Fredo『Money Can’t Buy Happiness』


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 ウエスト・ロンドン出身のラッパー、フレドが2019年にリリースしたデビュー・スタジオ・アルバム『Third Avenue』は、自らのハードな人生を反映させた力作だった。UKドリルグループ1011への言及など、ローカルネタを随所で散りばめつつ、イギリス以外の国々に住む者たちも共鳴できる情感を描いている。こうするしか生きる術がなかった者の叫びとも言える言葉の数々は、全英アルバム・チャート5位という商業面での成果も得た。

 その『Third Avenue』に続くセカンド・アルバムが『Money Can't Buy Happiness』だ。タイトルは、日本語で《お金では幸せを買えない》という意味合いを持つ。このことからもわかるように、本作はUKラップ界のスターとなり、金銭的に恵まれた状況にあっても得られないものを率直に綴っている。ドラッグの売人、刑務所暮らし、暴力と死など、フレドを悩ませてきた過去は富で癒せるものじゃないと示す内容は、終わりのない悲痛が滲む。

 こうした悲痛さは、前作以上に自身を内省し、それを表現した先に表れたものだ。なかでも“Blood in My Eyes”はフレドの心がもっとも顕著に描かれている。ホージア“Arsonist's Lullabye”(2014)をサンプリングしたこの曲で、フレドは自身の脆弱性を丁寧に紡ぐ。不安定な精神状態もストレートにラップするなど、どこまでも正直だ。
 正直さを保つことで、本作のフレドは表現者としての成長と、それをやめたくないという誠実さをアピールすることに成功している。その姿はまるで、ハードな生き様だけが売りのラッパーじゃないとでも言いたげだ。

 成長はサウンド面でもうかがえる。正直、前作の音は大しておもしろくなかった。ほとんどのビートが典型的なトラップをなぞるだけで、プロダクションも際立つところは見られない。
 だが、本作では幽玄なピアノの響きを多く取りいれるなど、さまざまな質感の音を鳴らそうという意欲が明確だ。特に“What Can I Say”は、ウォーレン・G的なGファンクの香りがするトラックを特徴とし、これまでフレドがあまり見せてこなかった側面を楽しめる。

 全体的には、プロデューサーとして参加したデイヴのデビュー・アルバムにして傑作『Psychodrama』(2019)を連想させるところが目立ち、そこが引っかかる者もいるだろう。しかし筆者は、表現者として前に進むことをやめないと決めたフレドの姿勢に拍手したい。



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