2022年ベスト・アルバム20

 なんだかんだいっても、アメリカとイギリスがポップ・ミュージックの中心なんだなと複雑な想いを抱きつつ、そのアメリカとイギリスから登場した音楽を欧米圏のアーティストではない人が更新していく様には、とても興奮しました。その雑感を示す意味でも、1位に選んだ作品は象徴的かなと思います。
 〈『』〉で括られた作品はフル・アルバム、〈「」〉で括られた作品はEP/ミニ・アルバムです。



20
Various Artists『Mirinae 미​리​내』

 韓国・済州島が拠点のレーベルによるコンピ。アジアを中心に、世界各国の良質なエレクトロニック・ミュージックを紹介してきた慧眼は本物だ。



19
Panic Shack「
Baby Shack

 ウェールズのロック・バンドが発表したデビューEP。ライオットガールに通じる視点が濃い歌詞にやられた。ユーモアたっぷりの怒りと皮肉に笑みを隠せなかった。



18
Yukari Okamura「Theory」

 西日本を拠点に活躍するDJの4曲入りEP。催眠的なテクノ・サウンドは心地よさと緊張感が共立しており、不思議な聴体験をもたらしてくれる。



17
Rina Sawayama『Hold The Girl』

 昨年8月のサマーソニックにおけるライヴで、日本での同性婚支持とセクシュアル・マイノリティーへの差別禁止法制定の必要性を主張するなど、社会問題へのメッセージも積極的な発信するアーティストの最新アルバム。UKガラージやカントリーなどさまざまな要素を消化したポップ・ソング集は、自身の背景から世界情勢まで多くのテーマを反映している。怒りや反骨心を隠さず、それでいて希望も示す凛々しい姿に拍手。



16
Kae Tempest『The Line Is A Curve』

 戯曲、小説、刺繍の執筆など音楽以外の活動にも精力的なアーティストの最新作は、これまでよりもポップ・ソングの体裁に接近したアルバムと言える。グリアン・チャッテン(フォンテインズD.C.)やケヴィン・アブストラクト(ブロックハンプトン)といった面々が印象的な声を提供した曲群は多彩なアレンジが光り、サウンド面でのおもしろさが増している。



15
Billlie『the Billage of perception : chapter two』

 K-POPの中でも、彼女たちは特にオルタナティヴな性質が強いグループだ。サード・ミニ・アルバムである本作でも、聴き手の頭を刺激するコンセプトとサウンドで楽しませてくれる。



14
RSS B0YS『BELLS 0F RESISTANCE (C0LLECTY0N)』

 ポーランドのエレクトロニック・ミュージックを牽引するデュオの作品。デビュー当初はインダストリアル色が濃いダークな音を鳴らしていたが、近年はメタルやガムランにも触手を伸ばすなど、カオス度が深まっている。



13
Salamanda『ashbalkum』

 韓国のDJ/プロデューサーデュオによるアンビエント作品。精密なプロダクションから生まれた電子音は、奔放な遊び心と心地よいサウンドスケープで満たされている。



12
Ghais Guevara『There Will Be No Super​-​Slave』

 ペンシルベニア州のラッパーが放った痛烈かつ刺激的なアルバム。人種差別の苛烈を訴える曲群は、いまも蔓延る欺瞞や偽善を撃ちぬく。UKドリルの要素が濃い“#FREEMIR”など、随所でイギリスの匂いが漂うのも興味深い。



11
Shygirl『
Nymph

 シャイガール史上もっともベタなポップ・ソングを鳴らした作品と言える。従来のアンダーグラウンドなイメージから脱皮し、より多くの人に聴いてもらいたいという意欲がうかがえる良作だ。



10
羊文学『
our hope

 現在の日本に渦巻く不穏な空気とも共振可能なアルバムとして楽しんだ。直截的表現が少ないのは日本の音楽ゆえの限界に思えなくもないが、メロディーの良さと語感が心地よい歌詞は魅力的である。



9
Charli XCX『Crash』

 彼女にとって最大のヒット作。これまでのハイパーポップ的サウンドから離れ、よりベタなシンセ・ポップやダンス・ビートを鳴らした選択は大正解だった。先鋭と親しみやすさが高いレヴェルで共立した良質なポップ・ソング集だ。



8
Li Yilei『Secondary Self』

 中国で生まれ、現在はロンドンを拠点とするアーティストの4thアルバム。不穏なサウンドスケープやメタリックな鳥のさえずりが耳に残る曲群は、人工物に自然が侵食されている現在の地球を模したようにも聞こえる。過去作と比べてラフな音作りだが、それでも端正なプロダクションを得意とする才能は輝きを失っていない。



7
Angel Olsen『
Big Time

 アメリカのシンガー・ソングライターが作りあげた傑作。2021年4月に同性愛者だと公言した時期に書かれたという曲群はとても感動的だ。同性愛者としての自分を受けいれるまでの紆余曲折と、受けいれた自分を認めたからこそ出逢えた美しい光景と情動が描かれた言葉に落涙。



6
Sarah Meth「
Leak Your Own Blues

 ロンドンのシンガー・ソングライターによる素晴らしいセカンドEP。リー・ヘイズルウッドやベス・ギボンズ(ポーティスヘッド)が脳裏に浮かぶサウンドは才気を見せつける。年齢以上の深い思索を刻んだ歌詞は繰りかえし聴きたくなる蠱惑性が印象的だ。



5
(G)I-DLE『
I NEVER DIE

 韓国のアイドル・グループ(G)I-DLEにとって初のフル・アルバム。これまで以上にリーダーであるソヨン以外のメンバーも制作に深く関わった内容は、私はわたしという華麗な孤高さが顕著だ。これをセルフ・プロデュース、しかもK-POPのど真ん中でやる意志は唯一無二だと思う。



4
Low End Activist『Hostile Utopia』

 イギリスのベース・ミュージック・シーンを盛りあげるパトリック・コンウェイが変名でリリースしたグライム作品。現地の社会的不平等や暗部をモチーフとしてサウンドは非常にダークかつヘヴィーだ。2022年に発表されたレベル・ミュージックの中でも飛びぬけたクオリティー。



3
Loyle Carner『
Hugo

 イギリスのラッパーがさらなる悟りの境地を切りひらいた傑作。これまでの良い人というイメージを打ち消すかのように、自らのダークサイトと向きあった内容は滋味に溢れている。歳を重ねる味わい深さが魅力の作品はビタースウィートな雰囲気が際立つ。



2
Charlotte Adigéry & Bolis Pupul『Topical Dancer』

 ベルギーを拠点とする2人組かソウルワックス主宰のレーベルDEEWEEからリリースしたアルバム。奇特なアレンジが光る電子音に交わるのは、人種差別やミソジニーを健全なシニシズムで批判する歌詞だ。筆者からすると、ヘヴン17『Penthouse And Pavement』(1981)を想起させる感性でいっぱいの作品。



1
Authentically Plastic『Raw Space』

 ウガンダのカンパラを拠点とするDJ/プロデューサーのフル・アルバム。クドゥーロ、インダストリアル・テクノ、ゴム、グライムといった音楽の文脈が複雑に絡みあったサウンドは先鋭的かつキャッチーだ。ポリリズムを駆使したビートは頭で楽しめる知的興奮を滲ませる一方、そのビートから生じるグルーヴはとても享楽的。取りいれた要素に新たな側面をあたえたイノヴェイトなトラック群は驚異的という他ない。


 ※Yukari Okamuraの「Theory」はSpotifyになかったため、過去作の中でも特に好きな曲“Promise”を入れました。

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