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堂林翔太という夢。そしてその続き。

 今でもよく思い出す光景がある。
 いわゆる暗黒時代、神宮球場の外野から見た、内野に飛んだ打球を華麗にスルーする新井や東出。無事捕ったとしても時に一塁への送球は手を離れた瞬間遠くからでもハッキリわかるくらい明後日の方向へ飛んでいった。だから、ちゃんと捕ってきれいに送球したらそれだけで大喜びで拍手した。
 だんだん笑えてくるくらいにポンポンと放りこまれるホームランをうんざりした顔で見送っていたのは木村拓也も森笠もそうだった。今度はいつ黒田が投げるのか冗談でなく指折り数えて待ち、黒田が炎上しようものならそこから1週間はもう終わりも同然な気分だった。他の球団ならアップして当然の成績なのに年俸の下がる緒方や前田を見て悔しい思いをした。文句を言わず受け入れる彼らが余計に悲しかった。
 だから、そんなチームなのに永川が逆指名してくれたときはとてもうれしかったし、梵が新人王を獲ったときは誇らしかった。

 そうそう、なんのイベントだったのか忘れてしまったけれど(セ・リーグのファンミーティングだったかもしれない)、監督やコーチと握手できる機会があって山本浩二に「優勝してくださいね」と言ったら、横にいた田淵に「この人優勝って言ったよ」と笑われたことがあった。あれ以来田淵が大嫌いになった。客観的に見たらそりゃ優勝は厳しいかもしれないけれど、それでも……と信じて応援するファンにまだ1試合もしていないうちに「優勝なんて無理」と言うなんて、プロ野球に携わる人のすることじゃない。

 閑話休題。
 長く続いたそんな日々がに光明が差し始めたのは、いつのころからだったろうか。ブラウンが監督になってチームが変わるきざしが出てきて、でもまさかのエースと4番が同時にいなくなってしまって、謙二郎が監督になって変わるかなと思ったらそうでもなくて、むしろDH今村とか勝手に抱いていた知性派なイメージとは逆の行動を目にして「やっぱりとうぶん無理か……」と思って。そんな日々に少しずつ光が見え始めたのはいつだっただろう。

 そう考えるとき、記憶の中で燦然と輝くのは堂林翔太の姿だ。
 甲子園のアイドルが入団してくれたことだけでもうれしかったのに、1年目からフレッシュオールスターに出てホームランを打って、3年目には開幕一軍を勝ち取った。スタメンになってすぐにヒットを打ち、初めてのホームランを思い出の甲子園で放った姿はまさに「スター性の塊」だったし、少し線は細かったけれど身長は十分だからこの先身体が大きくなればどれだけの成績を残すだろうとワクワクした。
 確かにエラーも三振も多かった。けれども、そんなことはなんでもなかった。ポカの多い三塁手は新井で十分免疫があったから。
 そう、新井がいなくなって以来ずっと空白地帯だったサードがついに埋められようとしていた。入団したときの新井より若くて、イケメンで、野球センスがありそうな選手によって。失敗してもなんだか爽やかな堂林の姿は、逆方向にグングン伸びていく打球は、長く続いた暗黒時代が終わるかもしれないと期待させる光だった。4番サード堂林。近い将来そんな未来が訪れて、マエケンとともにWエースとなった今村とチームを上昇気流に乗せてくれる。私がそうだったように、おそらくたくさんの人がそうした未来を夢見て、そして信じた。
 堂林の成長とチームの成長がリンクして、堂林が4番になるころチームもきっとAクラスに返り咲ける、すなわちCSに行ける、ひょっとしたら優勝争いもできるかも、そう思っていたのだ。

 でも、現実は違った。
 どんどん成長して、それに伴ってチームも強くなっていく……そのポジションに座ったのは、丸佳浩であり菊池涼介でありブラッド・エルドレッドだった。かつて堂林がそうだったように彼らのハツラツとした姿はチームの雰囲気を変え、彼らが中心選手となるにしたがってチームはCSに行けるようになり、夢にも思わなかった3連覇まで果たした。その間、堂林が手放したサードは年ごとにさまざまな選手が担い、規定打席で3割を打ってレギュラーを手中に収めたかと思った安部友裕もまた、好調を維持し続けられずにスタメンに定着できなかった。

 そして、肝心の堂林はというと、毎年恒例のように「今年は打撃をつかんだ」という記事が踊り、オープン戦で1本ホームランを打っただけで今年は違う! と騒がれた。なかなか出番のまわってこないさまに干されているという向きもあったけれど、個人的にはまったくそうは思わない。むしろ十分にチャンスは与えられていたのに、進塁打さえ打てなかったり消極的というしかない見逃し三振をしたりして堂林のほうからチャンスに背を向けているように見えた。内野手や外野手が足りなくて「今なら出られるのに」というときに限ってコンディションが悪く2軍の試合にすら出ていなかったりする間の悪さもあって、頭打ち感が否めなかった。打撃と反比例するかのようにうまくなっていく盗塁とファーストの守備を見るにつけ、このまま守備走塁の人になってしまう……? という疑念と期待が大きかった分だけがっかりする気持ちが打ち消せなかった。

 そんな堂林が今季、躍動している。テレビ越しだけれど、今までよりもずっと落ち着いて打席に入っているように見えるし、失敗してもすぐに切り替えられているように映る。オフに後輩である鈴木誠也に頭を下げて教えを請うほど追いこまれ、開き直ったことが奏功しているのかもしれないし、監督が代わって多少なりとも方針が変更されたであろうチームにフィットしているのかもしれない。
 なんにせよ、まさかの鈴木誠也より高打率なのだ。まだ100打席もいっていないけれど、首位打者だ。ホームランだって満塁含めて3本も打った。先日の試合からはサードにも座った。

 連覇が3で途切れて、中心選手が引退したり他のチームにいったりし、率いた監督も勇退した。連覇を支えた中継ぎ陣はそろってファームでの調整が続く。チームは間違いなく過渡期にいる。主軸にどっかりと座る鈴木誠也は、遠くない将来海の向こうに旅立っていくだろう。
 そんななか、もう一度文句なしに強いチームに戻るために。
 今度こそ、堂林の成長とチームの成績がリンクするかもしれない。4番サードは無理だったとしても、堂林が押しも押されもしない主力選手へと育っていくのと一緒に新しい戦力が整ってまた優勝できるかもしれない。

 ずっと待っていた夢の続きが、きっと今、始まろうとしている。

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