The 1975の“People”に見いだせるインダストリアルの文脈



 イギリスの4人組バンド、The 1975が新曲“People”を発表しました。来年リリース予定のアルバム『Notes On A Conditional Form』に収録されるそうですが、これがとてもおもしろい。
 保守主義やファシズムに抵抗する若者について歌った歌詞は、辛辣で攻撃的。アメリカのTV番組『The Late Late Show With James Corden』で、アメリカに対する批判が込められた“I Like America & America Likes Me”を歌うなど、もともと彼らはポリティカルな側面を隠さないバンドです。なので、明確な主張や社会的メッセージに戸惑うことはありませんでした。それでも、ここまでストレートに反骨を表したのは、嬉しい驚きです。環境問題に取りくむ活動家のグレタ・トゥーンベリを迎えた“The 1975”も合わせて聴けば、いまの彼らがどういうモードかわかるでしょう。〈It is time to rebel(いまこそ反逆の時)〉と語られるこの曲も、『Notes On A Conditional Form』に収録予定だからです。

 ヘヴィーなサウンドも“People”の興味深いところ。筆者からすると、ナイン・インチ・ネイルズといったインダストリアル・ロックを連想させる。しかし、NMEのインタヴューによれば、コンヴァージ、マイナー・スレット、ゴリラ・ビスケッツが“People”のヘヴィーな側面に影響をあたえているようです。インダストリアル・ロックというより、ハードコア直系と言えるかもしれません。とはいえ、なぜインダストリアル・ロックが脳裏に過ぎったのか気になるので、いろいろ考えてみました。

 インダストリアルは、2010年代の音楽において珍しいものではありません。Modern Love、Blackest Ever Black、Night Slugs、Fade To Mindなどのレーベルによって、インダストリアルの種子は拡散されていったからです。たとえば、ジャック・ダイスの「Block Motel」という作品があります。2012年にModern LoveからリリースされたこのEPは、インダストリアル・テクノにサザン・ヒップホップを流しこんでいる。ミリー&アンドレアの『Drop The Vowels』もそうですが、Modern Loveはインダストリアルとさまざまなジャンルを掛けあわせた作品が多い。こうした試みは、インダストリアル拡散の促進に繋がった。
 2013年にFade To Mindからリリースされた、ケレラの『Cut 4 Me』も興味深い作品です。このアルバムはR&Bを軸にしています。一方で、メタリックな音色と硬質なビートが際立つトラック群は、インダストリアルの要素が滲んでいる。R&Bにインダストリアルを持ちこんだという意味で重要作と言えます。

 こうした動きにいち早く呼応した作品のひとつが、カニエ・ウェストによる2013年の『Yeezus』です。エヴィアン・クライストやアルカが参加して作られたサウンドに、インダストリアルの響きを見いだすのは容易い。エヴィアン・クライストとアルカのオリジナル作品も、インダストリアル要素が多分に含まれています。
 『Yeezus』収録の“Black Skinhead”と、マリリン・マンソンの“The Beautiful People”をガール・トークがマッシュアップするということもありました。この2曲は、“The Beautiful People”が“Black Skinhead”の元ネタと勘違いしたメディアもあったほど、よく似ている。そりゃあやりたくなるよなと思ったものです。マリリン・マンソンといえば、インダストリアル・ロックの代表的アーティスト。そうした人との共通点を見てしまうほど、『Yeezus』はインダストリアルなのです。

 より明確にインダストリアル・ロックを反映させた作品といえば、グライムスの『Art Angels』でしょうか。このアルバムに関するFADERのインタヴューでは、ナイン・インチ・ネイルズの名前も登場します。そうした側面は、去年発表された“We Appreciate Power”でも表れている。ノイジーでヘヴィーなサウンドは、グライムス流インダストリアル・ロックです。
 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『Garden Of Delete』も見逃せません。ナイン・インチ・ネイルズやサウンド・ガーデンとのツアー経験が反映されたというそれは、グロータスの“Brown”をサンプリングした“SDFK”が収められている。グロータスは1990年代のインダストリアル・ロック・バンド。やはりここでも、インダストリアルというキーワードが出てきます。

 『Art Angels』と『Garden Of Delete』は、2015年にリリースされた作品です。このあたりから、インダストリアルの参照元が1990年代のロックにも広がりはじめたように思います。ガール・バンドによるブラワン“Why They Hide Their Bodies Under My Garage?”のカヴァーが世に出たのも、同じ年。オリジナルのダークなインダストリアル・テクノをノイズ塗れのインダストリアル・ロックに変換していて、なかなかおもしろい。クラブ・カルチャーでのインダストリアル再評価に対するロック・シーンからの返答としても、重要な意味を持つアクションです。そうした流れのうえに、ザ・ホラーズ『V』やセイント・ヴィンセント『Masseduction』など、ナイン・インチ・ネイルズの因子が鮮明な2017年の作品群は位置している。

 このような文脈が行き着いた曲として、筆者は“People”を楽しんでいます。2010年代前半にクラブ・カルチャーから生じたインダストリアル再評価の流れは、1990年代のインダストリアル・ロックも巻きこみ、それがいまも発展しているという史観。“People”のハードコアなところは、先述した3つのバンドがルーツかもしれない。でも、その記憶を呼び起こす感性が作られるまでには、2010年代におけるインダストリアルの流れが少なからず影響しているのではないか。筆者はそう睨んでいます。

サポートよろしくお願いいたします。