2018年ベスト・アルバム50


 2018年は筆者にとってどんな年だったかを書く前に、去年のベスト・アルバム50を読みかえしたら、少々困ってしまいました。2018年も去年とほとんど変わらない姿勢で、ポップ・カルチャーと遊んでいたからです。いまもボツワナのメタル・シーンを追っているし、アジアの音楽も定期的に聴いています。

 世界の現状に対する問題意識を持った作品が多かったのも、去年と同様でした。特にイギリスは、若いプロモーターたちがホームレスを支援する団体と協力したりと、ポップ・カルチャーにできることを探る動きも多かった。ここ数年盛りあがりを見せるUKジャズも、そこに関わるアーティスト自身が社会状況との関連性を語ったりしています。

 そうした流れがあるなかで、若者を支援する活動もおこなうライター、キアラン・タパールの台頭は必然かもしれません。彼はピッチフォークやi-Dといったカルチャー系の媒体に多く寄稿する一方で、現在イギリスで社会問題となっているナイフ・クライムの原稿をガーディアンに寄せるなど、政治/社会問題に関する意見の発信にも意欲的です。こうした感性を持つライターの需要は、どんどん増していくでしょう。音楽をたくさん聴いているだけでは理解できない音楽作品が、今後さらに多くなるからです。

 メディアでいえば、Foundation FMがおもしろいと感じました。今年11月にペッカムでオープンしたばかりのラジオ局で、女性が中心となって運営されているところも話題を集めています。女性はもちろんのこと、セクシャル・マイノリティーを支えるような番組づくりを目指しているようです。筆者もよく聴いているんですが、最新の音楽を積極的に流す一方で、社会問題の話も気軽にしたりと、「個人的なことは政治的なこと(The personal is political)」という有名なフレーズが頭によぎる姿勢は好感を持てます。Belamiのように、Foundation FMもおもしろいコミュニティーやアーティストが集まる場になれるのか、楽しみです。

 これらの動きに共通するのは、グローバリゼーションだと思います。自由貿易が進み、世界中の情報も容易に知ることができる現在において、他国の状況は日本に住む人たちにとっても身近な問題となっています。たとえば、低価格なファストファッションを支えるバングラデッシュで、縫製工場が入った商業ビルの崩壊が起こったのをきっかけに、現地の過酷な労働環境を改善しようという大きな動きが生まれました。それを受けて、社会や環境の未来を守るサステイナブルという姿勢が注目され、GMBH、ティツィアーノ・グアルディーニ、フィップスなどサステイナブルとデザイン性を高いレベルで共立させたブランドが、存在感を高めています。このような現実があり、それに関連する情報へも簡単にリーチできる現代で、文化と政治の関係性をシリアスにとらえるのは、半ば必然と言えるでしょう。繰りかえしになりますが、世界中の人たちにとって無関係ではない、生活に関わる問題だからです。

 プレミアリーグのマンチェスター・シティーで監督を務める、ジョゼップ・グアルディオラも見逃せない例かもしれません。今年11月、グアルディオラはリヴァプール大学で講演をしました。そこで語られたのは、フットボールという文化が社会にどのような影響をあたえるか?なんですが、カタルーニャ、ナチス、独裁政権に触れるなど、大変興味深い内容です。この講演も文化と政治の関係性を考えるうえで重要なケースなのは言うまでもありませんが、グローバル化が進むフットボールの現状をふまえると、出てくるのは当然という話でしょう。いまや、ヨーロッパのトップリーグには世界中からスター選手が集まっています。さまざまな習慣、文化、宗教が交雑する、多国籍な空間です。そのような空間だからこそ、FIFA(国際サッカー連盟)は差別に反対する姿勢を明確にし、セクシュアル・マイノリティーを支援するパレードに参加したクラブもあったりします。こういった動きが各所で活発な世情が、先述したキアラン・タパールの台頭にも繋がっているのです。日本の場合、文化と政治の関係性はサブカル的な悪趣味枠で語られがちなため、シリアスにとらえる言説はほとんど見かけません。しかし、遅かれ早かれそうした日本の状況は変わると考えています。もし、本稿を読んでいる人のなかにポップ・カルチャーを語りたいという奇特な方がいたら、準備をしておいたほうがいいかもしれません。筆者は3年ほど前から少しずつ準備しています。

