Georgia『Seeking Thrills』


画像1


 ジョージア・バーンズことジョージアは、ロンドン生まれのアーティスト。ケイト・テンペストのセッション・ドラマーを務めるなど、ジョージアの音楽キャリアは裏方からスタートした。ブリット・スクールでドラム演奏を学んだのは、アーティスト活動の道を切りひらくうえで大いに役立った。地道な活動が認められると、ロンドンの名門レーベルDominoからお誘いがあり、無事契約。2015年には同レーベルからファースト・アルバム『Georgia』を発表している。

 『Georgia』は、ジョージアの才能を雄弁に示す快作だった。ポリリズムを巧みに織りまぜたビートは確かな音楽的素養が感じられ、デビュー作にしては隙のない完成度。グライム、ダブ、ラガといった要素が目立つ多彩なサウンドは、多民族なロンドンの匂いを漂わせる。キャッチーなポップ・ソング集でありながら、フロアを賑わすダンス・ミュージックとしても機能する多面性も素晴らしい。そうした作品を生みだすセンスに、レフトフィールドを創設したニール・バーンズの娘という七光りは必要ない。

 『Georgia』以来のアルバムとなる本作『Seeking Thrills』を初めて聴いたとき、筆者は笑みを隠せなかった。前作以上にポップ・ソングの体裁を強める一方で、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノへの敬愛がちらつくからだ。
 それが特に明確なのは、オープニングの“Started Out”。叙情的なシンセ・サウンドはデトロイト・テクノのスペーシーな香りを醸し、リムショットを多用したビートはシカゴ・ハウスのエッセンスが色濃い。ヘヴィーなキックの反復に口ずさみやすい歌メロを乗せたポップ・ソングであり、踊らずにはいられない高品質なダンス・トラックでもある。

 踊れる曲でいえば、“About Work The Dancefloor”も負けていない。メタリックな音色のシンセ・ベースがグルーヴを引っ張るこの曲は、味わい深いいなたさを纏うイタロ・ディスコだ。ダンスフロアに集う者たちの哀愁と喜びを描いた歌詞も沁みる。音楽やダンスフロアに一度でも救われた経験があるなら、刺さる言葉を紡いでいる。

 ダンス・ミュージックの歴史をリスペクトしつつ、ただの懐古になっていないのも本作の秀逸なところだ。たとえば、シャイガールを迎えた“Mellow”は、重低音が強烈な妖しいラップ・ソングに仕上がっている。その先鋭的なベース・サウンドは、ブルック・キャンディーのアルバム『Sexorcism』をリリースするなど、いま大きな注目を集めているNuxxeのカタログに並んでいてもおかしくない。現在のイギリス音楽シーンとも絶妙に共振する良曲だ。

 『Georgia』と本作を比べて、ジョージアのヴォーカルが成長しているのも見逃せない。前作は攻撃的で威勢のいい歌声が多く、それが画一的に聞こえることもあった。しかし、本作では多様な歌声を披露してくれる。持ち前の力強さだけでなく、たおやかで甘美な歌声も飛びだす。5年の時を経て、表現者としてさらにレベルアップしたのがわかる。
 そのようなジョージアの姿が刻まれた『Seeking Thrills』には、歴史を学び進化した者だけが鳴らせる先進的サウンドが詰まっている。



サポートよろしくお願いいたします。