モロッコ出身ニューヨーク在住のアーティストが鳴らすヒプノティックなテクノ・サウンド Bergsonist「Avant」


Bergsonist「Avant」のジャケット

 穏やかな音波を放つヒプノティックなテクノ・サウンド。モロッコ出身ニューヨーク在住のアーティスト、ベルグソニストの音楽を形容するとしたら、こうなるだろうか。8年近く魅惑的な電子音を鳴らしつづけてきた彼女は、確固たる哲学を持っている。フロア向けのダンス・トラックから静謐なアンビエント・ミュージックまで、生みだす作品はさまざまだが、それらのすべてに柔和さと小さじ一杯のトリップ感覚という魅力がある。ゆえに彼女は孤高の作家性を獲得し、月1でNTSの番組を担うなど、多くの支持を得ている。

 そんなベルグソニストの最新EPが「Avant」だ。本作もヒプノティックな音を特徴とする一方で、どこかSFチックな雰囲気を醸しているのがおもしろい。ジェフ・ミルズといったデトロイト系の音を想起させる曲群は、ピュアな遊び心が際立っている。3分以上ある曲が全6曲中2曲という内容は一筆書きのラフな印象も感じさせるが、音の抜き差しで踊らせる“Rights”を筆頭に、各曲でうかがえる制作スキルの高さは熟練の域と言っていい。一聴時はシンプルに聞こえるものの、ハイハットのフレーズやディレイタイムの調整だけでグルーヴをがらりと変える技はとても複雑だ。
 その技が顕著に表れているのは“Prospect”だろうか。重厚なキックとスペーシーかつ妖しいシンセ・サウンドが前面に出たトラックで、インダストリアル・テクノのスパイスを嗅ぎとれるダンサブルなグルーヴが心地よい。


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