通時性と共時性 〜 Donna Summer「I Feel Love」(1977) 〜



 ドナ・サマーは“ディスコの女王”と呼ばれたシンガーで、「I Feel Love」はドナ・サマーの代表曲。この曲をプロデュースしたのは、ピート・ペロッティと、今年のWIREでも来日したジョルジオ・モロダー。

 「I Feel Love」といえば、こんなエピソードがある。デヴィッド・ボウイがブライアン・イーノと共に『Low』を制作していたころ、イーノは「I Feel Love」を聴いたあと、ボウイを呼んで次のように言ったそう。

 「聴いてよ、これが未来のサウンドだ。今後15年はこのサウンドが制覇するだろう」

 これは半分当たっていたけれど、半分外れている。確かに「I Feel Love」は、15年にわたって人々を踊らせた。しかし、リリースから36年経ったいまでも、あの官能的な歌声はパーティーのピーク・タイムを彩っている。さすがのイーノも、30年以上先の未来を予言することはできないようですね。

 「I Feel Love」には、時代とスタイルを超越する音楽のロマンがあるように聞こえます。音楽には瞬く間に広がっていくための、いわゆる共時性が必要だと思うのだけど、受け継がれていくための通時性もなければいけない。このふたつを備えていたからこそ、「I Feel Love」は2013年に生きる人たちを踊らせることができるのではないでしょうか?

 共時性だけを追求した音楽もいいけど、それは僕からすると、使い捨ての退屈なファスト・ミュージックに過ぎません。音楽とは不思議なもんで、売れたものが必ず人々のあいだで受け継がれていくわけではない。

 では、どんな音楽が受け継がれていくのか? その答えのひとつが「I Feel Love」だと思います。リスナーを驚かせる音はもちろんのこと、タイミング、潮流、そして運。そのすべてを「I Feel Love」は味方につけた。これは文字通り、音楽の理想形を体現していると言えます。


初出 : クッキーシーンのFacebook企画『DISC of the DAY』。2013年10月21日執筆。

※本稿は、クッキーシーンのFacebook企画『DISC of the DAY』に寄稿した記事に加筆・修正を施したものです

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