華やかなシンセ・サウンドが紡ぐポップ・ミュージックの可能性   〜 Shura『Nothing's Real』〜



 1999年に誕生したファイル共有サービスのNapsterと、2005年に設立された動画共有サイトのYouTube。このふたつは音楽の聴き方を完全に変えてしまった。そしてその変化を顕在化させたのが、2000年代という10年間だったと思う。さまざまな時代の音楽に容易くアクセスでき、ジャンル間にあった境界線は消え去った。さらには、ジャンルの枠に押しこめられていた音楽は自由を獲得し、決して交わることはないと思われていた文脈とも接続するようになった。
 こうした聴環境で音楽と戯れていた者たちが、単一タグで括れないサウンドを鳴らして注目されるのは必然だった。グライムスことクレア・バウチャーのように、そんな聴環境で音楽を楽しんでいたことに自覚的な者から(※1)、そうでない者まで、いまや折衷的音楽を鳴らすアーティストで溢れている。
 もっと言えば、そうしたアーティストたちが目立ちはじめた時代の音楽に影響された、チャーリーXCXのような存在も出てきている。彼女の音楽活動をはじめたキッカケが、2000年代を象徴するムーヴメントのひとつであるフレンチ・エレクトロに触発されたからというのは、かなり有名な話だ(※2)。あらゆる音楽がフラットに聴かれ、リスナーとしての個人的文脈がアーティストの個性を決定づけるようになった2000年代も、振りかえるべき過去になりつつあるのかもしれない。

 こうした2000年代と地続きの音楽をシューラは鳴らしている。マンチェスターで育った彼女は、実に多様な音楽的背景を持つ。具体的には初期のマドンナ、ジャネット・ジャクソン、ダイアナ・ロス、ラファエル・サディーク、パトリース・ラッシェン、J・ディラ、デヴ・ハインズ、マライア・キャリーなど(※3)。見事なまでにバラバラだ。このあたりは、先に書いた2000年代の聴環境を経たアーティストなんだなと実感させてくれる。
 そんな彼女のデビュー・アルバム『Nothing's Real』は、キャッチーなメロディーといなたいサウンドが際立つ内容だ。どこか哀愁を漂わせるストリングスが印象的な表題曲や、ヒューマン・リーグに通じるシンセ・サウンドが耳に残る「Indecision」など、全体的には80年代風味のシンセ・ポップが前面に出ている。そこにR&Bやディスコといった要素を振りかけたという感じだ。先述した影響源のアーティストでいえば、初期のマドンナ、ジャネット・ジャクソン、ブラッド・オレンジ(デヴ・ハインズ)あたりだろうか。
 このように本作のサウンドは統一感を醸している。ところが、それでもバラエティー豊かに聞こえるのが魅力のひとつでもある。この芸当を可能にしたは、彼女の高いソングライティング能力のおかげだ。それはキャッチーなメロディーをはじめ、曲の展開など骨子となる部分の多彩さにも表れている。音色では統一感を醸しつつ、それを支える土台で多彩さを表現する。こうした職人芸も本作の面白さなのは言うまでもない。

 歌詞も特筆に価するクオリテイーだ。彼女はレズビアンであることを公言したりと(※4)非常にオープンな姿勢を貫くが、それは歌詞にも滲みでている。「Kidz 'N' Stuff」ではガールフレンドとの別れをテーマにし、アルバム・タイトルも自身が抱えていたパニック障害が由来(※5)といった具合に。いわば本作の言葉選びは、明るく華やかなサウンドとは対照的に、彼女のダークな部分を表しているのだ。
 明暗をさらけ出すことで、彼女は歌にさまざまな感情やそれにまつわる機微をあたえてみせる。それは一見痛々しく思えるが、筆者には自由を謳歌する楽しさで満ちあふれているように見える。痛々しい側面を隠し、明るい部分だけを強調してリスナーを奮いたたせるのは、ポップ・ミュージックの仕事のひとつかもしれない。だが、ありのままの自分をさらけ出し、それでも多くの人が受けいれてくれることを示せるのも、ポップ・ミュージックの可能性であり希望なのだ。この可能性と希望が、本作にはこれでもかと詰まっている。



※1 : MTVジャパンの記事『グライムスが語るグライムス誕生秘話』を参照。http://www.mtvjapan.com/blog/mtvnews/2012-10-10/5725

※2 : ワーナーミュージック・ジャパンのサイトに掲載されているチャーリーXCX公式プロフィールを参照。http://wmg.jp/artist/charlixcx/profile.html

※3 : Hunger Magazineの記事『GET TO KNOW: SHURA』を参照。http://www.hungertv.com/feature/get-know-shura/

※4 : Mancunian Mattersの記事『'I'm a lesbian': Electropop star Shura comes out as gay ahead of Manchester gig』を参照。http://www.mancunianmatters.co.uk/content/091275175-im-lesbian-electropop-star-shura-comes-out-gay-ahead-manchester-gig

※5 : BBCの記事『Shura interview: 'Pop music doesn't represent me'』を参照。http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-36774600

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近藤 真弥

ポップ・カルチャーが大好きなフリーライター/編集。批評スタイルは「群れずに是々非々」。主な仕事のまとめ : http://masayakondo.strikingly.com/ 連絡先 : acidhouse19880727@gmail.com

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