 といったところで、ようやく本題。今回のベスト・アルバム50は、フル・アルバム、ミニ・アルバム、EPが対象です。新作はもちろん、リイシューやコンピも含まれます。作品の質は当然ながら、何かしらの同時代性を見いだせることも評価基準です。ブログやWebメディアで記事を執筆した作品は、作品名のところにリンクを貼っているので、よろしければぜひ。Spotifyのプレイリストもあるので、聴いてみてください。本稿があなたにとって、新たな視点や感性への掛け橋になることを祈っております。



50
Dream Wife『Dream Wife』

 言葉もサウンドもストレートなロックンロール・アルバム。勢いでごまかしていると思われがちだが、多彩なメロディーは確かなスキルをうかがわせるなど、長く活動するための下地は備えている。



49
Cardi B『Invasion Of Privacy』

 人気を集めた要因の1つである挑発的な姿勢は、ファースト・アルバムでも楽しめる。元ストリッパーという経歴など、自らの過去を積極的に提供する姿は、「将来、誰でも15分は世界的な有名人になれるだろう」と語ったアンディ・ウォーホルの予言が現実となった世界の象徴だろう。カーディー・Bがその他大勢と違ったのは、15分を越えても人気者でいられる才覚を持っていたことだ。



48
Chvrches『Love Is Dead』

 どこか親密さが漂うエレ・ポップを鳴らしていた3人組は、スケールの大きいサウンドを携え、帰ってきた。EDM以降の定番となったビルドアップ→ドロップの手法を取りいれるなど、貪欲さが増した印象だ。



47
Anchorsong『Cohesion』

 ロンドン在住の日本人による最新作は、ボリウッド音楽にインスパイアされ生まれた。ゆえにインド音楽の要素が際立つが、フラメンコのエッセンスも散りばめたりと、そのサウンドは多国籍だ。



46
Theo Parrish『Thanks To Plastic

 セオ・パリッシュは、伝説のクラブPlastic Peopleを愛していた。そのことは本作を聴けばわかるだろう。Plastic Peopleにおける最後のDJプレイを記録したそれは、パーティーの理想形を私たちに教えてくれる。



45
Franz Ferdinand『Always Ascending』

 ベテランと呼ばれることも多くなったグラスゴーのバンドは、本作で見事に同時代性を獲得した。フレンチ・ハウスやトラップを取りいれたというサウンドはより多彩になり、汗だくになるまで私たちを踊らせる。



44
No Name『Room 25』

 チャンス・ザ・ラッパーも支持するシカゴのラッパーは、最新作でシリアスな側面を強調している。前作『Telefone』は勢いまかせなところも少しあったが、本作では時間の経過による健全な成長がうかがえる。



43
Fumu『Sinuate』

 マンチェスターの集団で、NTSにも番組を持つリターン・トゥー・ゼロのメンバーによるファースト・アルバム。インダストリアルを基調にしながら、ヒップホップ、エレクトロ、EBMといった要素が入り乱れるリキッドなサウンドスケープは、果てしなくトリッピーだ。



42
Moses Boyd『Displaced Diaspora』

UKジャズ・シーンの中でも凄腕として名を馳せる男の最新作。ジャズにとどまらず、アフロ・ビート、グライム、ベース・ミュージックなども攪拌させたサウンドは、ダンスフロアでも機能するだろう。ここ1~2年ほどでUKジャズがハイプ的に取りあげられることも増えた現在において、2015年にレコーディングされた作品を出すことはボイドなりの批評性だろうか。



41
88rising『Head In The Clouds』

 アジアのカルチャー・シーンを発信している88risingのコンピレーション。アジアという点ではChinabotと同じだが、こちらはヒップホップやR&Bを中心にしているのが特徴だ。



40
BON『33:33』

 ガイカとのコラボで名を知らしめた2人によるミックステープ。地の底を這うような重低音が終始鳴り響くそれは、大音量で聴くと圧殺されるのでは?と思うほど強烈だ。



39
Goat Girl『Goat Girl』

 サウス・ロンドンのインディー・ロック・シーンの中でも、とりわけブルージーな匂いを漂わせるバンドのファースト・アルバム。〈下院議員の恥ずかしいレイプが暴かれた〉と歌われる“Burn The Stake”など、反骨心旺盛な歌詞に惹かれた。



