歴史に残る「応急処置」 〜 マニック・ストリート・プリーチャーズ @ 新木場スタジオコースト 2016.11.8 〜



 マニック・ストリート・プリーチャーズの『Everything Must Go』再現ライヴを観てきた。結論から言うと、とても良かった。スケールのデカいメロディーと知的な歌詞が絶妙に混じりあった曲群はマニックスの歴史、いや音楽史に残る名盤だとあらためて確認できた。
 『Everything Must Go』は、マニックスにとって再出発のアルバムだ。リッチー・エドワーズが失踪し、活動できるかどうかハッキリしないなかで作られた作品である。メンバーの言葉を借りれば「応急処置」的な作品で(※1)、それに対する反応次第では解散もありえたはずだ。しかしその「応急処置」は絶賛された。全英アルバムチャートの最高位は2位。「A Design For Life」という今もライヴのハイライトを飾る名曲も収められている。そんな『Everything Must Go』は、マニックスにとって『The Holy Bible』と並ぶ特別な作品だろう。このことが伝わってくる一夜だった。


 そして筆者は、もうひとつ再確認できたことがあった。それはマニックスの感性が今のポップ・ミュージックを先取るものだったということだ。今でこそ、さまざまな要素を取りいれた折衷的音楽はあたりまえになったが、それをマニックスはいち早くやっていたのだなと実感した。『Everything Must Go』で言えば、「A Design For Life」や表題曲のストリングスにはモータウンの要素を見いだせるし、「Kevin Carter」のドラムはさながらボサノヴァである。リッチーがいた『Generation Terrorists』から『The Holy Bible』期にしても、マニックスは同じサウンドを鳴らすことはなかったが、そうした引きだしの多さが顕著になってきたのは間違いなく『Everything Must Go』以降だろう。このような側面があの日は際立っていた。20年という時を経た今、『Everything Must Go』を聴きなおしてみてほしい。文字通りの新たな発見があるはずだ。マニックスはその波瀾万丈な物語を中心に語られがちだが、音楽面でも興味深いものを残していることはもっと知られていい。


 最後に、筆者から見た『The Holy Bible』と『Everything Must Go』の違いも書いておく。筆者はこの2作品の再現ライヴを観ているが、一番しっくりきたのは後者の再現ライヴだった。以前も書いたが(※2)、『The Holy Bible』の再現ライヴはどこかピリッとしない演奏だった。コール・アンド・レスポンスをするわけでもないのに、歌詞を端折る場面も見られるなど、正直パフォーマンスとしては悪いほうに入る。ただ、それは現在のマニックスと『The Holy Bible』期のマニックスが、あまりにもかけ離れているからだと思っていた。
 こうした考えは、2016年11月8日の夜に確信となった。先述したように、『The Holy Bible』と『Everything Must Go』は共に特別な作品だが、後者の方が今のマニックスに近いのだ。もちろんこれは、どっちが良い/悪いの話ではない。『The Holy Bible』のほうが、当時の状況、空気、世界情勢など、あの時しか作れない要素を多分に含んでいるというだけのことだ。言ってみれば11月8日の夜は、両作品の“特別”に含まれるものの違いが浮きぼりになった一夜でもあるのだ。




※1 : 増井修さんによる『Everything Must Go』のライナーノーツを参照。

※2 : 『過去の“痛み”と向きあうということ 〜マニック・ストリート・プリーチャーズの『The Holy Bible』再現ライヴに寄せて〜』です。https://note.mu/masayakondo/n/n2c78b2ed29f5

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