オカルトチックな神秘性を湛える異形のブロークン・テクノ 〜 Jaws『Object Dom』〜



 ここ最近、イタリア産のエレクトロニック・ミュージックに面白い音が多いように感じる。なかでも有名なのは、トランスをミニマル・ミュージックの文脈で再解釈したロレンツォ・セニだろうか。メタリックなシンセ・サウンドを自在に操り、必要最低限の起伏でリスナーの心を飛ばす手法は、もはや職人芸の域だ。去年は、エレクトロニック・ミュージックの名門レーベルWarpと契約し、「Persona」(※1)というEPをリリースしている。次のアルバムに対する期待は高まるばかりだ。


 レーベルでは、Hundebiss Recordsも面白い。2000年代後半から活動し、プリミティヴ・アートなどイタリアのアーティストをフックアップしつつ、2010年代のUSインディーを代表するひとりのジェイムス・フェラーロの映像作品もリリースしたりと、イタリア以外のアーティストも扱っている。あまりに雑多なリリース群のため、明確にレーベル・カラーを表すのは難しいが、教則本に載っている正しい(とされる)ミックスや技術から逸脱した、イリーガルなサウンドを好む傾向にあるといえる。ゆえに歪なサウンド・プロダクションが多く、万人受けする作品は少ないが、固定観念をめちゃくちゃにする蹂躙的な刺激がほしい人にはオススメだ。


 そんなHundebiss Recordsから出た、ジョーズの『Object Dom』がかなりブッ飛んでいる。ロサンゼルス出身のジョーズは、本作を含めて3枚のアルバムを発表している。特にセカンド・アルバムの『Keys To The Universe』は、ドラッギーなサイケデリアがクセになる作品だ。初めて聴いたときは、リスナーをおちょくるチープなシンセ・サウンドが耳に残るくらいだったが、そのシンセ・サウンドを執拗に反復させることで生じるグルーヴに乗ったら最後、まんまとハマってしまった。


 こうしたセカンド・アルバムの魅力は本作でも健在で、たとえば「TT」などで明確に表れている。過去作との大きな違いは、これまで以上にインダストリアル・ミュージックの要素が色濃く出ている点だろうか。マシーナリーなビート、耳をつんざく挑発的なノイズ、退廃的かつダークなサウンドスケープは、スロッビング・グリッスルをはじめとしたインダストリアル・ミュージックそのものである。
 また、全身を揺さぶる強烈な低音が際立つ「Tone Element」、さらに性急なジャングルのリズムを細切れにした「The Stream」など、本作はベース・ミュージックに通じる側面もある。そういった意味で本作は、ジョーズ史上もっともダンスフロアに寄り添った作品と言える。


 さらに見逃せないのは、時折挟まれるヴォーカルだ。くだを巻いてるだけにも聞こえるし、「The Ditch」のように何を言ってるのかまったく聞き取れない曲もある。だが、呪術的に紡がれるそれは、本作にオカルトチックな神秘性をもたらしている。


 おそらく本作は、万人受けするものではないだろう。とはいえ、いつの時代も、たとえ危険だとわかっていても未知の領域に踏み込む者はいる。そんな者たちのために本作は存在する。



※1 : 「Persona」については以前書きました。ご参考までにぜひ。https://note.mu/masayakondo/n/n3dd9badd1066?magazine_key=m4cd353bd9d6c

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