38
Young Fathers『Cocoa Sugar』

 スコットランドの3人組は、混迷を極める社会と真摯に向きあった。歌詞の多くはメイル・ゲイズをテーマにし、移民問題を思わせる歌もある。ブルー・ナイル『Hats』とグレイス・ジョーンズ『Bulletproof Heart』のマッシュアップみたいなジャケットもおもしろい。



37
Ray BLK「Empress」

 4歳のとき、ナイジェリアからサウス・ロンドンに移り住んだシンガーは、ハードな世情に目を向けた。それがもっとも顕著なのは“Run Run”
だろう。いまイギリスで問題となっている銃/ナイフ犯罪がテーマだ。



36
Shygirl「Cruel Practice」

 サウス・ロンドンを拠点とするアーティストのファーストEP。セガ・ボデガが全面協力したサウンドは、蠱惑的な低音を鳴り響かせる。呪術的なシャイガールの歌声もクセになる。



35
El Alfa『El Hombre』

 ドミニカ出身のラッパーによるアルバム。陽気なグルーヴで終始楽しませてくれるが、そこにはレゲエ、ダンスホール、ラテン、トラップなど数多くの表情があり、聴きごたえも十分。その才能にカーディー・Bも引き寄せられた。



34
Ariana Grande『Sweetener』

 頂点に立った者にしか纏えない風格が印象的な作品。彼女の音楽に浸りながら涙をこぼす日が来るとは思いもしなかった。ファレル・ウィリアムスのプロデュース曲が異彩を放っている。



33
Robyn『Honey』

 ロイクソップとのコラボでもおなじみのアーティスト。ハウスを基調とするダンサブルなエレ・ポップは職人芸の域。“Send To Robin Immediately”では、リル・ルイスによるハウス・クラシック“French Kiss”をサンプリングしている。



32
Helena Hauff『Qualm』

 エレナ・コロンビやヴェロニカ・ヴァシカと共にEBM再評価を盛りあげるアーティストの最新作。EBM、インダストリアル、エレクトロを組みあわせたマシーナリーなサウンドは、機械的な肉感性という少々矛盾するような言葉が頭によぎるものだ。



31
Neneh Cherry『Broken Politics』

 多彩なサウンドをバックに、聴き手を高ぶらせる精悍な言葉が紡がれる快作。そこに浮かびあがる彼女の姿は、戦えばその美しさ一際輝くという言葉がふさわしい。



30
小西真奈美『Here We Go』

 役者の小西真奈美がアルバムをリリースというだけでも驚きだが、質の高い内容にはもっと驚かされた。自身のウィスパー・ヴォイスを巧みに操り、歌詞では言葉遊びも披露。とてもデビュー・アルバムとは思えない余裕がうかがえる。



29
Sabiwa『輪迴』

 台湾出身のアーティストによる素晴らしいエレクトロニック・ミュージック。以前ブログでも取りあげたChinabotからのリリースである本作は、フィールド・レコーディングを駆使して作られた。荘厳な雰囲気を漂わせるサウンドスケープにノックアウト。



28
Awate『Happiness』

 サウジアラビア経由でイギリスにたどり着いたエリトリアの難民が、社会的弱者にフォーカスした作品を発表するのは必然だろう。ファンクの要素が滲むヒップホップである本作は、豊穣なサウンドにシリアスな問題提起を込めている。



27
Tom Misch『Geography』

 サウス・ロンドンの音楽シーンにおける中心人物のひとりは、期待以上の作品を作りあげてくれた。フィラデルフィア・ソウルを連想させる“Tick Tock”や、アップリフティングなディスコ・ソング“Disco Yes”といった、心を沸かせるポップ・ソングが満載。



26
Chloe x Halle『The Kids Are Alright』

 ビヨンセが見いだした才能は、その輝きを解き放つことに成功したようだ。ゴスペルのコーラス・ワークが印象的な“Grown”、オペラ風のアレンジを施した“Down”など、奔放さが光るポップ・アルバム。



25
Mitski『Be The Cowboy』

 ミツキの音楽を聴くと、達観したような言葉に驚かされることがある。それは本作でも同様で、ツアー生活などによって疲弊した状態から、ふたたびミツキとして表現するまでの立ち直りを歌うという内容は、深い内省を経たからこそ得られる轟々としたエモーションで満ちあふれている。



24
田島ハルコ『聖聖聖聖』

 筆者の耳からすると、Minimal WaveやCititrax周辺に通じるニュー・ウェイヴ・サウンドに聞こえる。本作がおもしろいのは、そのサウンドにトラップやR&Bのスパイスを振りかけているところだ。これは昨今のEBM再評価や、それに伴うポスト・パンク再構築の流れにおいても異色と言えるだろう。



