Kisewa(키세와)『Bullet Ballet』


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 最近おもしろいエレクトロニック・ミュージックをリリースしているレーベルは?と訊かれ、No Slack Recordsと答える者は多いだろう。韓国のソウルを拠点にしながら、興味深い作品を積極的に紹介しているのだから。
 2016年に設立されて以降しばらくは、ドイツのレーベルOstgut Tonを想起させるダークなテクノ作品が多かった。しかし近年はベース・ミュージックやヒップホップの要素が強い音も取りあげたりと、レーベル・カラーの多様化が進んでいる。

 そんなNo Slack Recordsから発表されたキセワ(키세와)のデビュー・アルバム『Bullet Ballet』が素晴らしい。
 2016年にDJを始めた彼女は、DJ集団Bazookapoの一員として韓国のダンス・ミュージック・シーンを盛りあげてきた。これまで筆者が聴いてきたDJプレイから察するに、ベース・ミュージック、ベース・ハウス、ヒップホップ、トラップなどの音楽を駆使したミックスが得意だ。

 そうした背景を知っているからこそ、『Bullet Ballet』を初めて聴いたときは驚いた。ざらついた金属音が印象的なインダストリアル・ミュージックであり、DJプレイとは一味違う表情を楽しめるからだ。
 妖しげな秘教的サウンドは芸能山城組による映画『AKIRA』(1988)のスコアを連想させる。それでいて、BPMが遅い酩酊感たっぷりなトラック群は、ヒップホップDJのDJスクリューが考案したチョップド&スクリュード(曲のピッチを落とし、半拍ずらしてミックスする)というリミックス手法に通じる。一言でインダストリアルと言っても、そこに見いだせる要素は実に多彩だ。

 その多彩さは“B3”や“A5”といったトラックでも光る。共にグロータスあたりのインダストリアル・ロック的な激しいドラミングが鳴り響くのだ。さらに“B4”や“B5”ではメタルのようなギターが聞こえたりと、ロック色が濃いのも『Bullet Ballet』の特徴と言える。

 インダストリアルで、ロックで、ヒップホップ。この折衷性には韓国だけでなく、世界中の音楽と比較しても際立つ強烈な個性が刻まれている。


※ 記事執筆時点ではMVがないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。


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