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「大丈夫じゃない」

「大丈夫」という言葉が嫌いになった時期があった。
いつの間にか口癖になっていて、言葉の重みが感じられなくなっていた。いや、言葉が空回りしていたという説明の方がしっくりくるかもしれない。何も大丈夫じゃなくて、でもそう言い聞かせるしかなかった。きっと誰でも何度か乗り越えたことのある状況かもしれない。

ああもう大丈夫じゃなかったのか、と何度か気付いては自分を抱きしめるようにして眠った。ここには私しかいなくて、私の傍には私だけだった。いつでも、願う時は一人きりだった。誰かに言えばよかったのだろうけど、誰に言っても伝わるとも思えずに、終わらない夜はなくて、朝ばかり迎えていた。

会いたいと言ってくれる友人が周りにいて、休みのたびに誰かと会っては笑って食事をしたり、どこか歩きながら尽きないお喋りをした。仕事の評価も悪くなく、友人もいて満たされている。そう思うことで満足していたこともある。休日に駅のホームで電車を待っていたら、風が私の隙間を通り抜けていった。その時、私の心にほどよい重量があるのを感じた。ああこれが幸せってことなのかって思った。これがずっと続くといいのかな。もうこれ以上にもこれ以下にもならずに、ずーっとこのまま。それでもういいのかもしれない。この瞬間を忘れないようにと写真を一枚撮ったのを覚えている。

「誠実でいることは疲れることもある。」
言葉にした途端、記憶の箱が開いて走馬灯のようにいろんな自分を思い出した。そして気付いた。ああずっと、ずーっと大丈夫じゃなかったんだ。あの時も、あの時も。我慢強くなっただけで、大丈夫じゃないままここまで来たんだ。もちろん途中で、頑張り方や受け取り方を変えたりしながらやってきたけれど、でもそういう次元ではない、もっともっと根っこの部分から。

大丈夫じゃない、と口にしたところで何も変わらないと思っていた。それがここまで響くものだとも気付かずに。

心でずっと受け入れられなかった何かが、ストンとハマって落ちた。
やっと、本当の意味でこれまでの自分を受け入れられた気がする。

それでいて、今後の生き方を真剣に考えていかなければならない。
自分を生きるって本当に難しい。相手ありきである方がずっと考えやすい。
でも何よりも自分に正直でいたいと思う。たとえ目の前にある物事でも、考えを巡らせてから、手にしたい。全てを考慮してでも、自分を生きるために選択できるか。これは私にとって大きすぎる課題だ。でも挑まなければ、きっと先はないだろう。ただただ、大丈夫だと言い続けながら壊れていくロボットにはなりたくない。

これが2023年から始まる私の旅だ。

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