23
Amnesia Scanner『Another Life』

 EPやミックステープを発表するたびに、早耳のリスナーたちを熱狂させてきた2人組のファースト・アルバム。インダストリアル・ミュージックを下地に、ヒップホップやEBMなどが交雑するサウンドは、先鋭的かつキャッチーだ。



22
Rosalia『El Mal Querer』

 バルセロナ生まれのロザリアが発表したファースト・アルバムに、あのファレル・ウィリアムスも熱狂した。フラメンコにR&Bなどを接続する折衷性は、伝統と革新を高いレベルで共立させている。



21
Rafiq Bhatia『Breaking English』

 ジャズとして聴けるのはもちろんのこと、ベース・ミュージックやポストロックの観点からも楽しめる。今年もNYの音楽シーンは筆者の耳を楽しませてくれたが、そのなかでも特にリピートしたのは本作だ。



20
Sons Of Kemet『Your Queen Is A Reptile』

 シャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オブ・ケメットは、盛りあがりを見せるUKジャズの旗頭にふさわしい作品で、私たちを楽しませてくれた。テナー・サックス、ベース、ツイン・ドラムという編成から生まれるサウンドは、聴き手のハートを滾らせる。



19
Bamba Pana『Poaa』

 タンザニアのアーティストがNyege Nyege Tapesから発表したファースト・アルバム。音飛びすれすれの“Biti Three”など、狂気のダンス・ミュージックが詰まっている。



18
Empress Of『Us』

 故郷のLAに戻り制作されたという本作は、分断が叫ばれて久しい世情へのオルタナティヴ。前作以上にR&B色を強調しているが、初期のマドンナに通じるエレクトロ・ビートで踊らせてくれる“ Don't Even Smoke Weed”が筆者の好みだ。



17
Johann Johannsson『Mandy (Original Motion Picture Soundtrack)』

 ニコラス・ケイジのキャリアにおいて、もっとも素晴らしい演技を堪能できる映画のサントラ。聴き手の意識を1枚ずつ剥がしていくようなトリップ感覚は、極上のアンビエント作品として楽しめる。



16
0100110110『3636』

 イタリアのデュオによるファースト・アルバムという以外は、多くの謎に包まれた作品。とはいえ、端正なサウンドスケープを描きつつ、硬質なビートで踊らせる多面的なテクノ・アルバムである本作は、「とにかく聴いてほしい」の一言で十分かもしれない。



15
Let's Eat Grandma『I'm All Ears』

 ノリッチ出身の2人組は、待望のセカンド・アルバムでさらなる飛躍を果たした。なかでも素晴らしいのは“Falling Into Me”だ。サイドチェインでうねらせたようなシンセ・ベースはEDMだが、全体の質感はエレクトロニックや初期のペット・ショップ・ボーイズあたりのエレポップで、そこにオーパスⅢを彷彿させるトランシーなフィーリングもまぶしている。



14
Puma Blue「Blood Loss」

 サウス・ロンドンにとどまらず、世界中の音楽ファンから注目を集める男の最新EP。UKジャズの文脈で紹介されることもあるが、トリップホップ、アンビエント、ポスト・パンクなどの要素もうかがえる本作を聴いた後では、ジャズ・ミュージシャンという言葉で括ることに抵抗感を覚える。



13
Novelist『Novelist Guy』

 スケプタ、マムダンス、スポルティング・ライフなどのアーティストとコラボして知名度を高めてきた孤高のラッパーは、自主レーベルからファースト・アルバムをリリース。ミニマルなサウンドは彼の鋭い言葉をより際立たせ、聴き手の心に深く突き刺さる。



12
SUMIN(수민)『Your Home』

 BTSやBoAの作品にも参加したことがあるスミンは、本作でも遺憾なくその才能を発揮している。特に素晴らしいのは“In Dreams”。コーラスはロドニー・ジャーキンスあたりの90年代R&Bを彷彿させるが、音の強弱を細かく変えるビートはフライング・ロータスといった2000年代以降のグルーヴだ。



11
TSVI『Inner Worlds』

 ロンドンを拠点とするTSVIのファースト・アルバム。これまでの彼はベース・ミュージックやゲットー・ハウスを鳴らしてきたが、本作ではトランスを大胆に取りいれている。なかでも“Safi”は、聴き手を果てしなく高ぶらせるトランシーな音像が映えるノンビート・トラックだ。



