ハロウィンの日
◯あいさつ
みなさん、こんにちは。
ちゃーりー(標準体型)です。
先日、街で顔見知りの小さな魔法使いが、元気の良い挨拶をしながら魔法の呪文を教えてくれました。
曰く「ハロウィンの日に、trick or treatって言うとお菓子が貰えるんだよ!」
なるほど。小さな魔法使いが言うと「もてなせ。さもなくば悪事をもって応えるぞ」という台詞も、可愛らしくなるのだなぁ。
これはそんな出来事から思いついた、物語。
◯ハロウィンの日
脚の生えた幽霊が跳び回る。幽霊の隣には、綺麗な後ろ歩きを披露する犬。その犬のリードを持っているのは、包帯をぐるぐる巻きにした元気の良いミイラだ。
中には、最近アニメで観たキャラクターや、お腹を冷やしてしまいそうな妖怪人間もいる。
商店街は、ハロウィンの真っ最中だった。
私はハロウィンが何のお祭りなのか、よく分かっていない。
だから、ハロウィンの前に図書館で本を読むのが好きな友達と一緒に勉強した。
友達は物知りで、私がハロウィンについて勉強したいって言ったら、すぐに本棚へ案内してくれた。
それに、「私たちの地域では、元々ハロウィンに馴染みが無かったから仕方ないよ」って、励ましてくれた。
私は不思議に思い、友達に聞いた。
「でも、みんなが楽しみにしているのはどうして?」
そう聞くと、友達は、難しいね。と、苦笑いを浮かべた。
「どうしてだろう。たぶん、普段できない事ができる日だからじゃないかな? 学校でバーベキューとか、そういう事が出来たら、楽しそうでしょ?」
「それは楽しそうだね! いつもだったら、先生が怖い顔するだろうなぁ。……もしかして、あなたは楽しみじゃない?」
「まさか。楽しみだよ。だって、私たちはその日、1日だけ魔法が使えるようになるんだから」
私は友達の言葉に驚き、目を見開いた。
魔法が使えるようになる?!
私は読んでいた本と友達を見比べて、鼻息を荒くした。
「ハロウィンの日に魔法が使えるようになるなんて、何処にも書いていないよ?! でも、あなたがそう言うんだもの、きっと本当のことなんでしょう!」
友達は柔らかく笑うと、口を手で隠して、そっとささやいた。
「ハロウィンの日に、魔法使いの格好をして呪文を唱えるんだよ。trick or treat.お菓子くれなきゃイタズラするぞ。って」
「そうすると、どうなるの?」
「そうすると、相手はお菓子をあげたくて仕方なくなっちゃうんだよ」
私は友達が教えてくれた呪文を、何度も練習した。トリックオアトリート。おかしくれなきゃいたずらするぞ。トリックオアトリート。おかしくれなきゃいたずらするぞ。
呪文の練習をしながら、友達の家で魔法使いの衣装も仕立てた。魔法の呪文を教えて貰ったんだから、相応しい格好で唱えたかったのだ。
私たちは、ハロウィンを一緒に過ごす約束をした。
覚えたての魔法を披露するのは、近所の商店街で決まった。
そして、ハロウィンの日。
商店街に、2人の魔法使いが降り立った。いや、本物の魔法使いは1人だけで、もう1人は見習いなんだけど。
「trick or treat.お菓子くれなきゃ、イタズラするぞ」
友達が呪文を唱えると、お魚屋さんのお母さんはびっくりして、小さな魚の形をした飴をくれた。
「どうしましょう。なんだか、お菓子をあげたくて仕方がないわ!」
お母さんがくれた飴は、本物の魚を飴に変えてしまったみたいで、ちょっとだけ可哀想。だけど、とっても綺麗だった。
友達は恥ずかしそうに笑って、私の後ろに隠れて言った。
「私だけじゃないぞ。ここにも魔法使いがいるんだから。ほら、呪文を唱えて」
私は友達に背中を押されて、口をもごもごさせながら、やっと言った。
「トリック、オア、トリートぉ……。お、おかしくれなきゃ、いたずらするぞぉ」
「んん? なんだい小さな魔法使いさん。今日のオススメはカマスだよ」
呪文を唱えたけれど、お魚屋さんのお母さんは平気そうな顔をしている。
きっと、呪文が聞こえなかったせいだ。
私は焦り、声を大きくして言った。
「トリックオアトリート、おかしくれなきゃ、いたずらするぞ!」
その途端、お母さんはびっくりして、私の前にたくさんの飴を差し出した。
「あれ、どうしましょう! なんだかお菓子をあげたくて仕方がないわ!」
私はお魚屋さんのお母さんが差し出した飴の中から、綺麗な赤い魚を貰って、友達に振り返った。
友達はやっぱり恥ずかしそうに笑って、私の手を引いた。
「今度は隣の雑貨屋さんだよ!」
お店を飛び出すと、街中に溢れた幽霊や怪物たちが声高に歌い出す。
「ハッピーハロウィン! 同胞たちに祝福を! ハッピーハロウィン! 聖なる恵みに感謝を!」
ハロウィンの日。
私たちは、魔法使いになった。
◯おわりに
トップイラスト みんなのフォトギャラリー うさうさん様提供 よりお借りしました。
素敵なイラストをありがとうございます。
noteユーザーのみなさんからいただいた良い刺激を、少しずつお返し出来たら幸いです。
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