『レディ・プレイヤー1』(ネタバレありです)

皆さん、この週末はどうお過ごしでしたか?僕は、スウェーデンの友達と一緒に「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」というのを観ました。朝の4時から。で、けっこう疲れているわけですが、それでも楽しめました。

この「ユーロビジョン」というのは、「ユーロ」という名前から想像がつく通り、そして「ソング・コンテスト」という名前の通り、ヨーロッパ各国の代表1人(グループ)が、ライブパフォーマンスを行なって、その優勝者を決めるというスタイルの歌のコンテストです。日本ではあまり知られていませんが、スウェーデンのABBAや、セリーヌ・ディオンなんかもこのコンテストで優勝しています(僕も昨日初めて知りました)

それはともかく、スティーヴン・スピルバーグ最新作、『レディ・プレイヤー1』を先日見に行ってきました。基本的なストーリーとしては、近未来の荒廃したアメリカに生きる主人公が、巨大に構築されたVRの世界に隠されているという宝探しをするという夢いっぱいの(?)アドベンチャーです。

結論から言うと、映画それ自体は良かったと思うのですが、個人的な思い入れが強かったせいか、最終的に「う〜ん」となってしまって、少し残念でした。その理由を大々的なネタバレと共に、書いていきますので、まだ観ていない人は各自の責任のもとに読んでください。

まず、この映画はErnest Clineという人による同題の本が原作です。でもクレジットを観たところ、Zak PennとErnest Cline、二人の名が"Screenplay by"(脚本)として載っていましたので、きっとClineさんも映画の脚本に関わったんでしょうね。実は、僕はこの原作本を3年前にまだフィルムスクールにいたときに授業の課題として読み、授業の中でディスカッションをしました。さらに言うと、このZak Pennさんは、UCLAの当時の先生とつながりのある人で、授業に来てこの作品を話をしてくれたんです。ということで、まずこれが「個人的な思い入れ」で、大きい部分を占めています。

ここ数年の傾向として、日本だけでなく、ハリウッドも作る映画が原作ものやフランチャイズに偏っていることは、よく言われていますが、本を映画のストーリーに書き換えるアダプテーションの作業は、なかなかくせ者だと思います。特に何百ページもある本を、そのおいしいところや読んだときの感触を変えさせることなく、たった2時間の枠に納めるというのは、至難の業です。キャラクターの登場の仕方から、どの場面を残し落とすのかという選択、エンディングの見せ方など、どれか一つを間違えるだけで、映画がうまくいかなくなってしまいます。そして、たぶんこの作品も、そんな試行錯誤があったんだと予想されます。

(ここから先、本に関するネタバレもどんどんしていきますので、映画を観ていて本も読む予定のある人は、自分の責任のもとで読んでくださいね。)

そういう試行錯誤の末に作られた作品ということは予想できていたのですが、実は原作からの変更が思いの他多いことに、観始めてからわりとすぐに気づきました。例えば、

1.主人公とArt3misの出会い方ー二人は本ではダンジョンみたいなところで出会いますし、そもそも車のレースはなかったような…。
2.原作ではVRの世界に、もっとちゃんと日常っぽいものがあって、学校に行ったりしますので、主人公は完全にVRの世界に入り浸り。映画ではそれがなかったので、わりと現実に根付いた生活をしているように見えた。
3.ダイトウが死なない—原作では実はダイトウはノーラン・ソレントの悪行の犠牲になって死ぬことになっています。
4.あの巨大企業に乗り込むのはArt3misではなく、Wade Watts本人。
5.そして何より、一番ショックだったのは、エイチの正体がすぐにバレてしまうところ。実は原作本では、最後の最後に二人が現実世界で初めて顔を合わせ、実は想像していた人と全然違う、という流れになります。その部分を非常に気に入っていたので、Lena Waitheが早速出てきた瞬間(彼女は本当に良い俳優だと思いますが)、「マジかよー」となりました。ただし、やはり映画としてはWade/Parzivalだけの視点ではなく、複数の視点からも描かないと物語が成り立たないので、ああするしかなかったんでしょうね。そういう数々の変更に対し、原作者も脚本に入れてきたのは賢い選択だと思います。

ちなみに、プロデューサーの一人にクレジットされているDonald De Lineは、僕がいたスタジオの敷地内にオフィスを持っており、よくそのオフィスから電話がかかってきました。なので、De Lineという文字を見た瞬間に、あの緊張しっぱなしの電話番の時のことが思い出され、すこし鳥肌がたったのと、エグゼクティブプロデューサーとしてクレジットされているChristopher DeFariaは、オフィスの引っ越しのための整理をすこし手伝ったりしたということで、これもある種作品への「個人的な思い入れ」の一つでしょうか。

この『レディ・プレイヤー1』ですが、Box Office Mojoによると、5/10時点でアメリカ国内で約$1.4億、ワールドワイドでは$5.7億ほど稼ぎだしていますが、日本ではあまりうまく行っていないみたいですね。

ちなみにですが、続編が作られるとかの話もあるようで、「ああ、だから『1』なのね」ということをよくきくのですが、この「1」は「ターミネーター2」とかの数字ではなく、「プレイヤー1、準備は良いか」的な意味の「1」なので、一応書いておきます。続編のタイトルがどうなるかはわかりませんが、原作本では、ちゃんと「プレイヤー1、準備は良いか」と出るシーンもあるのに、そこも映画だとなくなっているんですよね。これはタイトルの意味を明確にするのに、必要なシーンだと思うんですけど。