10
BTS『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』

 BTSは、全編韓国語のアルバムを全米1位に送りこむことで、自分らしさを残したうえでのグローバル化は可能だと証明してみせた。国連で演説するなど、すでに大きな影響力を持つが、それは今後さらに広がっていくだろう。



9
BoA『WOMAN』

 やはりBoAは、韓国語で歌ったアルバムのほうが素晴らしい。ビヨンセやジャネット・ジャクソンとも共振できるのは、サウンドのみならず信念にも及んでいる。かつて『Girls On Top』を発表した女性は、着実に成長して凛々しい『WOMAN』となった。



8
CupcakKe『Ephorize』

 キワモノ扱いされることも多いが、過剰な言動には聡明な知性が込められていると示した快作。ドリル、ダンスホール、ハウスなどあらゆるタイプのトラックを乗りこなす彼女のラップスキルは、驚くほど高い。自らの人生を省察した“2 Minutes”が漂わせる風格に感嘆。




7
The 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』

 2010年代のサウンドトラック。ドナルド・トランプやグローバル社会など、デジタル・ネイティヴであるミレニアル世代ゆえの悩みを吐露しながらも、一筋の希望を明確に示すのは彼ら自身テクノロジーの助力を受けて成りあがったバンドだからだろう。今年11月におこなわれたアメリカ中間選挙の際、テイラー・スウィフトが政治的姿勢を明確にしたときも感じたが、自分の考えを正直に示すことは致命的なダメージじゃなくなったのかもしれない。



6
Idles『Joy As An Act Of Resistance』

 熱苦しい5人の男たちが、貧困や移民などさまざまな問題に対する想いを込めた作品。そうしたストレートなメッセージ性ばかり注目されがちだが、ハードコア、ポスト・パンク、ガレージ・ロックなど多彩な要素で賑わう音楽性も見逃せない。こういう作品が全英アルバム・チャート5位を獲得できるイギリスの奥深さに拍手。



5
三浦大知『球体』

 規則性のある母音使いが際立つ歌詞は、日本語の特性を活かしているという意味では日本的だ。しかし、その歌詞を包むサウンドはウィークエンドやフランク・オーシャンといった現行のポップ・ミュージックを反映している。もし、日本のアーティストでBTS的な立ち位置に行ける可能性を持つのは誰か?と訊かれたら、躊躇なく三浦大知と答える。



4
Yves Tumor『Safe In The Hands Of Love』

 折衷的な音楽性に、社会が作りあげたノーマルを問うクィア・アートの文脈を接続した作品。エクスペリメンタル・ミュージックと言われることも多いが、そんなイメージに反発するかの如くキャッチーな側面を強調しているのも興味深い。



3
Jorja Smith『Lost & Found』

 2016年発表の“Blue Lights”でスター候補生となった彼女は、本作で本物のスターだと証明した。自身の恋愛経験を題材にした“The One”はパーソナルな想いを紡ぐ一方で、“Lifeboats”ではイギリスの社会福祉制度をチクリと批判するなど、豊富な語彙には舌を巻くしかない。90年代R&Bと画一的に括られることも多いが、トリップホップ、ダブ、アフロスウィングなどさまざまな要素を滲ませるサウンドにとって、そうしたラベリングは無知ゆえの悲劇だろう。



2
Sophie『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』

 安室奈美恵やチャーリーXCXとの仕事でも知られるソフィーは、このアルバムで自身の物語を描いた。初めて姿を大々的に披露したMVも話題になった“It's Okay To Cry”がオープニングを飾るのも示唆的だ。よりキャッチーなバブルガム・レイヴを鳴らすサウンドには、出自であるエクスペリメンタル・ミュージックの排他的な価値観を批判した姿勢が反映されている。



1
Ah-Mer-Ah-Su『Star』

 Discwoman周辺とも交流があるアーティストのファースト・アルバム。黒人のトランスジェンダーの観点が反映された歌詞はもちろんのこと、ハウスやブレイクビーツなど数多くの要素を秀逸なポップ・ソングに昇華したスキルも素晴らしい。MGMT“Kids”のカヴァーは絶品。


※ Theo Parrishの『Thanks To Plastic』はミックスCDなので、プレイリストに入れませんでした。


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