーやデザイナーさんとのコラボレーションです。実際に組む人のご自宅を想定して、「自分の家に置くなら」という視点でデザインを一緒に考えていくという企画でした。これなら自分たちで柄を決めるのが難しくても、外からグラフィックのアイデアを取り入れることができます。

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売れ行きは悪くなく、一定の評価をいただいたのですが、一方で僕自身には「COURTらしい柄とは何か?」という問いが湧いてきていました。まだブランドの認知が世の中に十分に広まっていない中、あまりこの展開をしすぎると、デザイナーブランドっぽく伝わってしまうリスクがある。COURTの「らしさ」は、そこではないことは確かでした。もっとクラフトっぽい、ロンドン出張で出会ったS.E.H KELLYのような何か。

ならばCOURTらしいグラフィックをとことん突き詰めようと、今度は4柄×30色を組み合わせて選べるシリーズを一気に打ち出しました。時期は2019年7月頃。幻の初期グラフィックシリーズを展示会に出したのが2018年2月だったので、それから約1年半、模索し続けてきたことになります。

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しかしこれも結局は、すぐに廃盤の決断をすることに。コラボをやめて自分たちでデザインしようとしたものの、網羅的に揃えた30色が果たしてCOURTらしいのか。柄の展開を考えることばかり先行して、ブランドとしての良し悪しの軸を確立することが後手になっていました。

展望のないまま中途半端なものを世に出すよりはと、このシリーズもサンプル止まりで流通させることはありませんでした。

「グラフィックを、やめよう」

いつかやりたいが、今ではない。そう決断してようやく、現在の第四弾「カラード」への道筋が見えてきました。

売れる色でなく、COURTらしい色を追求した「Colored Court」

グラフィックでの商品政策に行き詰まり、僕とデザイナーの池田さんとの間で初めて出てきたのが「柄でダメなら、無地でCOURTらしい色展開はできないだろうか?」というアイデアです。

通常、カーペットは色の濃いものが売れにくく、ベージュやアイボリーが人気です。20色選べるシリーズなら、7割くらいを淡い色にしておくのが定石。しかし今回は色を通じてCOURTらしさを伝えることを最重要に据え、「売れる」ための発想はいったんアタマから外しました。

かわりに持ってきたのが、COURTのアイデアが生まれた場所、イギリスの街っぽい色や、服飾っぽい色。「Tailor Made Carpet」を掲げるCOURTのエッセンスを分解して色合いを選んでいくと、だんだんと「COURTらしい色」がコラージュのように集まってきました。もうひとつ工夫したのが色名。

「CASTLE WALL」や「TAILOR GREY」など、全ての色に「らしさ」のある名前をつけることで、色展開とともにCOURTらしさを担保できるようにしました。こうして、グラフィックの紆余曲折からほぼ2年をかけてようやく2020年2月、第四弾「カラード」がデビューします。

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ブランドを「はじめる」から「育てる」転換点で見えたもの

難産だった第四弾を通じて感じたのは、立ち上げ期との勝手の違いです。ブランドはデビューまでに相当の準備を要しますが、いざデビューしたら、あとは刻々と変わる状況を捉えつつ、走りながら考えるしかありません。COURTはデビューの時点で第三弾まで商品政策を組んでいたので、ある意味カラードが、ブランドを「はじめる」から「育てる」にシフトチェンジした、転換点だったと言えます。

そしてブランドを育てる上では、ともにブランドを作り上げる外部パートナーとの信頼関係の構築が欠かせません。

COURTの場合、初期に展示会まで出したものの中止にしたグラフィックシリーズのことが、一緒にブランドを作ってきたデザイナーの池田さんにとって大きなショックだったと、後になって知りました。池田さんの本音が聞けたのは、1年以上答えのでないグラフィックづくりに煮詰まり、改めて話し合いの場を持った時。それまで僕が気付けなかったのは大きな反省点です。その場でじっくりとお互いの考えを交わし、もう一度目指す方向を議論しながら生まれたのが、第四弾のカラードでした。息の長いブランドづくりは、協業するパートナーとの綿密な関係性づくりでもあることを、身をもって学んだ大切な時間です。

特定の販路だけに依存しない流通戦略を目指す

最後に、育てるという観点で商品政策と両輪で取り組んできた流通戦略について少し。

冒頭に書いたように、COURTはデビューから3年で順調に売り上げを伸ばして行きました。その主たる取引先はインテリアショップです。軒数で90〜100軒、売り上げにして2000〜2500万ほど。しかしこれをブランド全体で5000万、ゆくゆく1億のステージまで持っていこうとすると、インテリアショップの流通だけでは頭打ちになります。さらに販路を広げていこうと考える中で浮かんだ選択肢が、二次卸です。

インテリア業界には、インテリアライフスタイル展などの総合展示会の他に、別の巨大マーケットが存在します。それが、ハウスメーカーやマンションデベロッパーが自社の家やマンションを購入されたお客さん向けに家具などを販売する展示会です。

来るお客さんは家を買ったばかりで必然的に家具を必要としている人たちなので、商談の成功率も格段に上がります。土日を中心に各地で開催され、週末の2日間だけで億単位のお金が動く巨大マーケットです。大手の家具メーカーも多く出展していますが、クローズドな場なのであまり世の中に存在を知られていません。

COURTもこの市場に参入できればと考えましたが、毎週末、全国あちこちで開催される展示会にスタッフを駆り出さなければならないことがネックでした。そこで思いついたのが、すでにこうしたフェアに参入している家具メーカーやインテリアコーディネーターさんに商品を委託する、二次卸です。卸すラインナップを考えたときに、色ものがあった方がいいという視点も第四弾のカラードにつながっていきました。

ちょうどカラードがデビューした2019年には二次卸先も話がまとまり、これで2022年には売上5000万を達成できる見込みでしたが、その矢先にコロナ禍に。全国の家具フェアが一斉に中止となり、現在はコロナ後を見据えながら、次なる一手を模索しているところです。やはりここも、走りながら考えるしかありません。

COURTの歩んできた道のりのお話はここまでです。2016年にデビューしたブランドは、試行錯誤を重ねながら今年で5年目に突入しました。「Tailor Made Carpet」を掲げるラグブランドCOURTの今は、ぜひこれから登場する新アイテムで感じてもらえたらと思います。

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