2010年代のエキゾチカ 〜 Georgia『All Kind Music』〜



 ノン・ビートで奇怪なグルーヴを生みだしたワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(※1)。逆に、さまざまなビートやリズムを一斉に鳴らしたようなサウンドで驚かせてくれた、ジャイアント・クロウ(※2)。ここ数年、セオリーとされるものから逸脱したアーティストが多く聴かれ、それに伴いリスナーの感覚は拡張した。
 筆者の場合、より幅広く音楽を聴くようになり、“面白い!” と感じるストライク・ゾーンが広がった。“古い/新しい” という旧態依然な価値観をトイレに流し、代わりに “面白い/面白くない” という価値観で音楽を聴くようになった。そのおかげで、これまで以上にさまざまな時代の、さまざまな音楽に触れる機会も増えた。過去の音楽だから...という理由で聴かず嫌いをすることはなくなり、世間的には古臭いと言われるような音楽にも興奮できる。もはや陳腐な言いまわしにも感じるが、あらゆる音楽がフラットに存在する感覚を得たことで、面白さを見つけるのが少し上手くなったのだ。
 もちろんその感覚は、ナップスターやYouTubeの台頭があった2000年代から少しずつ育まれたものだ。しかし、その価値観が一般レベルで定着し、あたりまえと言えるようになったのは2010年以降だろう。言うなれば、先述のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやジャイアント・クロウは、2000年代からいくつも仕掛けられた時限爆弾を爆発させた、トリガーみたいな存在である。


 こうした流れを経なければ、ジョージアの最新アルバム『All Kind Music』は誕生しなかったかもしれない。 本作は、音楽リスナーなら1度は聴いてほしい作品だ。2016年のエレクトロニック・ミュージック、いや、それ以外のジャンルを含めても傑作といえるからだ。ミニマル、ダブ、ファンク、クラウトロック、ジャズ、イージー・リスニング、ミュージック・コンクレートなどが入り混じる内容は、多角的な解釈を可能にしている。たとえば、ジョージアがニューヨークの2人組ということをふまえると、アニマル・コレクティヴ以降のUSインディーの文脈とも接続可能だ。作品全体に漂うフォークロアの匂いを重要視するなら、“伝統と革新がもたらす新世代のフォークロア”、なんて感想もありだろう。
 ちなみに筆者は、ブライアン・イーノとデヴィッド・バーンによる『My Life In The Bush Of Ghosts』や、マーティン・デニー『Quiet Village』を連想した。とりわけ『Quiet Village』の連想は非常に強く、筆者は本作を “2010年代のエキゾチカ(※3)” として聴いている。異国情緒な雰囲気を醸しているが、あくまでイメージでしかないというところに、エキゾチカとの共通点を見いだせるからだ。いずれにしろ、聴く人の音楽体験によって姿を変えるのが本作である。それではさっそく、甘美な音世界に飛び込んでみよう。





※1 : 過去に僕が書いたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーに関する記事一覧です。ご参考までにぜひ。

アルバム『R Plus Seven』のレヴュー。 http://cookiescene.jp/2013/09/oneohtrix-point-neverr-plus-se.php

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー at 代官山ユニット 2014.3.21 〜"情報とポップ・ミュージックの関係"についての問題提起〜 http://cookiescene.jp/2014/04/post-285.php

アルバム『Garden Of Delete』のレヴュー。http://cookiescene.jp/2015/11/opn-god-kami.php


※2 : ジャイアント・クロウ『DARK WEB』のレヴューです。ご参考までにぜひ。http://cookiescene.jp/2014/10/giant-clawdark-weborange-milk.php


※3 : エキゾチカは1950〜60年に流行した音楽。

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