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沼尻海岸図録(3. 磯焼けとウニ)      

 大谷の海は、前回の「海藻」で紹介したように豊かな海藻に恵まれている。海藻はまた海中林として、海の環境や生態系を支える大切な役割を果たしている。 

 2000年に入る頃から、環境汚染や温暖化、酸性雨などで環境に異変が現れ始めた。大谷でも、陸では「松枯れ」が発生して、海岸の松が次々と枯れ、海中では海藻が枯れてなくなるという「磯焼け」が起こっていた。

 磯焼けで海藻が消えたにもかかわらず、写真のようにウニだけが大量に発生している。そこから、磯焼けの原因はウニではないかと考えられた。だが、海藻はウニにとっても餌である。その餌もないのに、なぜウニだけがこれほどに増えるのだろうか。
 その謎を解き明かしたのが、前回紹介した谷口和也先生だ。 

 ウニは、卵から孵化するとプランクトンとして海中を浮遊する(図4~7)。図7の時に、ある物質(ジブロモメタン)を浴びるとウニへと変態し着底する(図8)。
 このジブロモメタンを出すのが無節サンゴモ(石灰質の体を持つ海藻)である。ウニだけが張り付いている不毛な海底に見えるが、実は岩の上には無節サンゴモが着生しているのだ。ウニはこのサンゴモが出すジブロモメタンを浴びて否応なくウニへと変態して着底するために、サンゴモの上はウニだらけになってしまう。

 上の写真は、谷口先生がサンゴモの上で変態する瞬間をとらえた写真である。
 一方、海藻はウニの変態を妨げる物質(プロモフェノール類)を出す。海の中ではウニは両方の物質を浴びて発生数のバランスが保たれている。

 ところが、温暖化など環境の悪化のために、海水温が上がり、貧栄養とななってしまい、海藻が育たずに海中林が縮小する。ウニの変態を妨げる物質が少なくなった結果、ウニが増える。そして、増えたウニが追い打ちをかけるように海藻を食べ尽くしてしまう。
 「磯焼け」を引き起こした原因を突き詰めていくと、その原因はウニではなく、環境を悪化させた私たち人間にあることが、これでわかるだろう。

(参照:谷口和也「磯焼け―失われゆく海中林」)
https://www.spf.org/opri/newsletter/148_3.html

 


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