2NE1のコーチェラ再結成ライヴから考える“若さ”という呪縛



 2022年4月16日(現地時間)、アメリカのカリフォルニア州で開催されたコーチェラ・フェスティバルに、2NE1が降臨した。CL、ダラ、ミンジ、ボムの4人による2NE1は、2009年結成のK-POPグループだ。2016年11月に解散するまで数多くのヒットを飛ばし、女性にも愛されるガールクラッシュ系の象徴的存在である。

 公式の場で4人が2NE1としてパフォーマンスしたのは、2015年12月に香港で開かれた2015 MAMA以来、約6年ぶりのことだった。それだけに、コーチェラでの再結成は歓喜の声で迎えられたのは言うまでもない。代表曲“I AM THE BEST”(2011)を歌う4人の姿は、唯一無二のカッコよさが際立っていた。ボムに緊張の色が見え、さらにダラの靴が脱げるなど、全体的に隙がないライヴだったとは言えない。それでも、いまの4人が精一杯のパフォーマンスを繰りひろげ、世界中の音楽ファンに衝撃をあたえただけで満足だった。紆余曲折と長い年月を経た4人にしか生みだせない喜びが会場に渦巻いていたのだから。そこに過去の栄光を懐かしむ空気はなく、2022年の姿で観客をブチ上げるヤバいヤツらがステージに立っていた。


 コーチェラでの2NE1を観て、筆者はK-POPの現状を思わずにはいられなかった。はっきり言ってしまえば、K-POPは若さが重要視されがちだ。たとえばBLACKPINKのドキュメンタリー『BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~』(2020)を観ると、歳を重ねてから復帰しようと語りあうシーンで〈背中を痛めそう〉〈踊れない気がする〉という言葉が飛びだすなど、歳をとることに消極的な姿勢が目立つ。確かに、複雑で激しい振りつけやキレが求められるダンス・パフォーマンスにおいて、歳を重ねることはあまり歓迎されないだろう。もちろん高齢のダンサーもいるが、そういうダンサーには《○歳とは思えない》といった若々しさを称える言葉が加えられがちだ。

 しかし、BLACKPINKが歳を重ねることに消極的なのは理解できなくもない。若いグループが矢継ぎ早に現れて先達がどんどん去っていくK-POPの世界で生きてきた彼女たちのなかに、加齢を積極的に肯定できない価値観が生じてしまうのはしょうがないだろう。ゆえに彼女たちの発言を切りとって、エイジズム(年齢差別)と断罪するような真似はしたくない。


 とはいえ、歳を重ねることに肯定的な価値観がもっと広まっていいのでは?とも思う。時の流れという変化を介して、ファンとの繋がりを強めていくアーティストが多くてもいいはずだ。
 そうした視点を持つ筆者から見て、特に素晴らしいと感じるのはHA:TFELTである。“Tell Me”(2007)や“Be My Baby”(2011)といったヒット曲を出したWonder Girlsのイェウンとしても知られる彼女は、心が惹かれる音楽をたくさん残している。Wonder Girls時代にはあまり見せなかったダークな情動も積極的に表現し、酸いも甘いも噛みわけたからこそ醸せる滋味で聴き手を楽しませてくれる。フェミニストでもある彼女は、韓国の法務部が立ちあげたデジタル性犯罪専門委員会の参加メンバーに選ばれるなど、音楽以外でも興味深い活動を重ねている。


 LOVELYZのベイビーソウルが本名のイ・スジョンとして発表したミニ・アルバム「My Name」(2022)も良い。去年11月にLOVELYZのグループ活動を終えてからの再出発という意味合いもある内容は、迷い、戸惑い、不安といった感情も糧にして進むスジョンの凛々しい姿が印象的だ。R&Bを軸にしながら、フォークやジャズのスパイスも目立つサウンドは、多彩な心情を表現できるようになったスジョンの歌声に華を添えている。スジョンの作詞能力も聴きどころだ。心の機微を鮮やかに描いていく言葉選びは質が高く、繰りかえし聴きたくなる魅惑的な詩情が滲む。


 韓国の音楽シーンを見渡すと、若さを売りにせず、人として生きるなかで味わった変化や経験を表現に織りこんだアーティストも少なくないのがわかる。HA:TFELTやイ・スジョンのみならず、IUペク・イェリンなど、挙げていけばきりがないほどだ。ヴィジュアル担当という言葉からもわかるように、いまでもK-POPでは若さと同じくらい見た目も気にする傾向が強い。とりわけ女性アーティストやグループは、K-POPのドキュメンタリー『K-POP Evolution』(2021)でも指摘されているように、ルックスに対するジャッジや言及に晒されることが多い。そうしたなかで、これらのアーティストの活躍は注目に値する。かつてHA:TFELTは、K-POPシーンで活躍する後輩たちに対し、〈成功やルックス、能力、結果のようなものを離れて、息をする自分自身をたくさん愛してほしい〉コメントした。リスナーも、若さや見た目ばかりに着目しない楽しみ方を追求していいのではないか。このような価値観が広がれば、いま応援しているグループやアーティストの表現に幅が生まれ、従来よりも息が長い活動に繋がると思う。

 2NE1はコーチェラで、〈내가 제일 잘 나가(私が一番イケてる)〉(“I AM THE BEST”)と歌った。この一節に説得力を持たせるのは、若さでも見た目でもない。紆余曲折や弱さも受けいれたうえで、前を向き、地に足をつけて立つ強さだ。そうした強さを得るのに年齢も見た目も関係ない。大切なのは、それでも立つという意志だけだ。
 コーチェラのステージでパフォーマンスしていたときの2NE1には、その意志があった。だからこそ、“I AM THE BEST”を掲げた姿に多くの観客は歓喜したのだ。あの日の2NE1は誰よりもイケていた。

サポートよろしくお願いいたします。