(G)I-DLE「I Made」


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 韓国の6人組女性グループ、(G)I-DLE(アイドゥル)のセカンド・ミニ・アルバムにハマっています。「I Made」というそれは“Senorita”がリード曲なんですが、これが本当におもしろい。作詞/作曲/編曲で関わったメンバーのソヨンによれば(作曲と編曲はビッグサンチョと共同)、“Senorita”は「ラテン風で、タンゴを思い浮かべて作った曲」だそうです。タンゴはフラメンコの曲種ですが、確かにラテン音楽に通じる情熱的なノリが際立ちます。カスタネットが使われているところなどは、フラメンコのイメージそのもの。

 “Senorita”が素晴らしいのは、上モノや音色だけでラテンの香りを醸した薄い曲ではないからです。特に注目してほしいのがリズム。曲中のキックに耳を傾けると感じやすいと思いますが、“Senorita”のビートは8分の3・3・2でリズムがとれます。言葉で表すと、タタタ・タタタ・タタという感じでしょうか。こうした3拍子系のパターンは、ラテン音楽の典型のひとつです。フラメンコでいえば、セビジャーナスやファンダンゴス・デ・ウェルバが3拍子系の曲種として知られています。

 3・3・2のリズムといえば、アストル・ピアソラも忘れてはいけません。アルゼンチンの作曲家である彼は、タンゴにジャズやロックなどさまざまな要素を込めたサウンドで名を馳せました。一方で、そのサウンドは保守的なタンゴ愛聴者からタンゴじゃないという批判も受けたりと、反発も多かった。とはいえ、日本でも加藤登紀子が彼の曲に歌詞を乗せるなど、その多様な音楽性はいまも多くの人に愛されています。そんなアストル・ピアソラは、3・3・2のリズムを得意としていました。なかでも代表的なのが、1974年に発表された“Libertango”です。

 “Senorita”と同様、この曲も3・3・2でリズムがとれます。1977年のライヴ映像では、原曲よりもリズムがとりやすいと思うので、こちらもぜひ。

 同じラテン系の国で発展した音楽ですが、フラメンコのタンゴとアルゼンチン・タンゴは違います。そのため、本来はこうして並べるのは的外れかもしれない。でも、曲全体の雰囲気はフラメンコのタンゴなのに、曲を作るためのアプローチはアストル・ピアソラ的というのが、“Senorita”のおもしろさだと感じます。“Senorita”も、フラメンコ以外の要素によって多彩なサウンドを鳴らしているからです。〈다가와 줘요 내게로(タガワ ジョヨ ネゲロ)〉から始まるサビ・パートのベースを例に出しましょう。このパートのベース・ラインは、他のパートと比べて食い気味に紡がれるのですが、これはファンクでよく聴くものです。もっと厳密に言えば、ブライズ・オブ・ファンケンシュタインといった、ディスコ色のあるファンクで見られる。1曲のなかにさまざまな国の音楽を見いだせるサウンドは、韓国、タイ、中国、台湾といういくつもの背景が集う(G)I-DLEらしいと思います。

 あえて調和を崩す展開も“Senorita”の魅力です。それが現れるのは、ソヨンのラップ・パート。よくよく聴くと、ソヨンのラップがビートのリズムと少しズレています。これはおそらく、タタタ・タタタ・タタの〝タタ〟でラップを始めているのに加え、ラップ・パートの一節目〈그냥 넌 나에게만 집중해봐(グニャン ノン ナエゲマン ジッジュンヘバ)〉では3・3・2のリズムがまだ残っているからです。

 アクセントに注目すると、揺れのあるフロウなので少々不安定ですが、ソヨンのラップは16分の3(3拍4連)でリズムをとれるのがわかります。言葉で表すと、タタタ・タタタ・タタタ・タタタでしょうか。16分は8分より細く刻むので、それがビートとのズレに繋がっている。ただ、ラップ・パートの2節目〈남들 눈이 중요한가(ナンドゥル ヌニ ジュンヨハンガ)〉に入ると、ビートは音数を絞り、リズムを崩します。そのおかげで一節目のズレがかっこよさになり、違和感は遥か遠くへ吹き飛んでしまいます。最終節の〈사랑해봐(サランヘバ)〉で強引に歌とビートを合わせるところも含め、ラップ・パートは非常に聴きごたえがある。
 先述したように、“Senorita”はソヨンが関わっています。ビッグサンチョの助力も大きいとは思いますが、こういうサウンドを作るソヨンのセンスはぶっ飛んでいる。強いていえばグライムスに通じるものを感じます。

 最後に“Blow Your Mind”の話も少し。この曲は「I Made」のラストに収められていますが、なんとミンニが作詞/作曲/編曲で参加しています(制作はソヨンやフロウ・ブロウと共同)。

 この動画は、ミンニがサラ・バレリス“Gravity”を弾き語りでカヴァーしたものです。それを聴くと、ミンニの歌声が持つ多彩なヴォーカリゼーションは、(G)I-DLEのなかでも飛び抜けているのがわかります。どこか憂いを帯びた歌声で、“Gravity”に込められた複雑な感情の機微を描いていくその姿は、21歳とは思えない貫禄を感じる。
 その才能は“Blow Your Mind”でも発揮されているんですが、それ以上に耳を惹きつけたのはトラックでした。低音を強調したエレクトロ・ファンクという趣で、ミニマルな音像が印象的。音を詰め込まず、抜き差しで勝負するセンスはおもしろいと感じました。この先、ソヨンとミンニの共作からどんな素晴らしい音楽が生まれるのか?と思わせるには十分すぎるクオリティーです。



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