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小児がんの子どもの福祉支援

 みなさんは「小児がん」という言葉にはどのようなイメージをお持ちでしょうか。私は2年前小児科クリニックに来るまでは、テレビのなかでの出来事であり、出会ったことはありませんでした。

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 わが国では年間2,000人から2,500人が小児がんと診断されています。
それは、子ども10,000人に1人。子どもの死は稀な事であり、死と常に向き合いながら、”限りあるとき”を生きる子どもと家族の生活と人生を支え続けること。
親の「一分一秒でも長く生きてほしい」という想いに寄り添い、一緒に葛藤し、悩むことが重要。
※スペシャルニーズのある子どもの在宅ケア研修2017 資料(あおぞら診療所 前田浩利医師)より引用

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小児がんの子どもの福祉支援では、残された時間をよりよく生きること。入院や治療が長期に渡りため子どもの発達や成長の視点が必要。こころに寄り添うということが大切で、そばにいることが大事です。

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 わたしが福祉支援でしてきたことは、入浴介助とともに、彼のやってみたい思いを一緒にかなえることでした。訪問開始時は、大好きなテレビゲームでした。教えることが大好きな彼は、操作方法や攻略方法をひとつずつ丁寧に教えてくれて、レベル20プレイヤーにも協力プレイなら勝てるようになりました。デュエルマスターズやトランプでたくさん遊びました。
 先生からオーダーのあった療育は、遊びとエデュケーションをテーマに支援計画を組み立てました。「学校始まったら大変だよ。少しずつ始めよっか。」と波長にあわせながら、プリント1枚からはじめて、1枚できたら、ペーパークラフト1枚と交換だよとしてみたり、目標や達成感が得られることで、一生懸命取り組んでくれました。
 2カ月ぶりの訪問日は、とても寒い曇り空で、ちょうど訪問に向かう道中に雪がぱらぱら降ってきました。雪は不安の象徴でしたが、それでも久々に会える嬉しさでドキドキとワクワクした思いが混じった感覚でした。入浴後の活動は、ステップきっずのお菓子づくりキットをもっていき、ご両親へのバレンタインチョコづくり。彼の目はとても力強く、チョコをじっと見つめていました。チョコの種類を選び、手を添えながらチョコを溶かし、型に入れて、トッピングをして、冷やして。チョコが完成しました。
 支援を通じて感じたことを、言葉にすることは難しいのですが、先生のおっしゃっていた。療育という言葉の真意に気が付きました。

 「療育とは治療と教育である」

 希望のない医療は延命措置に過ぎないが、本人のやってみたいという思いや夢や希望があることにより、延命措置は延命治療にかわるのです。
 クリニック時代の2年間は、辛くて悲しいといった感情で、心がドロドロになるときもありましたが、こどもの笑顔とぬくもりをが僕を救ってくれました。今、振り返ると。不思議なことに、彼と一緒に作ったチョコレートのように、カチっと かたく、つよく、まとまったような感覚がのこってます。それはまるで、この2年間を。彼と彼の家族と、支援者とともに。全力で走り切った。そのような2年間でした。

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・小児緩和ケアにおいて、福祉支援(居宅介護)は、QOL支援や家族支援の観点から重要な役割を持ちます。
・退院時に体調に応じて、日常生活用具は早期検討、導入が必要です。申請や納品のリードタイムに注意。
・居宅訪問型児童発達支援への期待。支給決定していただける自治体が増えることを切に願っています。手帳がない難病のお子さん達にも広がることを願っています。
・グリーフワークはご家族にも支援者にも大事です。
 これらの知見は、彼の人生に寄り添ってきた。彼の家族と小児総合さん、さいわいこどもクリニックさん、訪問看護のはればれさん、リハ職人さん、むそうさん、あいの樹さん、ふれあいさん。関わってきたすべての人たちにより得られたことであり、彼が私たちに残してくれたメッセージです。

【追加資料】
9/11 医療的ケア児コーディネーター勉強会の追加資料です

以前の質疑応答で、皆さんからも強くご指摘を受けていたこととして、「コーディネートも現場も両方するのは抱え込みすぎ」「働きすぎで燃え尽きる」といった課題について、グリーフワークの視点で考察しました

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 援助専門職の仕事は、「感情労働」とも呼ばれています。仕事はさまざまな種類と労働のパターンがあり、感情労働とは、クライエントの悲しみや怒り、苦しみや不平不満という、クライエントの感情の矢面に立つ人の労働のことです。感情労働に関わる人には、高度な感情コントロールが必要とされます。
 援助をする人は罪悪感を抱えがちになります。自分には何もできないという罪悪感です。自分は無力であると感じる援助者は少なくありません。できることは共感という姿勢で、悲しみのプロセスに寄り添うということです。そして福祉職は医療行為はできませんが、QOL支援はできます。

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ディタッチメントチェック(適切な距離感)と基本姿勢について
①境界線の大切さ
 自分の体験と合わせて感情移入してしまいがち。客観的にとらえるためには境界線も大切。
②避けないこと
 声をかけてみる。たとえ断られても、声をかけることが大切。
③話しをきくこと
 話をよく聞く。アドバイスは必要なく、聞くだけで助けになる。
④手助けすること
 買い物や子どものお世話、家の掃除を手伝うなど。直接するのではなく、サポートシステムにつなぐ事も必要。
⑤同じ体験をした人たちのグループを紹介する
 同じ体験をした人同士が悲しみを和らげる可能性がある。

 ソーシャルワークハプニング的に、当時の状況や自身の感情を振り返ってみると、障害児家庭で育った私のアイデンティティと、小児科クリニックでの福祉サービスを積極的にコーディネートする方針も相まってか、直接支援もコーディネートも両方を担ったときに、強く感情移入もしてしまい、3人称の関係から2.5人称の関係となり、境界線を越えたことで罪悪感を抱えがちとなり、過活動になっていたように感じます。

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 クリニック時代の、私の週間スケジュールです。今も昔も、仕事が大好きな私にとっては、毎日仕事をしていても苦には感じなくて、毎日楽しいのですが、それでも給水所(レスパイト)は必要です。
 わたしの2017年4月から2019年3月までのスケジュールです。
①援助者のレスパイト
 2018年8月、土曜日の居宅介護が2人介助となりました。入浴を2人体制となったことで、お子さんも安心して入浴ができるとおもに、援助者にとっても伴走者がいることは、感情面のレスパイトとなりました。
②無力感からの解放
 マラソンやおもちゃづくり、料理など、仕事以外の時間を作るようにしました。人生初めての献血は、私の人生に大きなエピソードがとなりました。ある意味、福祉職に唯一できる医療行為のような気もしてきます。
③主治医に体調確認や相談ができた
 さいわいこどもクリニックの職員を兼任していたからこそできた荒業だったと思います。当時4か所の事業所の名札と名刺を持ち歩いてもっていたわたしにとって最大の強みはこれかもしれません。一部の方より、多重関係ではないかとバッシングは受けましたが。
④がんについての理解
 AYA世代のピアサポーターさん、前田先生のお話しは胸に打たれるものがあり、講演会中に大泣きしてしまい、むそうの職員に心配されるという出来事もありましたが、そこで覚悟が決まったような感覚があります。
⑤死生観の構築
Not doing but being(なにかすることではなく、そばにいること)という言葉が私を救ってくれました。

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子どもたちの物語はつづいていきます。
子どもたちとご家族の幸せのためにこれからも地域で、みなさんと一緒にご支援させていただければさいわいです。

ありがとございました。 増子邦行

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